プレスリリース
藤田医科大学 医学部 臨床栄養学 飯塚勝美教授と医療科学部 臨床病態解析学分野 成瀬寛之教授らの研究グループは、近年一般に普及されている食事記録アプリに着目、日本で広く使用されている2つの食物摂取頻度質問票との比較を行いました。この結果、食事記録アプリと食物摂取頻度質問票で得られる結果には互換性はないことを明らかにしました。
従来の食事調査法は管理栄養士の経験・技量に大きく依存する記録紙法がメインでしたが、今後医療のデジタル化に伴い、食事調査に食事記録アプリやWebベースでの食物摂取頻度質問票による栄養評価が管理栄養士のいない一般の診療所で普及すると予想されます。食事記録アプリと食物摂取頻度質問票にはそれぞれ長所短所があり、今回の検討は方法導入の際の参考情報として活用できると予想されます。
本研究成果は、学術ジャーナル「Nutrients」(6月2日号)で発表され、併せてオンライン版が2024年6月2日に公開されました。
論文URL :https://www.mdpi.com/2072-6643/16/11/1742
研究成果のポイント
食事記録アプリの記録を7日間以上解析することで、ビタミンB12やビタミンDのような長期に貯蔵できるビタミンは日により摂取量が大きく違うことを明らかにした。
日本でよく使われている食事記録アプリと2つの食物摂取頻度質問票を直接比較したところ、摂取エネルギーや栄養素に相関は見られるが、互換性は見られなかった。
両者ともに実際の摂取量に比べると、摂取エネルギー量は過小に評価される。
手法の異なる方法で栄養摂取量を評価した場合、両者で得られる結果を混同してはならない。
研究の背景
食事調査法は、食事記録法、食事思い出し法、食物摂取頻度法などが挙げられますが、完璧なものはありません。これまで広く使用されてきた食事記録法は管理栄養士の技量によるところが大きく、経済的、時間的に負担の大きな調査法といえます。食物摂取頻度法は一定数の食品名、食品の摂取頻度(毎日1回、週に1〜2回、月に1〜2回など)、おおよその1回量(重量や容量、大きさ)を尋ねる方法です。また食事記録アプリは食べたものの写真や名前を入力し、アプリで解析する方法です。食事記録アプリと2つの食物摂取頻度質問票は被験者自身で結果を入力するため、管理栄養士のいない施設でも行える利点があります。医療のデジタル化が進められている日本では、食事記録アプリとWebで入力・解析する食物摂取頻度質問票に基づいた栄養指導が一般の診療所で普及すると予想されます。そのため、両者の特性をあらかじめ比較しておく必要があると考えました。
研究手法・研究成果
59名の被験者に、2つの食物摂取頻度調査(FFQg、BDHQ)を行ったのち、1カ月のうち7日以上食事記録アプリ(asken)で食べているものを3食とも(おやつ含め)入力していただきました。2つの食品摂取頻度調査、食事記録アプリで計測したエネルギーや栄養素については、いずれの検査法で総エネルギーを見ても1600キロカロリー程度と過小評価されましたが、両者に相関が見られました。次に両者の互換性をブランド-アルトマン分析法*で比較したところ、いろいろな栄養素のパーセント誤差**が40%以上であり、互換性はないと考えられました。したがって、食事記録アプリで測定した結果と、2種類の食物頻度摂取調査で測定した結果を混同してはいけないことが示されました。
今後の展開
食事記録アプリと2つの食物摂取頻度質問票のどちらも実際の栄養摂取量より過小に見積もられることを意識して結果を解釈するとともに、前後の体重の変化など他の指標も参考にして評価する必要があります。食事記録アプリでは従来の記録紙法でできなかった長期間の食事内容、毎食の食事内容を解析できますが、毎回食事を入力する手間がかかり、保存するデータ量は多くなります。食物摂取頻度質問票は1回の解答入力(20分程度)で済み、データ量は少ない利点があるものの、個人の記憶に依存する欠点があります。重要なことは、食事調査法に完璧なものはないということを十分に認識した上で使用すれば、どちらも長所を生かした使用法が可能と思われます。また、栄養摂取に関して患者のフォローアップをする際には、どちらの方法を用いるかあらかじめ決めた上で経時的な変化量を捉える必要があります。
用語解説
*) ブランド-アルトマン分析(Bland-Altman analysis):2つの測定方法の一致性の評価に用いられる手法
**)パーセント誤差:互換性の評価に用いる。20%以内だと互換性ありと判断される
発表論文
<タイトル>
A Study on the Compatibility of a Food-Recording Application with Questionnaire-Based Methods in Healthy Japanese Individuals
<著者>
飯塚勝美(責任著者)1, 出口香菜子1, 後田ちひろ1, 柳ことね2, 清野祐介3, 鈴木敦詞3, 矢部大介4,5,
佐々木ひと美6, 佐々木敏7, 才藤栄一8& 成瀬寛之2,9
<所属>
1 藤田医科大学 医学部 臨床栄養学講座
2 藤田医科大学 健康管理部
3 藤田医科大学 医学部 内分泌・代謝・糖尿病内科学
4 岐阜大学大学院 医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学
5 東海国立大学機構 One Medicine 創薬シーズ開発・育成研究教育拠点
6 藤田医科大学病院 国際医療センター
7 東京大学大学院 医学系研究科 社会予防疫学分野
8 藤田医科大学 リハビリテーション医学
9 藤田医科大学 医療科学部 臨床病態解析学分野
<学術誌名>
Nutrients
<DOI>
https://doi.org/10.3390/nu16111742
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp