プレスリリース
国際的にも高い評価を受ける河原温の代表作である「Today」シリーズの作品も併せて展示し、二人のアーティストの概念世界を響かせ合う展覧会
KOTARO NUKAGAは東京、有楽町の「M5 GALLERY」にて、昨年3月にKOTARO NUKAGA(天王洲)で個展を開催した井上七海の作品による展覧会「アキレスと亀」を企画、3月9日(木)から3月31日(金)の期間で開催します。本展では日本を代表するコンセプチュアル・アーティストであり、国際的にも高い評価を受ける河原温の代表作である「Today」シリーズの作品も併せて展示し、二人のアーティストの概念世界を響かせ合う展覧会となっています。
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井上七海は、京都芸術大学大学院在学時よりはじめた代表作である「スフ」シリーズを「直線を描く」という根源的な行為の反復によって制作し続けています。絵画とは通常、背景から分離され知覚されるイメージである「図」とその背景となる「地」によって示されるものです。しかし、井上が描くイメージは「図」が方眼紙という本来「地」として使われるものを示すことで、「図」は「地」に反転されます。何かを描く目的ではない線の反復は、ある意味で何も描いていない「地」を描いているとも言えるのです。つまり、井上は「何かが描かれているかもしれないが、何も描かれていないかもしれない」という状態を作り出すことでイメージを宙吊りにしているのです。
デジタルが作り出す線は、そこに「ある(1)」か「ない(0)」というようにその存在可能性を二つに限定してしまいます。一方で、井上の作品は反復によって同じ線を描こうとしても彼女が人間であり、身体を使って線を描く以上、そこに同じ線は存在しません。つまり、「ない(0)」から「ある(1)」の間には無限のグラデーションが続くのです。井上の描く線はそこにただ同じように「ある」わけではないのです。このシリーズは絵画をイメージから解放し、何も描かないで絵画を成立させるという彼女のコンセプトを達成させている作品となります。
本展のタイトル「アキレスと亀」は「ゼノンのパラドックス」としても知られる「アキレスがどれだけ速く走ったとしても、前を行くノロマな亀に追いつく事はできない」という思考のパラドックスからつけられたものです。この「アキレスと亀」の話は、スタート時に亀のいたA1にアキレスが到達した時、亀はA2地点に進んでいます。アキレスがA2地点に到達した時、亀はA3へと進んでいます…A100地点にアキレスが到達した時、亀はA101地点に進んでいます。というもので、この話は無限に繰り返されてしまいます。これを聞くと、現実では違うにも関わらず、いつまで経ってもアキレスは亀に追いつけないように思えてしまいます。この話が長く語りつがれ、魅力を持ち続けるおもしろさは、パラドックスの矛盾を正すことだけではなく、思考、つまり概念世界の中に現実世界には存在しない「無限」の存在可能性を作り出すことにあります。
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河原温は、ニューヨークに拠点を移した60年代後半より、その日に会った人物をタイプしファイルする 「I MET」やその日に滞在した街の地図のコピーをファイルした「I WENT」、その日に起床した時間を絵葉書に書き込み、毎日特定の人物に絵葉書を送った「I GOT UP」などライフログをアートに取り込み、作家自身の存在と時間をテーマとし、ひとつのシリーズを長期に渡り反復、継続してきたアーティストです。中でも、1966年より開始し、0時よりキャンバスの下塗りをはじめ、起床と共にキャンバスを黒く塗りつぶし、白いゴシック体の数字とアルファベットによってその日の日付だけを描いた作品の「Today」シリーズは彼のコンセプトを明確に表した代表作として知られています。その日のうちに仕上がらなかったものは破棄されるなど、厳格なルールのもと、このシリーズはキャンバスのサイズやフォントのデザイン、背景となる色などにバリエーションがあるものの、基本的には21世紀に入るまでそのスタイルは継続されていました。
わたしたち人類が時間の流れを地球の運動から割り出し、年・月・日といった単位に当てはめ数えるように体系化してきたものが「暦(こよみ)」です。「一日」というのはある地点からある地点の時間の幅を示すものであって、概念的世界には存在するものの、「一日」というものそのものは実存しません。
この「Today」 シリーズに描かれているものは数字やアルファベットという文字でありながらも絵画であるため、「書かれて(記載されて)」いるのではなく「描かれて」いるのです。つまり、ある「―日」がアーティストによって絵画としてオブジェクト化されていると言えます。つまり、「暦」とは違ったカタチで「―日」というものに存在を与えているのだとも考えられます。河原温はそのコンセプトによって、絵画を単なる表象とはさせず、唯一無二なものへと昇華させているのです。
河原温と井上七海は共に、絵画を単にイメージの問題とさせず、それぞれに特異なコンセプトによって、鑑賞者の思考を概念世界と現実世界の双方を横断させ、絵画をパラドックス的に特別なオブジェクトへと結実させます。現代において、世界のすべてがデータ化され、「0」と「1」に集約させられる中、概念世界の中に無限の可能性を作り出す、二人のアーティストの概念的な絵画の世界を是非ご高覧ください。
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■アーティスト
井上七海(1996-)
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愛知県生まれ。2021年、京都芸術大学大学院修課程美術工芸領域油画分野修了。「線を引く」という単一行為の反復によって「何かを描く」というイメージの呪縛から絵画を解放させることを試みる。機械的にも見える身体的な反復は精度を増すほど機械との違いを絵画のイメージ内に痕跡として残す。意図せずに生まれるその差異はデジタル化が進む世界の中にあって「0」から「1」を生み出すことを求められる時代に、「0」と「1」との間には「無限」があることを気づかせてくれる。
河原温(1932-2014)
愛知県生まれ。河原温は、絵画が完成した日を作家がそのときにいた国の月表記の方法で描いた「Today」シリーズがよく知られる。NYに拠点を移したのち、1966年から2014年に亡くなるまでこのシリーズは続けられ、粘り強い実践の反復を通して、時間の体験と記録を探求した。河原は、本、絵画、ドローイングの中で、人間の経験の関数としての時間を捉えようとし、しばしば作品自体の延長線上にあるプロセスベースのアプローチに自らを関与させるコンセプチュアル・アーティストです。
【開催概要】「アキレスと亀」
会期: 2023年3月9日(木) - 3月31日(金)
開廊時間: 12:00 - 19:00 (火-土) ※日月祝休廊
会場: M5 GALLERY 〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-12-1 新有楽町ビル1F
アクセス:東京メトロ有楽町線有楽町駅D2出口より直結、JR山手線・京浜東北線有楽町駅中央西口より徒歩1分、都営三田線日比谷駅B1出口より徒歩2分、東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅A3出口より徒歩2分
instagram: https://instagram.com/m5.gallery?igshid=YmMyMTA2M2Y
TEL: 03-5797-7911/+81-3-5797-7911
プレスリリース提供:PR TIMES