プレスリリース
デロイト トーマツが、創薬分野での量子コンピュータ実用化時期の見極めと早期化に向けて実証を開始、新薬開発の知見を有する中外製薬と連携
誤り耐性量子コンピュータ時代の薬物と標的タンパク質の結合シミュレーションを想定したアルゴリズム検証およびソフトウェア技術開発を推進
デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、グループCEO:木村研一、以下「デロイト トーマツ」)は、新しい未来を創る技術と期待される量子コンピュータで日本の産業・企業が優位性を築くためには、特定用途に紐づいた実用化のタイミングを見極めることが不可欠と考えています。この考えの下、今般、中外製薬株式会社(本社:東京、代表取締役社長 CEO:奥田 修、以下「中外製薬」)の協力を得て、量子コンピュータの社会実装が望まれている創薬分野で、合理的な薬物デザインへの量子コンピュータ適用に向けた実証を開始しています。
この合理的な薬物デザインでは、コンピュータ上で薬物の作用を原子レベルで再現し、そのシミュレーション結果に基づいて新しい薬を設計します。本実証を通じて合理的な薬物デザインにおける具体的なユースケースやアルゴリズムを想定し将来必要になる量子ビット数*1、量子ゲート数*2といったハードウェアリソースの推定と、ハードウェアの開発・進化のロードマップを組み合わせ、実用化の時期の見極めと早期化に向けたソフトウェア技術開発の推進を目指します。
*1 量子ビット:量子コンピュータの基本的な情報単位のこと。従来のコンピュータがビットを0または1の状態で情報を保持するのに対し、量子ビットは量子の重ね合わせの原理により、0と1の状態を同時に保持することができる。量子ビット数が多いほど、その量子コンピュータの処理能力や複雑な問題を解く能力が向上する。
*2 量子ゲート:量子ビットの状態を変化させ、演算操作を行う基本単位で、従来のコンピュータの論理ゲート(AND, OR, NOTなど)に相当。これらを組み合わせて量子回路を構成し、計算を行う。ゲート数が多いほど、より複雑で長い演算が可能となる一方で、エラーが発生する可能性が高まる。
【背景〜誤り耐性量子コンピュータ時代への道のり】
量子コンピュータのハードウェアの実用化に向けては、大きな技術課題の一つである誤り訂正について、2023年12月に誤り訂正アルゴリズムの実証が実機で行われるなど様々なブレークスルーが起きています。誤り訂正が当たり前の技術として具備される「誤り耐性量子コンピュータ」(以降、FTQC、Fault Tolerant Quantum Computer)の実現の可能性は高まっています。FTQCは医薬品開発や新材料発見、暗号解読などの分野で、従来のコンピュータでは難しい複雑な問題を効率的に解決できる究極の量子コンピュータとして注目されています。特に、新薬開発においては、病気の原因となっている標的タンパク質などに対する薬物の相互作用強度を精緻に見積もることで、合理的な薬物デザインを可能にして医薬品探索の高速化及び効率化につながることが期待されています。
【実証の概要〜合理的な薬物デザインへの量子コンピュータ適用に向けた実証】
本実証では、量子分野のグローバルトレンドに精通し、量子アルゴリズムに知見を持ったサイエンティストを有するデロイト トーマツが、創薬分野の知見を有する中外製薬と連携することで、FTQCの実用性を実証します。これによって、合理的な薬物デザインへの量子コンピュータ適用の早期化を目指し、創薬プロセスの変革に繋げます。
実証期間:2024年8月〜2025年6月(予定)
実証手法:現行のいわゆる古典コンピュータ上に模倣された量子シミュレータを用いて量子化学計算*と呼ばれるシミュレーション手法を検証します。このシミュレータで計算可能な範囲は限られますが、FTQC実現時のインパクトやハードウェアリソースを見積もることができます。また、その過程で、量子化学計算における標的タンパク質と薬物の相互作用モデリングと次元圧縮技術を確立し、組み合わせることにより、標的タンパク質と薬物の結合シミュレーションに必要なハードウェアリソースの削減を試みます。これにより、合理的な薬物デザインへの量子コンピュータの実用化の早期実現が期待されます。デロイト トーマツは参画するサスティナブル量子AI(SQAI)研究拠点(科学技術振興機構・共創の場形成支援プログラム 採択拠点)の枠組みを通じ、FTQC×量子化学分野における第一人者である慶應義塾大学 杉ア研司特任准教授の支援によってこれまでに技術的な知見を蓄えており、今回の実証にも活用します
期待される成果:FTQCが実用上優位になる時代に必要な量子ビット数、ゲート数といったハードウェア要件を推定し、世の中のハードウェア開発動向と照らし合わせることで、いつどのような応用が見込まれるかの見通しに繋げます。
* 量子化学計算:量子化学計算は、原子や電子の動きや相互作用を非常に詳細に解析することにより、分子の構造や性質を物理法則に基づいて予測するもの。これにより化学実験を伴わずに医薬品候補と標的タンパク質の結合具合を評価することができる。 しかしながら、評価を高精度に計算しようとすると扱う分子の大きさなどに比例して指数関数的に計算時間が増加するため、古典コンピュータでは数百年から数千年を要してしまうこともある。そこで量子コンピュータを用いることで、精度を確保しつつ計算時間が劇的に圧縮される可能性があると期待されている。
図:創薬分野での量子コンピュータ早期適用へのフロー
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2100/98290/600_217_20241119131449673c10b92ec2e.PNG
【デロイト トーマツの量子の取り組みについて】
デロイト トーマツは、新しい未来を創ると期待されている量子技術に注目し、世界でもいち早くビジネスへの実装を日本の産業・企業と共に推進することを目指しています。2023年に量子産業分野の第一人者である寺部雅能を迎え、国内50名体制でデロイトの海外700名の専門家と連携しながら、実証実験を始めとした量子分野での取り組みを積極的に展開しています。ユースケースの開発など業種・業界の専門家の知見活用を進めており、医療分野では、医薬品研究の経験者やAI創薬など製薬業界のテクノロジー分野に精通したエキスパートと共に、製薬×量子技術のビジネス実装の支援を可能としています。
本件に関するお問合わせ先
デロイト トーマツ グループ 広報担当 菊池、鈴木
Tel: 03-6213-3210 Email: press-release@tohmatsu.co.jp
関連リンク
デロイトトーマツ量子コンサイト
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/technology/solutions/quantum.html
ニュースリリース
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20241119.html