プレスリリース
丸山隆浩 名城大学理工学部教授(兼:名城大学ナノマテリアル研究センター・センター長)、松岡就 名城大学大学院理工学研究科修士課程学生(研究当時)と北川宏 京都大学理学部教授、草田康平 京都大学白眉センター特定准教授らの共同研究チームは、白金族の5元素(白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru))を原子レベルで均一に混ぜ合わせたハイエントロピー合金(HEA)1)ナノ粒子を触媒に用いて、直径1ナノメートル程度以下の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)2)を高効率で合成することに成功しました。
概要
丸山隆浩 名城大学理工学部教授(兼:名城大学ナノマテリアル研究センター・センター長)、松岡就 名城大学大学院理工学研究科修士課程学生(研究当時)と北川宏 京都大学理学部教授、草田康平 京都大学白眉センター特定准教授らの共同研究チームは、白金族の5元素(白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru))を原子レベルで均一に混ぜ合わせたハイエントロピー合金(HEA)1)ナノ粒子を触媒に用いて、直径1ナノメートル程度以下の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)2)を高効率で合成することに成功しました。SWCNTは代表的なナノ材料として有名ですが、構造制御技術が不十分であり、また、合成コストが高額のためエレクトロニクス分野への応用が停滞していました。今回、HEAがSWCNT合成において単体の金属触媒を上回る触媒活性を有し、また、細径のSWCNT合成に有効であることが示されました。HEAは様々な組成をとることが可能なため、今後、さらに生成効率が向上し、また、構造制御技術が進展することが期待できます。
本研究成果は、2024年3月11日にオランダの国際学術誌「Chemical Physics Letters」にオンライン掲載されました。
1.背景
SWCNTは高い電子移動度を有し、金属にも半導体にもなることから、エレクトロニクス分野への応用が期待されている代表的なナノ材料です。しかし、SWCNTの電気的性質(電子状態)はその構造、特にカイラリティ(グラフェンシートの巻き方)により変化するため、特定の構造(直径・カイラリティ)をもつSWCNTを選択的に合成する技術の開発が望まれています。これまで様々な金属種のナノ粒子を触媒に用いて、化学気相成長(CVD)法3)によるSWCNTの合成が報告されていますが、単体の金属ではSWCNTの構造制御は困難でした。このため、近年、SWCNT合成用の新たな触媒材料として合金ナノ粒子が注目されています。しかし、一般的な二元系合金を触媒に用いた場合、SWCNTの生成量が少なく、またエレクトロニクス応用に適した細径のSWCNTが得られにくいという課題がありました。
本研究では、SWCNT合成用触媒として、多様な活性サイトをもち、かつSWCNTが生成する環境下(高温下)でも安定なHEAに注目しました。丸山隆浩教授を中心とする名城大学の研究グループはこれまで様々な白金族元素を触媒に用いてSWCNT合成を行っています。今回、白金族元素から成るHEAナノ粒子の作製に成功してきた北川宏教授の京都大学の研究グループと共同研究を行い、白金族HEAナノ粒子を触媒に用いたSWCNT合成を試みました。
2.研究手法・成果
SWCNTの合成には粒径数ナノメートルの微細な金属触媒が必要です。本研究では、京都大学北川教授のグループの開発した手法を用いて、白金族の5元素(Pt、Pd、Rh、Ir、Ru)を原子レベルで均一に混ぜ合わせたHEAのナノ粒子を作製し触媒に用いました。このHEAナノ粒子に対し、名城大学丸山教授のグループの保有するCVD装置を用いてSWCNTの合成を行いました。同時に単体のPt、Pd、Ir、Ru、鉄(Fe)、コバルト(Co)を触媒に用いたSWCNT合成も行い、生成量と構造の比較を行いました。
実験の結果、HEAナノ粒子から直径1ナノメートル程度以下のSWCNTが生成し、その生成効率は単体の白金族元素を触媒に用いた場合を凌駕することがわかりました。HEAナノ粒子は強固な結合を有するため高温でも安定であり、かつ、単体の金属では実現し得ない活性サイトが表面に存在するため、生成量を大幅に増加させることができたと考えられます。
今回の成果により、SWCNT合成において、特に生成量の増加と構造制御にHEAナノ粒子が有効であることが示されました。今後、様々な組成のHEA粒子を触媒に用いることで、SWCNTの直径とカイラリティ制御、および生成量のさらなる向上が期待できます。また、HEAナノ粒子を触媒に用いることで、エレクトロニクス応用に適した細径の半導体型SWCNTの高効率生成が可能となれば、現在のSi(シリコン)半導体素子を上回る高性能デバイスが実現し、通信やコンピュータの高速化が期待できます。さらに、SWCNTは電気抵抗が低いため、素子動作中の発熱量が抑えられることから、省エネルギー型電子デバイスが実現でき、脱炭素社会への貢献にもつながるものと期待されます。
3.波及効果、今後の予定
今回の研究では、白金族の5元素から成るHEAナノ粒子を触媒に用いました。今後、HEAを構成する元素を変化させ、生成量の向上とSWCNTの構造に与える影響について調べていきます。また、SWCNT生成において、HEAナノ粒子表面の活性サイトの同定についても試みます。
4.研究プロジェクトについて
■名城大学ナノマテリアル研究センター
■京都大学 科研費 特別推進研究20H05623「非平衡合成による多元素ナノ合金の創製」
■文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)
JPMXP1223MS1018(分子科学研究所)「カーボンナノチューブの生成メカニズムの解明」
JPMXP1223NI0113(名古屋工業大学)「合金ナノ粒子の透過電子顕微鏡観察」
<用語解説>
1) ハイエントロピー合金(HEA):5種類以上の金属がほぼ等原子量で均一に混合した合金。高温での構造安定性が高い。
2.)単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon NanoTube :SWCNT):カーボンナノチューブ(CNT)は炭素原子のみから成る円筒状の物質ですが、特に1層から成るものを単層カーボンナノチューブと呼びます。直径は1〜数ナノメートル程度でナノ材料の代表的な物質です。非常に高い導電性・熱伝導性をもち、構造(カイラリティ・直径)により金属にも半導体にも成るため、次世代のエレクトロニクス材料として期待されています。
3.)化学気相成長(CVD)法:粒径数ナノメートルの金属触媒粒子を炭素原料ガスと高温で反応させ、カーボンナノチューブを合成する手法。
<研究者のコメント>
丸山隆浩(名城大):カーボンナノチューブ(CNT)合成用触媒として、HEAナノ粒子の可能性が示されたことは、CNT研究者として大変うれしく思います。HEAは様々な組成の組み合わせが可能で、今後の改良により、さらに触媒活性を向上させることが可能です。CNTのエレクトロニクス応用実現のための第一歩になると期待しています。
草田康平(京都大):我々の合成するHEAナノ粒子の用途の一つとしてカーボンナノチューブの合成用触媒が発見できたことをうれしく思います。今後、合金組成の検討を行い、更に高効率な触媒が発見できればと思います。
<論文タイトルと著者>
タイトル:Single-walled carbon nanotube synthesis with RuRhPdIrPt high entropy alloy catalysts(RuRhPdIrPtハイエントロピー合金触媒を用いた単層カーボンナノチューブ合成)
著 者:松岡就、カマル・プラサド・サラマ、才田隆広、草田康平、北川宏、丸山隆浩
掲 載 誌:Chemical Physics Letters DOI:https://doi.org/10.1016/j.cplett.2024.141178
<研究に関するお問い合わせ先>
丸山隆浩(まるやま たかひろ)
名城大学理工学部・教授
TEL:052-838-2386、090-5064-7866
FAX:052-832-1179
E-mail:takamaru@meijo-u.ac.jp
北川 宏(きたがわ ひろし)
京都大学大学院理学研究科・教授
TEL:075-753-4035/080-3965-9575
FAX:075-753-4036
E-mail:kitagawa@kuchem.kyoto-u.ac.jp
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