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高齢心不全入院患者の体重減少が退院後の死亡のリスクを高める

(Digital PR Platform) 2024年08月08日(木)10時00分配信 Digital PR Platform

〜1年前の体重との比較が患者の経過予測に重要〜


 横浜市立大学大学院医学研究科病態制御内科学の永廣尚敬さん(博士課程3年)、田村功一主任教授、医学部循環器内科学の小西正紹准教授、順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の末永祐哉准教授らの共同研究グループは、65歳以上の高齢心不全入院患者で認められる体重減少が、退院後の死亡率と関係することを明らかにしました。本研究では、国内15施設を含めた大規模観察研究*1を行った結果、心不全患者の退院前に測定した体重が、1年前の体重と比較して12%を超える減少を認めた患者では、退院後の死亡率のリスクを高めることを発見しました。本研究は、従来、再入院や死亡を予測することが難しかった高齢心不全患者に対し、1年前の体重を確認しその減少度合いを評価することが患者の経過予測に重要であることを示しました。
 本研究成果は「European Heart Journal – Quality of Care and Clinical Outcomes」誌に掲載されました(2024年7月19日公開)。

研究成果のポイント

国内15施設を含めた高齢心不全入院患者の大規模観察研究を実施した。
心不全患者の退院前の体重と1年前の体重を比較し、12%を超える体重減少を認めた場合、退院後の死亡のリスクが約1.5倍となる。
1年前の体重を確認することが心不全入院患者の経過予測に重要である。





[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1706/93076/550_327_2024080713382066b2fa3cd7921.jpg


図 本研究で明らかになった、高齢心不全入院患者で認められる体重減少と、退院後の死亡率の関係。

心不全患者の退院前に測定した体重が、1年前の体重と比較して12%を超える現象を認めた患者では、退院後の死亡率が増す。

研究背景
 心不全は、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、徐々に悪化する命にかかわる病気で、国内では2035年までに、その患者数は130万人に達するとされています。これまで数々の薬剤や手術療法が開発されていますが、心不全患者の中でも体重減少を認める状態を心臓悪液質(カヘキシア)*2といい、多くの治療においてその効果が期待できないことが課題となっています。心不全患者の体重減少が好ましくない状態であることは既によく知られていますが、慢性心不全患者で体重を評価された場合がほとんどで、心不全の悪化のため入院した患者における体重変化がどのような意味を持つかは分かっていませんでした。今回、研究グループは高齢心不全入院患者において、退院時の体重と1年前の体重を問診し比較することにより、体重減少がどの程度の頻度で認められるか、また体重減少をきたした患者が退院後に命を落とすリスクはどのくらいなのかを明らかにすることを目的に、大規模観察研究を実施しました。

研究内容
 本研究では、入院を要した高齢の心不全患者を対象とした国内15施設を含めた観察研究(FRAGILE-HF試験*3)で得られたデータを解析しました。心不全の診断で入院した65歳以上の患者において、1年前の体重を退院時に問診で確認し、退院時に実際に測定された体重と比較しました。登録された入院患者を2年間追跡調査し、その間に死亡したかどうかを記録し、解析しました。登録された入院患者1,332人(年齢の中央値80歳、男性が58.2%を占める)において、1年間の体重変化は中央値*4で6.9%減少(25、75パーセンタイル値*4はそれぞれ2.4%、11.9%減少)しており、全患者の83%で何らかの体重減少を認めていました。現在、慢性心不全における体重減少の基準値は5%となっています。5%の体重減少を認めた患者と、体重減少が5%未満または減少していない患者を比較したところ、退院後の死亡率には差がありませんでした。ところが、75パーセンタイル値である12%を超える体重減少を認めた患者では、より少ない体重減少または減少していない患者と比較し、死亡率が高いことがわかりました。また、心機能や腎機能などの従来知られている予測因子やがんの既往を差し引いて解析しても、「12%を超える体重減少」という現象は、その患者がその後死亡するリスクを約1.5倍高めることがわかりました。死亡した原因として体重減少を認めた患者に多かったのは心疾患によらない死亡でした。
 以上の結果から、心不全により入院を要した高齢患者において多くの患者が1年前より体重が減少していること、従来の評価基準に加えて退院時と1年前の体重を比較することが、患者の経過予測に重要であることが明らかになりました。

今後の展開
 今回、研究グループは、従来の治療法が必ずしも十分に有効でない高齢の心不全入院患者において、12%を超える体重減少が退院後の死亡率に影響を及ぼすことを明らかにしました。本研究により、多くの患者で体重減少がみられていること、今まで行われていた評価基準に加えて退院時と1年前の体重を比較することが、患者の経過予測に重要であることが明らかになったことから、体重減少の原因を明らかにすることが患者の治療法の選択に役立つ可能性が浮かび上がります。今後、体重減少している心不全入院患者にどのような評価、対策を取るべきか、対策や治療を行った結果がどうなるかを明らかにする研究へと発展することが期待されます。

研究費
 本研究は日本学術振興会科学研究費(22K08131)、および日本老年医学会の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。
 なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

論文情報
タイトル:Prognostic value of weight loss in hospitalized patients with heart failure(心不全入院患者の予後予測における体重減少の意義)
著者:Takanori Nagahiro, Masaaki Konishi, Nobuyuki Kagiyama, Takatoshi Kasai, Kentaro Kamiya, Hiroshi Saito, Kazuya Saito, Emi Maekawa, Takeshi Kitai , Kentaro Iwata, Kentaro Jujo , Hiroshi Wada , Shin-Ichi Momomura , Kiyoshi Hibi , Kouichi Tamura , and Yuya Matsue
掲載雑誌: European Heart Journal – Quality of Care and Clinical Outcomes
DOI:https://doi.org/10.1093/ehjqcco/qcae058


[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1706/93076/450_103_2024080717141466b32cd6d0519.jpg



用語説明
*1 観察研究:患者を登録し、検査結果や経過などのデータを集めて解析する研究。
*2 悪液質(カヘキシア):慢性疾患においてみられる、体重減少、炎症状態、食欲不振をともなう代謝の異常。
*3 FRAGILE-HF試験:高齢心不全患者における身体的・社会的フレイルに関する疫学・予後調査〜多施設前向きコホート研究〜。
*4 中央値・25、75パーセンタイル値:データを小さい順や大きい順に並べたときにちょうど真ん中に位置する値が中央値。さらに、データを4等分した区切り値が25、75パーセンタイル値。




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