プレスリリース
【ライフサイエンス】植物の根はなぜ下に伸び、絡みつくのか。そのメカニズムの一端がISSにおける宇宙実験で明らかに。--金沢工業大学応用バイオ学科の辰巳仁史教授の研究グループ
金沢工業大学応用バイオ学科の辰巳仁史教授の研究グループは、植物の根の絡みつきは細胞膜に存在する「MCA1」というイオンチャネル(イオンを通す小さな穴)によって制御されているということを国際宇宙ステーション(ISS)で行われた宇宙実験で明らかにしました。
植物の重力受容におけるMCA1の機能的な役割が今後解明されると、風雨で倒れてもすぐに立ち直る穀物の生産が可能になるばかりか、重力が地球よりも小さい月や火星の環境でも、植物を元気に育てることが可能になります。
当研究の概要
重力は、植物の成長と発育を決める重要な環境刺激です。植物を倒して、植物への重力の作用の仕方を変えると、植物は速やかに反応することが知られています。植物が倒されたことを感知する細胞膜にミクロの穴があることが辰巳教授のグループ(東京学芸大学、羽衣国際大学、名古屋大学、JAXA)の研究によって明らかになってきました。このミクロの穴はイオンチャネルと呼ばれ、イオンを通す通路です。重力を感じて変化するミクロの穴の一つにMCA1というイオンチャネルがあります。
この通路が重力の影響を受けて開くとカルシウムイオンという植物にとって大事なイオンを細胞の中に移動することが分かっています。また、MCA1は植物において重力だけではなく、根っこの先端が硬いものにぶつかったときにも大切な役割があることが知られています。
辰巳教授のグループは2022年、遺伝子型の異なる4種類のシロイヌナズナ((1)野生株、(2)MCA1を機能しないようにしたもの、(3)MCA1自体が光るようにしたもの、(4)細胞内カルシウムイオンを検出できるエクオリン導入株)の種子と生育培地を国際宇宙ステーションにロケットで運んでもらい、細胞培養装置内で1G(地球と同じ重力)とμG部(ほぼ無重力状態)という2種類の生育環境で発芽生育させたのち、地上に戻して、植物の様子を分析する研究について、その研究成果を発表しました。
シロイヌナズナは、背丈が小さく、ISSの限られたスペースで栽培できる点や、種が発芽して次の種をつくるまでの一生が2ヶ月と短く、短期間で実験が出来る点、すべての遺伝情報にあたるゲノムが解読されている点で、ISSにおける宇宙実験で広く使われています。
そこで得られた結果は、植物の根は宇宙の無重力環境では植物を支えるために植物の近くに用意したメッシュに絡みつくようになることです。一方で、重力環境ではこのような根の絡みつきは見られませんでした。このようなこと(および変異体の分析)から、根の絡みつきはMCA1というイオンチャネルによって制御されているらしいということが明らかになってきました。
地上に生育する植物の下方へ伸びる根は頻繁に成長方向を変えて土壌にある障害物を避けたり、必要に応じて対象に絡みついたりします。根の伸長におけるMCA1の機能的な役割が今後の研究において解明されるでしょう。
【辰巳教授のコメント】
夜間のように光の方向の情報がない時に、農作物が風などで倒れると、重力の方向を頼りに元のように立ち直る必要あります。重力受容におけるMCA1の機能的な役割が解明されると、重力方向の変化に敏感な植物を作成することができ、その植物は風雨などで倒れてもすばやく立ち直ることができるでしょう。このような植物は穀物生産の増進に貢献するでしょう。また、植物が重力に敏感になるように品種改良すれば、月や火星のように重力が地球よりも小さい環境でも、植物が元気に育つでしょう。この様に、基礎的な研究の成果は大きな未来を人間に提供することができるのです。
当リリースは国際的な学術誌「Plants」掲載の以下の学術論文をもとにご紹介したものです。
Nakano, M.; Furuichi, T.;Sokabe, M.; Iida, H.; Yano, S.;Tatsumi, H.
Entanglement ofArabidopsis Seedlings to a Mesh Substrate under MicrogravityConditions in KIBO on the ISS.
Plants 2022, 11, 956 https://doi.org/10.3390/plants11070956
▼本件に関する問い合わせ先
金沢工業大学 広報課
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