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学校法人明治大学

軟骨魚類の苦味受容体遺伝子を発見〜脊椎動物の苦味感覚の起源に迫る〜

(PR TIMES) 2024年04月09日(火)15時15分配信 PR TIMES


明治大学 研究知財・戦略機構研究員(日本学術振興会特別研究員PD) 糸井川壮大、農学部特任講師 戸田安香、同教授 石丸喜朗、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所教授 工樂樹洋の研究グループは、従来、苦味を検知する受容体を持たないと考えられていた軟骨魚類(注1)のサメやエイが苦味受容体遺伝子を持つことを発見しました。この発見により、脊椎動物の苦味受容体の進化的起源が従来の説よりも古く、有顎類(注2)の共通の祖先まで遡れることを明らかにしました。

研究成果は、2024年4月9日(火)0時(日本時間)にCurrent Biology(カレントバイオロジー)誌にオンライン掲載されました。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/113/119558-113-6b9881042c585981cf262518cc2f1671-2203x1300.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
研究に使用した軟骨魚類(イヌザメ)[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/113/119558-113-71fdd8b15129095652b5ab8ec8fddbd6-2204x1300.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
研究に使用した軟骨魚類(アカエイ)
1. 本件のポイント
・軟骨魚類が苦味受容体T2Rを持つことを発見
・サメやエイのT2Rが口腔で発現し、苦味物質を検知することを発見
・脊椎動物の苦味受容体T2Rの進化的起源が従来の説よりも古く、有顎類の共通祖先まで遡れることを解明
2. 研究の背景
苦味感覚は、主に有害物質の摂取を回避する機能を持ち、動物の生存に重要な役割を果たします。脊椎動物では、苦味はGタンパク質共役型受容体(GPCR)(注3)の一種であるT2Rによって検知されます。脊椎動物は、T2Rを含めて6種類のGPCR型化学感覚受容体(注4)を持っており、その内訳は、2種類の味覚受容体(T1RとT2R)と4種類の嗅覚受容体(OR, TAAR, V1R, V2R)です。これらの受容体のうち、T2Rを除く5種類の受容体は有顎類に広く見られますが、T2Rだけはこれまで硬骨脊椎動物(注5)でのみ見つかっていました。そのため、T2Rの起源は他の化学感覚受容体よりも遅く、硬骨脊椎動物の共通祖先にあると考えられてきました。しかし、脊椎動物の進化過程で、条鰭類(注6)よりも早期に分岐した軟骨魚類や円口類(注7)に本当にT2Rが存在しないのかは、これまでゲノム情報の集積が不十分であったため、十分な調査がなされていませんでした。
3. 研究の内容
研究グループは、近年充実した軟骨魚類・円口類のゲノム情報からTAS2R遺伝子(注8)(T2Rを作る遺伝子)を網羅的に探索しました。その結果、ゲノム配列に対する相同性検索(注9)を繰り返し行うことによって、これまでTAS2R遺伝子を持たないと考えられていた軟骨魚類にもTAS2R遺伝子が存在することを発見しました(図1)。発見したTAS2R遺伝子は、軟骨魚類に固有の遺伝子であり、TAS2R遺伝子の進化の中でも初期に誕生したものであることが示唆されました。また、興味深いことに、条鰭類や四肢動物が一般的に複数のTAS2R遺伝子を持つのに対して、軟骨魚類はどの種も最大で1つしかTAS2R遺伝子を持たないことがわかりました。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/113/119558-113-36a938ead8411d7ff892e4369740e3af-995x1187.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1 軟骨魚類の系統関係と苦味受容体遺伝子の数
さらに、研究グループは、培養細胞を用いて、軟骨魚類T2R受容体がどのような化学物質を受容するのかを調べました。その結果、サメとエイのどちらのT2Rも数種類の苦味物質によって活性化されることがわかりました。また、イヌザメとアカエイではTAS2R遺伝子が口腔に分布する味蕾(注10)に発現していることも明らかとなりました。これらのことから、サメやエイでも硬骨脊椎動物と同様にT2Rが口腔での有害物質の検知に用いられていると考えられます。

今回の発見により、T2Rが従来考えられていたよりも進化的に早期に分岐した「有顎類の共通祖先」で出現したことが明らかとなりました(図2)。同じGPCR型味覚受容体である甘味・うま味受容体T1Rも有顎類の共通祖先で生じたことから、顎の獲得と咀嚼行動の進化という脊椎動物の摂食行動に関わる重要な進化イベントと連動して、嗜好性・忌避性双方の味覚受容体の多様化が起こったと考えられます。今回の研究では、軟骨魚類という実験動物ではない動物たちが、私たちが日々当たり前に使っている味覚の起源はいつなのか、を解明するための大きな手掛かりを与えてくれました。今後も様々な脊椎動物を対象に研究を進め、味覚の多様性と進化の仕組みを明らかにしていきたいと考えています。
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/113/119558-113-240538e81ef38c707fbc6c5efc3722c8-1032x1157.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2 苦味受容体T2Rの進化について、従来の説と本研究の説の比較
4. 発表論文
<タイトル>
Evolutionary origins of bitter taste receptors in jawed vertebrates
(有顎類における苦味受容体の進化的起源)

<著者名>
糸井川壮大、戸田安香、工樂樹洋、石丸喜朗*
*責任著者

<掲載誌>
Current Biology

<DOI>
10.1016/j.cub.2024.02.024
5. 研究グループ
明治大学 農学部農芸化学科 食品機能化学研究室
 教授 石丸 喜朗(いしまる よしろう)
 特任講師 戸田 安香(とだ やすか)

明治大学 研究・知財戦略機構
 客員研究員(日本学術振興会特別研究員)糸井川 壮大(いといがわ あきひろ)

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 分子生命史研究室
 教授 工樂 樹洋(くらく しげひろ)

6. 研究サポート
本研究は主に、日本学術振興会 科学研究費助成事業、公益財団法人ロッテ財団 ロッテ重光学術賞、明治大学科学技術研究所 重点研究Bのサポートを受けて実施されました。

7. 用語解説(注釈)
1. 軟骨魚類
有顎類(注2)の下位分類群のひとつで、全身の骨格が軟骨で構成されていることが特徴である。ギンザメ類とサメ・エイ類からなる板鰓類に大別される。

2. 有顎類
脊椎動物の下位分類群のひとつで、上顎と下顎からなる顎を持つことが特徴である。現生の脊椎動物では円口類(ヌタウナギとヤツメウナギ)(注7)を除く、全ての脊椎動物が含まれる。

3. Gタンパク質共役型受容体(GPCR)
味物質や匂い物質、光、ホルモン、神経伝達物質などを感知する膜タンパク質。細胞膜を7回貫通する特徴的な構造を有し、Gタンパク質と呼ばれるタンパク質を介して細胞内に情報を伝達する。

4. 化学感覚受容体
味覚と嗅覚を総称して化学感覚と呼び、呈味物質や匂い物質を検知する受容体(味覚受容体や嗅覚受容体)を化学感覚受容体と呼ぶ。

5. 硬骨脊椎動物
有顎類の下位分類群のひとつで、四肢動物(哺乳類+鳥類+爬虫類+両生類)、シーラカンス、ハイギョ、条鰭類(殆どの硬骨魚類)(注6)を含む。サメやエイなどの軟骨魚類は含まれない。

6. 条鰭類
硬骨脊椎動物の下位分類群のひとつで、ハイギョとシーラカンスを除く全ての硬骨魚類を含む。

7. 円口類
脊椎動物の下位分類群のひとつで、上顎と下顎からなる顎を持たないことが特徴である。現生の脊椎動物の中で最も初期に分岐した分類群であり、ヤツメウナギとヌタウナギを含む。

8. TAS2R遺伝子
苦味受容体を構成する遺伝子で、ここからT2R受容体タンパク質がつくられる。多くの有顎類が複数のTAS2R遺伝子を持ち、その数は種ごとに異なる。

9. 相同性検索
指定したDNA配列もしくはアミノ酸配列と類似した(相同性のある)配列を配列データベースから検索する手法

10. 味蕾
舌や口腔に存在する蕾上の器官。数十個の味細胞で構成され、味細胞に発現する味覚受容体が味物質を検知する。



プレスリリース提供:PR TIMES

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