プレスリリース
ヒトを対象とした睡眠に関する臨床試験実施
株式会社伊藤園(社長:本庄大介 本社:東京都渋谷区)は、抹茶の摂取はメンタルウェルビーング(※用語1)の改善に寄与することを、ヒトを対象とした臨床試験で確認しました。またこの試験結果を、8月31日(土)付で学術雑誌Nutrients※に掲載いたしました。
※Baba Y. et al., Matcha Does Not Affect Electroencephalography during Sleep but May Enhance Mental Well-Being: A Randomized Placebo-Controlled Clinical Trial. Nutrients | Published: 31 August 2024
https://doi.org/10.3390/nu16172907
○抹茶の摂取は客観的な睡眠の質に影響を与えない
MCBIとの共同研究では、認知機能の低下を自覚している人、及び軽度認知機能障害を有する人を対象に、1年間抹茶を継続的に摂取させ、認知機能に及ぼす影響を評価しました。その結果、表情認知機能の有意な改善(社会的認知機能の一部)と主観的な睡眠の質の改善傾向が認められました(※)。
当社は、お茶の価値を科学の目でとらえ、「人生 100 年時代を豊かに生きる」ための生活改善提案に向けた研究開発を行っています。その中で、超高齢社会に生きる高齢者の方々がより良い日常生活を送る上で、「睡眠の質」を維持していくことは極めて重要であると考えています。そこで当社は、上述の結果を受けて抹茶の継続摂取が「睡眠の質」に及ぼす影響を検討しました。睡眠の質の評価は脳波計(S`UIMIN:株式会社S`UIMIN、東京都)により行い、脳波計の他にも質問紙により主観的な睡眠の質を評価しました。また、抑うつ状態の調査も行い、精神的な面への影響も評価しました。
この結果、脳波計による測定で抹茶は睡眠の質に影響を与えませんでした。抹茶はカフェインが含まれていることから睡眠の質を悪化させると言われていますが、総睡眠時間、寝るまでにかかる時間(睡眠潜時)、寝た後に脳が覚醒した時間および回数(中途覚醒の時間と回数)、床に入っている時間に対する睡眠時間の割合(睡眠効率)はプラセボ群(※用語2)と抹茶群との間に有意な差は認められず、カフェインの影響は認められませんでした。
○抹茶の摂取はメンタルウェルビーングの改善に寄与することを確認
脳波計による客観的な睡眠の質の評価とは別に、主観的な睡眠の質の評価をOSA睡眠調査票MA版(OSA-MA)(※用語3)により行いました。その結果、「夢み」と「睡眠時間」の項目において改善する傾向(p<0.1)が認められました。また、抑うつ状態の調査(ベック抑うつ質問票、BDI-II)でも改善傾向(p<0.1)が認められ、精神的な状態が改善される可能性が示されました。また、脳波計を用いた評価では、起床後に布団から出る時間が有意に短くなりました(最終覚醒後床上時刻)。これは脳が覚醒してからベッドから出るまでの時間が短くなったもので、うつの方はこの時間が長くなると言われています。つまり、抹茶はストレス軽減に寄与する可能性も考えられました。
今後とも当社は、抹茶の健康価値の解明、ならびにその活用方法について様々な提案を行ってまいります。これらの取組みを通じて、超高齢社会に生きる高齢者の方々の豊かな生活への貢献によって、健康で豊かな生活と持続可能な社会の実現に寄与してまいります。
○臨床試験の方法について
抹茶の摂取は睡眠に影響を及ぼすのか、抹茶をゼラチンカプセルに充填した試験食とクチナシ色素で着色し抹茶の色に近づけたコーンスターチを充填したプラセボ食(※用語1)を用いて、無作為化二重盲検並行群間比較試験により検証しました。
試験対象者として、20歳以上の健常な男女57名を選抜しました。参加者は事前に脳波を測定し、起床と就寝時刻が一定な、睡眠習慣が安定した方を選抜しました。試験食またはプラセボ食を1日15粒(抹茶2.7g)、4週間毎日摂取させ、脳波計による客観的な睡眠の質の評価と質問紙による主観的な睡眠の質の評価を行いました。なお、抹茶はカフェインが含まれ、睡眠の質を悪化させる可能性があることから、就寝前には摂取しないように注意喚起しました。
脳波測定は参加者の自宅で行われました。日常の自然な状態で抹茶の効果を検証するためです。脳波測定の結果、総睡眠時間、睡眠潜時、中途覚醒時間および回数、睡眠効率に有意な差は認められませんでした。最終覚醒後床上時刻は抹茶群で有意に低値を示しました(p<0.05)。主観的な睡眠の質の評価はピッツバーグ睡眠質問票日本語版(PSQI-J)、エプワース眠気尺度(JESS)、OSA-MAにより行いました。PSQI-JやJESSに有意な差は認められませんでしたが、OSA-MAでは「夢み」と「睡眠時間」の項目が改善する傾向が認められました(p<0.1)。また、BDI-IIの得点も改善傾向が認められました(p<0.1)。
以上の結果から、抹茶は脳波には影響を及ぼさないものの、ストレスの軽減といった精神的な面に働きかけ、メンタルウェルビーングに寄与する可能性が示されました。
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(※)Uchida K. et al., Effect of matcha green tea on cognitive functions and sleep quality in older adults with cognitive decline: A randomized controlled study over 12 months. PLOS ONE|Published: 30 August 2024
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0309287
関連したニュースリリース:「抹茶による社会的認知機能(顔表情からの感情知覚)と睡眠の質への効果を確認し、8月30日(金)に学術雑誌PLOS ONEへ掲載」- 2024年9月2日(月)
用語の説明
(※用語1)ウェルビーング
WHOによると、「個人や社会のよい状態。健康と同じように日常生活の一要素であり、社会的、経済的、環境的な状況によって決定される」と定義
(※用語2)プラセボ
一般に偽薬(ぎやく)と訳されています。本臨床試験では、色素で色付けしたコーンスターチをカプセルに詰めて用いています。
(※用語3)OSA睡眠調査票MA版
起床直後に、昨晩の睡眠の質について内省する調査用紙