プレスリリース
アルスエレクトロニカ・フェスティバルにて、ALS共生者が豊かな表現に挑戦 〜残されている身体機能を最大限に活用し、自身のアバターを介して会場と一体化〜
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、WITH ALS(※1)とDentsu Lab Tokyo(以下「DLT」)(※2)と共に、9月6日〜10日にリンツ(オーストリア)で開催される芸術・先端技術・文化の祭典であるアルスエレクトロニカ・フェスティバルに登壇します。ステージでは、Project Humanity(※3)の取り組みを紹介するとともに、NTTの生体情報を基にした運動能力転写技術を用い、ALS(筋委縮性側索硬化症)(※4)と共生し、DJでもあるWITH ALS代表の武藤将胤氏がライブパフォーマンスを東京から遠隔で披露します。
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1.背景
ALSが進行すると、認知機能は正常なまま、全身の筋力が徐々に機能を失っていきます。人工呼吸器をつけることにより、本来の生を全うできると言われていますが、一方で、人工呼吸器をつけるための気管切開手術によって、声を失います。命をつなぐための選択が、声を出せなくなることにもつながってしまうのです。音声言語と身体表現によるコミュニケーション手段を失うことから、社会との断絶を恐れ、生きる希望を失う人も少なくありません。世界的に見ると、9割以上のALSの方が、人工呼吸器装着を拒否しているのが現状です(※5)。
これまで、私たちは、音声合成技術を用いて、残されていた録画や録音の音声から、本人らしい声の再現に取り組んできました。本技術は、本人の声色を保ったまま、複数言語を話すことを可能とします。昨年度は、声を発することのできない日本のALS共生者が、自らの声色で英語による対話と音楽パフォーマンスを実現しました。そして今、わずかに動く身体機能を活かした非言語表現のコミュニケーションにも取り組み始めています。
2.今回のチャレンジ
非言語表現コミュニケーションに向けては、NTTの生体情報を基にした運動能力転写技術を用います。今回のアルスエレクトロニカのステージでは、メタバース空間においてALS共生者の意思でわずかに動作する自らの身体を動かすことでアバターを操作し、ALS進行前はDJとして観客を盛り上げてきた頃の身体表現を、アバターによって再現し、会場を盛り上げます。
アバターの操作では、身体に生体情報を取得する筋電センサを装着し、自身の微細な筋活動によって得られる生体情報を操作情報に変換し、アバターの自由な操作を実現します。実験室での試験では、身体(首、腕、足の各二カ所)に筋電センサを設置し、ALS共生者の意思で動作した部分の筋電データが得られることを確認しました。リアル空間での見た目では、微細なALS共生者の動きも、筋電データとして見ると、はっきりとした波形で検出されます。NTTは、センシングしたデータをアバター操作情報に変換し、その操作情報を用いて、DLTがメタバース上に生成したアバターの自由な操作を実装することで、非言語表現の拡張を実現します。
ステージでは、ALS共生者であり、DJでもある武藤将胤氏によるライブパフォーマンスを、東京からリンツ会場にいる観客に届けます。
3.今後の取組み
2024年度には、コミュニケーション表現をさらに発展させ、メタバース空間やロボットを介したリアル空間で、ALSであるというバックグラウンドを感じさせないコミュニケーションを体験できるようにし、最終的には、ALS進行による身体的な制約から解放された、豊かなコミュニケーションにより、望む人すべてが自己実現でき、社会参画できる未来に貢献していきます。
■イベント概要
【アルスエレクトロニカ】
アルスエレクトロニカは、オーストリアのリンツ市を拠点に40 年にわたり「先端テクノロジーがもたらす新しい創造性と社会の未来像」を提案し続けている、世界的なクリエーティブ機関です。今年はオーストリアのリンツでメディアアートに関するイベントを開催します。
(公式サイト)https://ars.electronica.art/festival/en/
【アルスエレクトロニカ・フェスティバル】
・開催期間:2023年9月8日〜9月10日
・登壇日時と会場:9月8日(金)10:00-10:30 Deep Space 8K
・場所:リンツ (オーストリア)
※1 一般社団法人 WITH ALS(東京都港区、代表理事:武藤 将胤)ALSの課題解決を起点に、全ての人が自分らしく挑戦できるボーダレスな社会を創造することをミッションとして活動する団体。
(公式サイト)https://withals.com/
※2 Dentsu Lab Tokyo(東京都中央区) 人の心を動かす表現開発や、いま世の中が求める社会の課題解決を実践している研究・企画・開発が一体となったクリエーティブのR&D組織。
(公式サイト)https://dentsulab.tokyo/
※3 私たちは、”人間中心”を原則に技術を開発することが肝要だと考えています。Project Humanityがめざすのは、 多様性を尊重し、理解し合える世界です。
2023年6月14日リリース:ALS共生者の豊かなコミュニケーションに向けた取組みを開始
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/06/14/230614a.html
※4 ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋委縮性側索硬化症)は、運動神経が損傷し、脳から筋肉への指令が伝わらなくなることで、全身の筋肉が少しずつ動かしにくくなる病気です。体を自由に動かすことができなくなっても、脳の機能は変わらず、意識や考えもはっきりしています。
※5 日本におけるALS終末期.荻野美恵子 (臨床神経,48:973-975, 2008)