プレスリリース
株式会社HACARUS (以下、HACARUS) は『次世代の「はかる」をあらゆる産業に』をミッションとするAIソリューション会社です。
HACARUSでは、2021年4月からダイキン工業株式会社様(以下、ダイキン)の技術者を在籍出向社員として受け入れる取り組みを開始しました。HACARUSとダイキンは、2023年4月から資本提携し、合わせて業務提携を開始しています。(参考:プレスリリース)
この記事では、出向元であるダイキン工業テクノロジーイノベーションセンター 主任技師の藤本さんと、実際にHACARUSに出向された石破さん、岡村さんからインタビュー形式でお話しをお伺いしました。
大企業の技術社員がベンチャー企業に在籍出向する理由とは
――HACARUS代表取締役COOの染田です。今日はよろしくお願いします。この出向プロジェクトの立役者ともいえる藤本さん、まずは自己紹介をお願いします。
ダイキン工業株式会社テクノロジーイノベーションセンター 主任技師 藤本さん
藤本さん: ダイキン工業株式会社テクノロジーイノベーションセンター 主任技師の藤本です。私は、Windows95が発売された頃にプログラマーとして社会人1年目をスタートし、その後はSE、BPMコンサル 、ITコンサルを経験してきました。新型コロナウィルスの第1波流行真最中の2020年4月にダイキンにキャリア入社し、SCM/ECM領域や製造現場のDX化、社内データマネジメントを推進・支援する業務に従事しています。当社への転職直前は、企業におけるデータ活用の戦略、構想、企画の支援などを担当していました。
ダイキンは今、空調事業を中心に、世界170カ国以上で事業を展開しています。社会や地域が抱える課題の解決と事業の成長の2つの両立を通じて、人々の健康と快適を支え、空気と環境の新しい価値を創造しています。
そのような中、私たちが所属する「データ活用推進グループ」では、『データを切り口に、デジタル技術を駆使してダイキンのあらゆる「現場」を変革していく』というミッションを持ち、様々な事業部と業務改革/改善に取り組んでいます。
株式会社HACARUS 代表取締役COO 染田
――御社では、技術者の教育にも力を入れて取り組まれていますよね。
藤本さん : はい。特に、AI/データ分析技術は、当社グループにおけるあらゆる部門での活用が期待される重要な技術であり、それを推進する人材の育成は喫緊の課題でした。@AI活用(ビジネス提案力) AAI技術開発(AIでの問題解決力)Bシステム開発(AI具現化力)の3分野の人材がともに必要になりますが、当初、社内の技術者については、質・量ともに不足しており、早期に強化・育成する必要がありました。その施策として、ダイキン情報技術大学(以下 : DICT)を計画的な人材育成を目的に2017年12月から開始し、本年度で6年目となります。
―― IT技術とビジネス知識の二本柱を持つ人材の育成を目標にされているのですね。通常業務を2年間免除する、企業内大学での徹底した人材教育制度ですね。すでに先進的な人材教育の取り組みをされていますが、他にも課題があったのでしょうか?
藤本さん : そうですね。高度なデジタル人材のロールモデルがダイキン社内に存在せず、DICT修了生がキャリアプランを描き辛い状況にあったことです。DICT修了生が、自らの技術レベルを更に高めてくれる高度人材の中に入り込み、育成を加速させることが必要でした。
――そんな中で出てきたのが、企業や大学などへの出向や留学を通じた育成だったのですね。
藤本さん : はい、育成を強化したい技術分野の企業へ技術者を出向させることが、高度な人材をより早期に育成することに繋がると考えています。
――弊社を出向先として選定いただいた理由はどう言ったところにありますか。
藤本さん : 当社がデジタル人材の育成方針の参考としている滋賀大学データサイエンス学部河本薫教授をアドバイザーに迎えられており、データ活用に対する共通理解があるため、実践経験を積む場として適切であると考えました。弊社のメンバーが御社の高度人材に囲まれた中で、チームとしてテーマに取り組むことにより、良い刺激を受け成長させていただけること、御社ソリューションを使用した弊社テーマを推進、加速させることが期待することでした。
データサイエンティスト集団の中でAI開発業務を学ぶことが出向のモチベーション
――ありがとうございます。では、ここからは実際に弊社に出向いただいたお二人にもお話しを聞いてみたいと思います。それではまず石破さんから自己紹介をお願いします。
ダイキン工業株式会社テクノロジーイノベーションセンター 石破さん
石破さん : ダイキンの石破です。大学の専攻は機械系で、2018年入社時から始まったDICTでの二年間の社内研修で初めて情報学系の技術に触れました。1年間は座学研修でAI/IoTについて学び、2年目はOJTで事業部での実地研修の後、HACARUSへ出向になる前までは画像検査自動化プロジェクトでアルゴリズムの適用可能性検証や撮像システムの構築に取り組んでいました。HACARUSでは、主に画像分析業務を担当し、メインは病理画像における異常部位の検知自動化プロジェクトチームにアサインされていました。具体的に業務内容としては特徴量エンジニアリングから適用モデル検証、検証結果報告資料の作成、お客様への報告まで、データ分析における一連の業務を担当しました。
ダイキン工業株式会社テクノロジーイノベーションセンター 岡村さん
岡村さん : ダイキンの岡村です。石破さんと同じ2018年にダイキンに入社し、1年目はDICTの1期生としてAI/IoTについて学ぶことに集中させてもらっていました。その後2年間、研究用GPUスパコンの構築・運用に携わった後、出向前まで工場でのDXの一環として、目視検査を代替する検査アプリの導入・実装を行ってきました。
HACARUSでは、AI外観検査システム 「HACARUS Check」および「HACARUS Check Basic 」アプリのフロントエンド開発に携わらせていただきました。主には、モデル学習を行う為の学習用データを抽出してデータセットを作成する機能、検査用マスクをアプリ上で作成・編集する機能等の実装を担当させていただきました。
――ありがとうございます。お二人は同期なのですね。大企業に所属しながらベンチャー企業へ出向することは、さまざまな観点でチャレンジングだったのではないかと思います。どのような期待感を持って、HACARUSへの出向に手を上げられたのですか?
石破さん : 大きく3点あります。研修が終了した2020年当時、弊社内のデータサイエンティストの数はそれほど多くなく、自己流かつ1人でプロジェクトを進めていました。そんな中、チームでデータ分析業務をどのように実施するのかや、データ分析のアプローチなど、本来のデータ分析業務を知りたかったんです。また、出向前当時の業務は社内向けのプロジェクトで、成果物に対してある意味融通の利く状況であったので、お客様が社外の場合はどういった形で成果物を準備するのか実務で経験したいと思っていました。さらに、一般的に言われるベンチャーと大企業との業務のスピード感の違いを経験したかったという点も出向のモチベーションになっていました。
岡村さん : 私の場合は、同僚や先にHACARUSへ出向していた石破さんから「岡村の気質はベンチャーに向いていそう」と言われることがあり、実際ベンチャーでの仕事ってどんなものなのだろう、と興味があり、手を上げました。
また、ダイキンで私の所属する部署は2020年に新設されたばかりの部署で、DICT卒業後に参加したメンバーがそれぞれテーマに取り組んでいる状態でした。この度の出向では、HACARUSで行われているチーム開発や、製品の手離れを考えた標準化の考え方等を持ち帰りたいという目的もありました。
――ダイキンに在籍しながら弊社への出向を通じて、ベンチャー企業での業務を経験いただける点を魅力に感じていただいたのですね。現状に満足することなく向上心を持って弊社に参画いただけたこと、HACARUSとしても非常にありがたいです。出向前に不安に思われていたことはありましたか。
石破さん : ダイキンからHACARUSへ出向するのは私が初めてだったので、どこの馬の骨かもわからない新米の私を、HACARUSの皆さんに受け入れてもらえるか、仕事についていけるかなど不安を挙げればきりがなかったと思います。
岡村さん : ベンチャー企業といえば少数精鋭で開発を行っているイメージがあり、これまで我流でやってきた技術が通用するかというのは少し不安でした。
実際に感じたベンチャーのスピード感、大企業とのギャップ
――実際に弊社へ出向されてみて、いかがでしたか。印象的だったことはありますか?
岡村さん : ベンチャーならではのスピード感を出向当初から強く感じました。私はこれまで主にダイキン社内の人たちを相手に仕事をしていたため、色々と融通が利きやすい環境の中、余裕を持ってテーマに取り組んでいました。ですので、出向当初は「随分無茶な予定を立てるな」とも思った記憶があります。C#での開発も、フロントエンドの開発もほとんど経験がなかったので、周りのチームメンバーの方々との技術的な力量差をかなり感じました。出向途中に開発・サポートに参加された方々も凄い方ばかりで、ついて行くだけで精一杯でした。そんな中で目標に向かって走り続ける内に、その目標は現実化していき、またPoCやお客様とのお話の中でどんどんより良い形へとブラッシュアップされていく様は非常に印象的でした。技術面についてはチームの皆さんが丁寧にフォローしてくださいました。
石破さん : チームでのデータ分析の経験がなかったので、とにかく初めの頃は周りの方にしがみつくのに必死でした。幸いにもプロジェクトメンバーの方々にフォローいただき何とかキャッチアップできました。 HACARUS技術者メンバーは、バックグラウンドが様々で、知識領域の広さには驚きました。またプロジェクトメンバーのデータ分析力やエンジニアリング力がとても高かったです。ベンチャーというと血の気が多い方が多い印象がありましたが、HACARUSには穏やかな方がむしろ多かった印象です。
印象に残っている出来事は、担当していたプロジェクトの継続契約をクライアント様から頂けたことです。クライアント様へ分析の内容をどのようにお伝えするのが良いか、これまで経験がなかった私にとっては難しく、チャレンジでした。分析結果報告の際には鋭い質問を度々いただいていたのですが、分析からレポーティングまで、一定程度評価いただけたのかなと思い、やりがいを感じました。
――弊社での出向を通じて感じられた、大企業とベンチャー企業のギャップはありましたか?
石破さん : 業務として取り組む範囲が大きく異なりました。ベンチャーでの価値創出の方向性は柔軟なので、データ分析を主軸とした狙いはありつつも周辺を含めた広い領域で業務を行うのに対して、弊社では出来上がったビジネスモデルの中でどのように価値を出すかというところに注力していたので取り組みの範囲としては狭いのではと思います。
岡村さん : 開発部門以外の部門のメンバーや経営層の方々との距離の近さですね。CEOの藤原さんとは、ふとしたタイミングで昼食をご一緒させていただく機会もありました。また出向最終日の送別会の際には営業の方に、「岡村さんが実装した追加機能をバリバリ使っています」とも言って頂き、開発とビジネス部門の距離の近さを実感しました。
また、会社が成長真っ只中で、HACARUS Checkの開発チームメンバーは、出向当初からの1年間で倍ほどまでに増えていました。まさに会社が大きくなるその過程というものをリアルに見させていただきました。
1年間の武者修行。ベンチャー企業での学びと成長とは?
――石破さんは出向から戻られて1年と少し、岡村さんは数ヶ月が経過しました。藤本さんの立場で感じられるお二人の成長や変化はありますか?
藤本さん : 石破さんは、出向前よりも、自らの技術に対して自信を持って取り組めるようになったように思います。また、利用者にとっての利点や享受できる利益は何なのかを以前よりも意識してテーマに取り組むことが出来るようになりました。岡村さんは、製品開発のチームに参画させていただいていたこともあり、利用者視点で物事を考えることが以前よりも出来るようになったように思います。さらにテーマや作業の納期感を以前よりも明確に持つことが出来るようになりました。また、2人ともチームでの開発を経験し、ダイキンに戻ってからの業務でも、チーム開発のイメージを持てるようになったと思います。
――1年間の出向期間を経て、お二人が感じられたご自身の変化や気付き、成長はありますか?
石破さん : まずは分析力、分析過程や結果の見せ方についての意識、分析スピードのそれぞれのレベルが上がったように思います。(HACARUSメンバーに到底追いつきませんでしたが… )
また、複数のプロジェクトを経験させていただき、課題設定の重要性について気付かされました。AIリテラシーの高くないクライアント様や、アセスメント依頼の課題設定自体に再考の余地があるものもありました。その点で課題の見極め力みたいなところも養われたように思います。ダイキンに戻ってからは、導入には至らなかったものの、外観検査がテーマのPoCを実施し、データ取得から分析、レポーティングまで、外観検査システムの導入可能性検討を短期間で実施することができました。HACARUSでの経験を大いに活かすことができたプロジェクトです。
岡村さん : AI外観検査システム「HACARUS Check」について、プロトタイプの時代から、ハード・ソフト共に様々な進化を経て最後にはお客様のもとへ機器が納品され、その後の顧客サポートや、さらにはその先を見据えた開発まで経験させて頂きました。
その過程で行われた議論や開発の視点、考え方はダイキン社内の方を相手にしていたこれまでの私にはないものが多くあり、出向前に比べて様々な所で仕事での視野が広くなったように感じています。
まだダイキンに戻って間もないですが、これから日々の業務でHACARUSでの経験が様々に活かせる場面が出てくると思いますので、学んだ経験を存分に発揮していきたいと思います。
――最後に今回の出向についてのご感想と、出向をご経験されたお二人が今考えられているこれからのキャリアについてのご展望についてお聞かせいただけますか?
石破さん : 社会人になってからこれだけ学ばせていただけることは他ではまずないことですし、そもそもこの教育制度がなければ私は情報系の分野に足を踏み入れてないことを思うとある意味人生を変えていただいたと思っており、ダイキンには感謝しています。また出向制度に関しては社内にとどまらず外の世界を見ることができたという点で大きな経験でした。出向前に想像していたものと実際は少なからず違っていましたし、やはりジョインしないとわからないことも多々あると思います。戻ってからの業務では、自信をもって仕事に取り組むことができるようになりました。やはり外の世界を見るだけでなく体感することができたことがとても貴重な経験となりました。
岡村さん : DICTを経て社内の人たちを主に相手にする部署へ…という流れで、これまで「箱入り」で育てて頂いてきました。この度の出向では、その「箱」から出てお客様に近い場所で働く、ということで非常に得難い経験をさせて頂いたと思っています。大変だと感じることも色々とありましたが、ダイキンではできない経験を沢山させて頂き、また様々なノウハウを持ち帰ることができたように思います。とても実りの多い出向をさせて頂いたように感じています。
――今回の出向を通じて、将来のキャリアに関する考えに何か変化はありましたか?
石破さん : 出向する前は、データサイエンティストの仕事というと、アルゴリズムを一から作るイメージが強かったのですが、作られた技術をどう現場に展開していくのか、どう活用していくのかというところのスキルを伸ばして行きたいなと思うようになりました。
――実際に現場に適用するプロセスに興味や関心を持たれたのですね。
石破さん : そうですね。HACARUSでの業務を通じて、アルゴリズムそのものだけではなくどのように現場に適用していけば良いのかというプロセスを体験したことで、その部分の仕事の面白さややりがいを知りました。
――岡村さんはいかがでしょうか?
岡村さん : 私は、色々とやってみてからキャリアについても決めていこうと考えているタイプで、今時点では明確にキャリアビジョンを持っているわけではないのですが、今回の出向を通じて色々なことを経験し、知ることができたので、今後の選択肢や可能性の幅が広がったと思っています。
藤本さん : データ活用推進グループ(特に二人が所属しているチーム)でやっていることは、ダイキンの現場の業務改革/改善のためのプロジェクトが中心です。社内向けのプロジェクトということもあり、スケジュールについても柔軟に調整できるところがあります。今回2人は、社外のお客様に向けたプロジェクト内にて”納期を守ること”が次の契約に直結するということを経験させていただき、納期意識が高くなっていると感じていますダイキンに戻ってきて、その意識を継続して持ちながら仕事をしてもらいたいと思っていますし、周囲のメンバーに対しても良い影響を与えてもらいたいと考えています。
岡村さん : 最初の12ヶ月ほどはダイキンでの仕事と同じようなスピード感、雰囲気で仕事をしていたのですが、実はHACARUSのメンバーから指摘をもらって意識が変わりました。
――そうだったんですね。岡村さんに参画いただいた製品開発チームはしっかりとマイルストーンを定めて開発をすすめていると思います。
岡村さん : はい、最初はスピードについていくのがやっとというところがあったのですが、徐々についていけるようになっていたと思ってます。終えてみると、なんだかんだでなんとかなるものなのだなと感じています。
――お客様へ価値を届けられるものを、できる方法でなんとか作り上げるということを、そのビジネスの最初の段階から開発して実現するところまで全体像をもちながら「ご自身でなんとかやり遂げる」ご経験をしていただけたのは良かったかも知れません。これはスタートアップならではの経験だと思います。
――最後に、出向者を送り出す側の立場として、藤本さんのご感想はいかがでしょうか?
藤本さん : 今回の出向を通じて、当初目的としていた、@実際の顧客と相対する現場において、要件定義などのプロセスを通して、より高度で専門的な経験を積むことにより課題設計力を強化すること、AHACARUS製品開発に携わることを通じて、商用品質レベルのAIシステム開発の知見を獲得することが実現できました。今後もダイキンの人材育成の場として継続して人材の交流ができればと思います。
――ありがとうございます。受け入れ側として何かと至らない点も多くあったかと思いますが、少しでも我々がダイキン様のお役に立てた部分があれば大変光栄に思います。出向社員さまをお迎えする弊社の立場といたしましては、AIを導入する企業様の考え方や知見を取り込むことができること、企業に所属するAI人材が増えること自体が我々と事業会社とのAI開発をよりスムーズに進めることに繋がると考えており、こういった取り組みは今後も継続していきたいと考えています。改めまして、藤本さん、石破さん、岡村さん、ありがとうございました。