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学校法人藤田学園

女性ホルモンが胎盤で作られる仕組みを解明

(Digital PR Platform) 2024年05月14日(火)17時24分配信 Digital PR Platform

〜健康な妊娠や胎盤成熟に問題がある疾病への応用に期待〜

藤田医科大学医学部生化学の石原悟講師らのグループは、女性ホルモンであるエストロゲンが胎盤(用語解説参照)で作られる仕組みを解明しました。エストロゲンはステロイドホルモンの一種で主に卵巣で作られ、女性らしい身体の発育形成など重要かつ多様な働きをします。

妊婦の胎盤でもエストロゲンは作られ、健康な妊娠と出産に必要とされるホルモンと考えられています。エストロゲンの合成反応を体内で行うのは「アロマターゼ」と呼ばれる酵素です。実は妊娠初期の胎盤にはアロマターゼは見られませんが、妊娠が進むにしたがって成熟する胎盤内でCYP19A1遺伝子からアロマターゼが作られ始めることが知られていました(図1)。今回の研究では、胎盤の細胞を培養して特定の薬剤を加えることで、CYP19A1遺伝子のスイッチが入りアロマターゼが作られる仕組みを明らかにしました。この研究で解明された現象は妊婦の体内でも起きていることが推察されるので、薬剤の安全性に配慮した研究を進めることによって、近い将来、安全な妊娠と母体および胎児の健康を維持するうえで、新たな診断法および治療法につながることが期待されます。本研究成果は、国際的な医学系学術誌「Endocrinology(エンドクリノロジー)」に2024年 5月 8日付けで公開されました。

[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/88199/400_280_20240514165442664318c2eba7a.png

論文URL: https://doi.org/10.1210/endocr/bqae055


<研究内容を理解するための生物学の知識>
本プレスリリースで述べている「遺伝子のスイッチ」とは、遺伝子が「働く」と「働かない」の切り替えのことを表します。遺伝子自体は細胞内にあるDNAでできており、ヒトには約2万個の遺伝子があります。実は、このうちの半分程度はスイッチが入っておらず働いていません。このスイッチを入れるのが「転写因子」と呼ばれるグループのタンパク質です。転写因子が遺伝子に結合することがきっかけとなって、遺伝子のDNAに書き込まれている設計図が多数のRNAにコピーされます。そして、RNAの設計図のコピーをもとにタンパク質が作り出されます。個々の遺伝子の設計図が異なるゆえに、RNAのコピー内容も異なります。よって、そこからできるタンパク質も多種多様になり、体内で様々な機能を発揮します。転写因子として機能するタンパク質には、ヒトでは2000〜3000種類あります。個々の転写因子の設計図はそれぞれの遺伝子に書き込まれており、それぞれのRNAを経て各転写因子が作り出されます。また、アロマターゼなどの酵素もタンパク質の一種で、アロマターゼの遺伝子であるCYP19A1をコピーしたRNAを経てアロマターゼが作り出されます。


<研究の背景>
アロマターゼが女性ホルモンであるエストロゲンを作る反応は、エストロゲンと構造が類似する男性ホルモンのアンドロゲンを作り変えることによって行われます。ヒトの胎児では、性別にかかわらず副腎という臓器で多量のアンドロゲンが作られます。そのため、アンドロゲンによる過度な男性化を防ぐために、過剰分のアンドロゲンを胎盤に運びアロマターゼの働きによってエストロゲンへ作り変えています。このようにアロマターゼが胎盤で働くことは妊娠時の重要な現象の一つであるにもかかわらず、胎盤が成熟する過程でどのようにCYP19A1遺伝子のスイッチが入るかについてはよく分かっていませんでした。そこで、今回の研究では胎盤に見られる「AP-2γ(ガンマ)」という転写因子に着目し、CYP19A1遺伝子のスイッチの制御を3-デアザネプラノシン(用語解説参照)という薬剤で処理した胎盤の細胞を用いて検討しました。


<具体的な研究内容>
ヒト胎盤由来の細胞株JEG3細胞を3-デアザネプラノシンの有り無しで培養したところ、有りの場合にCYP19A1遺伝子のスイッチが入ることを発見しました。同時にAP-2γの量が増えることを見出し、さらにAP-2γのCYP19A1遺伝子への結合が観察されたので、CYP19A1遺伝子のスイッチ・オンにAP-2γが関わることが明らかになりました。注意深く観察すると、3-デアザネプラノシンを加えない培養条件下では、AP-2γの設計図が書き込まれているTFAP2C遺伝子のスイッチが入っているにもかかわらず、遺伝子からコピーされたRNAは微量しか検出できず、そのRNAにはメチル基(用語解説参照)が結合している状態でした(図2)。一方、3-デアザネプラノシンを加えた培養条件下では、メチル基が結合していないTFAP2C遺伝子のRNAが多量に観察されました。このRNA量がAP-2γのタンパク質量の増加に反映され、その結果、CYP19A1遺伝子のスイッチが入れられて最終的にアロマターゼが作られることが分かりました(図3)。両培養条件の比較から、TFAP2CのRNAに結合したメチル基がRNA自身の分解促進に働いたと解釈されます。本研究の成果により、妊娠時の胎盤におけるエストロゲン産生が、TFAP2CのRNAが分解される、されないの調節で行われる可能性が考えられます。

[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2299/88199/600_228_20240514165442664318c2d580a.png


<研究の要点>


3-デアザネプラノシンを胎盤細胞に投与するとアロマターゼが作られる。
薬剤投与前の胎盤細胞ではAP-2γの設計図がコピーされたRNAは常時分解されている。
薬剤投与によりRNAが分解されなくなりAP-2γの産生量が増加する。
AP-2γがCYP19A1遺伝子のスイッチを入れアロマターゼが作られ始める。



<期待される波及効果>
本プレスリリースの内容は培養細胞をいた基礎研究での研究成果についてであり、これがすぐに臨床応できるわけではありません。しかし、この研究成果と同様の現象が臨床試料において観察されるなら、近い将来、3-デアザネプラノシンまたは類似する薬剤が、胎盤成熟に問題が見られる疾病に応用されるかもしれません。


<用語解説>
●胎盤
母体と胎児の細胞が混じり合ってできた双方をつなぐ器官で、栄養素を母体から胎児に送ったり、老廃物を胎児から母体に送ったりするなど重要な働きをします。妊娠初期では未成熟な状態ですが、妊娠が進むにあたって細胞数を増加させて成熟することが知られています。

●3-デアザネプラノシン
生体内で起こる多くのメチル基結合反応を広く阻害することが知られています。もともとは抗ウイルス薬として開発されました。

●メチル基
炭素1つと水素3つの塊からなる物質の成分です。-CH3と化学的に表記します。RNAだけでなくDNA、タンパク質など、ほぼすべての有機物がメチル基結合の対象になります。メチル基が結合すると、多くの物質はその性質を変化させます。メチル基結合で起こることは物質によって異なり、TFAP2C遺伝子のRNAの場合は分解が起きます。


<発表論文>
●タイトル
CYP19A1 expression is controlled by mRNA stability of the upstream transcription factor AP-2γ in placental JEG3 cells

●著者
藤田医科大学医学部生化学講座 琴村直恵,下野洋平, 石原悟(責任著者)

●学術誌
Endocrinology

●DOI番号
10.1210/endocr/bqae055


<本研究への支援>
本研究は日本学術振興会科学研究費基金の支援のもとに行われました。





本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp

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