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【国立科学博物館】サクラマスの感覚が短期間で鈍る可能性〜魚類の飼育方法に一石を投じるデータ〜

(PR TIMES) 2022年11月05日(土)04時40分配信 PR TIMES

 独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田謙一)の中江雅典研究主幹(動物研究部脊椎動物研究グループ)は、国立研究開発法人水産研究・教育機構の長谷川功主任研究員と宮本幸太主任研究員との研究グループにて、13世代以上継代飼育*1されたサケ科サクラマスの側線系(水流や振動を感知する感覚器)の受容器数が、野生魚よりも約10%減少していることを発見しました。魚類が人工的な環境で比較的短期間に感覚器の受容器数を減少させている実例であり、魚類の人工繁殖方法あるいは飼育方法の改善への基礎的データを提供するものです。この研究成果は2022年10月6日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究のポイント

・養魚場内で約13世代にわたり継代飼育されたサケ科サクラマス(降海型)では、側線系(水流や振動を感知する感覚器)の受容器数が、野生魚よりも約10%減少していることを発見しました。
・同じく約38世代にわたり継代飼育されたヤマメ(サクラマスの河川型)でも同様の傾向があることがわかりました。
・さらに、サクラマスの降海型(尻別川水系)と河川型(多摩川水系)との受容器数の違いよりも、野生魚と継代飼育魚との違いの方が大きいことも発見しました。
・継代飼育魚の自然環境下での生存率の低さは、側線系の受容器数が少ないことも影響している可能性があります。
*1継代飼育:生物を何世代にもわたって飼育下で繁殖させること。野外から採集し、飼育を開始した個体から生まれた子をF1、F1の子をF2....と呼ぶ。


研究の背景

 側線系(図1、2)は、魚類と水棲の両生類に特有の感覚器であり、水の流れや振動を感知する働きがあります。目のない魚は発見されていますが、側線系のない魚は発見されておらず、魚類にとって非常に重要な器官です。
 米国の人工的な環境で何世代も継代飼育されたニジマスにおいて、側線系の受容器数が野生魚よりも減少していることが2013年に報告されました。しかし、この報告・研究では継代飼育の世代数が不明確であり、継代飼育魚の産地が野生魚と異なっていました。また、側線系の受容器を全身ではなく約半数の要素でのみ観察・計数しているとの問題点がありました。
 そこで、日本産のサクラマスにおいて、継代飼育魚の世代数や由来が明確な個体を用いて全身の側線系の受容器を観察・計数し、実際に継代飼育魚で側線系の受容器数が減少しているか否か、厳密に検証しました。


[画像1: https://prtimes.jp/i/47048/519/resize/d47048-519-8b56ed5479fdf105bbed-0.jpg ]



[画像2: https://prtimes.jp/i/47048/519/resize/d47048-519-cc693fa5bac72c745fd2-4.png ]




研究の内容

 北海道尻別川水系のサクラマス(降海型)を用いて、野生魚、人工孵化魚の1世代目(F1)、人工孵化を約13世代繰り返した、いわゆる継代飼育魚(F13)の全身の側線系の受容器を観察・計数し、比較しました。また、東京都多摩川水系のヤマメ(サクラマスの河川型)でも、野生魚と国内2か所の養殖場で飼育されていた継代飼育魚(約38世代目)を用いて同様の研究を行いました。
 その結果、約13世代にわたり継代飼育されたサクラマスでは、側線系の受容器数が、野生魚よりも10%程度少なくなっていることを見出しました(図3)。また、約38世代にわたり継代飼育されたヤマメ(サクラマスの河川型)でも同様の傾向があることがわかりました。さらに、サクラマスの降海型(尻別川水系)とヤマメ(サクラマスの河川型:多摩川水系)との受容器数の違いよりも、野生魚と継代飼育魚との違いの方が大きいことも発見しました(図4、5)。


[画像3: https://prtimes.jp/i/47048/519/resize/d47048-519-6d77840a508f25190b62-5.png ]


注)側線系の受容器は、頭部の骨や鱗の中空の管(側線管)の中に位置する管器感丘(Canal Neuromast:CN)と、皮膚や鱗の表面に位置する遊離感丘・表面感丘(Superficial Neuromast: SN)の2タイプがある。機能は重複するものの、基本的に管器感丘(CN)は水の振動や加速度を感知し、遊離感丘(SN)は水の流れる速度を感知すると言われる。


[画像4: https://prtimes.jp/i/47048/519/resize/d47048-519-cba16455ecb5aebd2f64-6.png ]



[画像5: https://prtimes.jp/i/47048/519/resize/d47048-519-bdea8e040aa402828796-8.png ]




当研究成果から期待されること、今後の課題

 本研究では、魚類が人工的な環境で比較的短期間に感覚器の受容器数という表現型*2を変化させている実例を発見しました。側線系は重要な感覚器であり、当研究成果は魚類の人工繁殖方法あるいは飼育方法の改善に寄与することが期待されます。ただし、受容器の数以外でも変化があるのか(例えば、受容器のサイズ・能力)、受容器数の減少が自然環境下での成長や生残に不利になっているのか、野生魚の地域個体群でどの程度の差異があるのか、受容器数に年による変動があるのか、サクラマス以外の魚種ではどうかなど、まだまだ不明な点が残っています。今後、様々な観点での追跡的な調査が必要です。

*2表現型:生物の個体が形質として発現させた形態的・機能的・生理的特性であり、遺伝子型と環境の相互作用により表出する。


発表論文

表題:Domestication of captive-bred masu salmon Oncorhynchus masou masou (Salmonidae) leads to a significant decrease in numbers of lateral line organs
(継代飼育サクラマスの家畜化は側線系受容器数の有意な減少を引き起こす)

著者:中江雅典(国立科学博物館)・長谷川功・宮本幸太(水産研究・教育機構)

掲載誌:Scientific Reports
(URL) https://doi.org/10.1038/s41598-022-21195-3
本研究は、科学研究費補助金(17H03859、19K06214および26840132;研究代表者中江)の支援および国立科学博物館の総合研究「環境変動と生物変化に関する実証的研究」の研究費を受けて行われました。



プレスリリース提供:PR TIMES

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