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水素入浴で水素ガスは皮膚から体内へ吸収される--北里大学

(Digital PR Platform) 2023年07月10日(月)14時05分配信 Digital PR Platform



北里大学獣医学部(青森県十和田市)は、2022年4月に、わが国の獣医学部初となる「ミニブタ研究推進寄附講座(株式会社セプトサピエ)」を設置しヒトおよび獣医臨床の健康や病気の課題解決のトランスレーショナルリサーチを実験専用ミニブタを用いて展開しています。この度、同寄附講座の岩井聡美准教授と小林英司客員教授らは、慶應義塾大学医学部の佐野元昭准教授らとの共同研究により、ヒトに近い皮膚を持つ特殊なミニブタを用いて、ヒトのヘルスケアで広まりつつある水素風呂入浴における水素ガスの体内動態を世界で初めて明らかにしました。




 近年、ヘルスケア分野において水素入浴が盛んに行われていますが、溶存水素量や溶存方法など、効果的な溶存量は科学的に証明されていませんでした。先に本研究グループの小林英司客員教授らは、ヘアレスミニピッグの皮膚性状がヒトのそれに極めて酷似しており、薬物の経皮吸収試験に適することを証明しましたが、今回、ミニブタ研究推進寄附講座における株式会社ドクターズ・マン(神奈川県横浜市、代表取締役 橋本総)との産学連携共同研究において下記の実験を行いました。
 株式会社ドクターズ・マンによって開発された、効率よく水素ガスを温水に溶存させる水素入浴システムを用いて検討しました。気化した水素が肺から吸収されないように、吸入麻酔下で気管チューブを挿管したヘアレスミニピッグ(注1)をこの水素入浴システに入浴させて、あらかじめ挿入しておいたカテーテル(注2)から経時的に採血した結果、入浴後に後大静脈(注3)において水素ガス濃度の上昇を確認することができました。
 これにより、入浴時には、温水中に溶存した水素は皮膚を透過して、体表だけでなく、血流を介して体の中心部まで供給されることが証明されました。ヒトがこの水素入浴システムを使用する場合、体表の皮膚からの吸収だけでなく、気化した水素ガスを肺からの取り込みという両方の経路が想定されるため、水素ガスを摂取する有効なシステムであると考えられます。また病気の伴侶動物やトレーニングをする競走馬などの水中ドレッドミルシステムへの使用の展望があります。
 本研究は、2023年6月30日に、ポーランドの科学雑誌『Archives of Medical Sciences. Civilization Diseases.』オンライン版に掲載されました。


■研究の背景と概要
 近年、生活習慣病である循環器障害や救急医療、脳損傷、さらに臓器移植に伴う虚血再灌流障害対する水素の治療効果が注目され、水素ガス吸入療法や経口投与、組織灌流などによる病態変化や改善を数多く報告してきました(Iwai et al., Front Immunol. 2020, Kobayashi et al., PLoS One. 2019, Sano et al., J Clin Med Res. 2020、Sugai and Hakamata et al. Sci Rep. 2020)。水素の摂取経路として、ガスとしての水素を吸引する方法や水素を溶存させ液体や水素発生タブレットとして腸管から吸収させる方法がありますが、水素ガスは超低分子であり皮膚等から拡散能で体内吸収されると考えられてきました。実際に、ヘルスケア分野において水素入浴が盛んに行われていて、その利用者の数は計り知れませんが、水素入浴システムに入浴している間の体内への水素の取り込みがどのように起こっているかはこれまで知られていませんでした。
 分子レベルの水素の重要な特徴に拡散力があり、分子量最小の無極性分子であるため、素早く拡散することができます。大半の薬剤の作用が血流の届く範囲のみに限られるのに対し、水素は血流のない疾患部に素早く拡散する可能があると信じられてきました。我々は、ラットを用いて水素ガスの吸引によって体内に摂取された水素は様々な臓器で還元剤として作用し、酸化ストレスの軽減、抗炎症、抗アポトーシス作用を示すことを明らかにしました(Shirakawa et al., JACC Basic Transl Sci. 2022)。一方で、水素の生物学的研究が多く行われているにもかかわらず、ヒトへの外挿の目的のために、動物を用いた水素の薬物動態研究はほとんど存在しませんでした。我々は、高濃度の水素をガスとしてミニピッグに吸入させた検討を行い、動脈血も含め全身に水素を供給できることを明らかにしました(Sano et al., PLoS One. 2020)。しかしながら、ミニピッグの腸管内に水素を添加した液を投与したところ、門脈血では水素濃度が上昇したものの、動脈(carotid artery)では上昇せず(Katsumata et al., Heliyon. 2021)、投与経路によってその吸収性には違いがあると考えられました。
 一方、経皮吸収に関連するヒトの皮膚は、その表面標識、表皮と真皮の関係性、真皮と乳頭部・網状帯、表層の微細血管構造、生化学的・免疫学的特性などは、ヒト皮膚に特徴的な解剖学的特徴が数多く存在します。したがって、ヒトを対象とした経皮吸収の機構は、生体からのヒトの皮膚を試験管内(in vitro)で実験する必要がありますが、血液中への体内動態の検証には倫理的に制約がありました。そのため、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、犬、ヒト以外の霊長類などが代替として用いられてきましたが、これら動物の無毛種の皮膚でさえもヒトの皮膚と異なることは知られており、類人猿モデルでさえも、ヒトの皮膚と類似しているのは掌と足底の皮膚だけと報告されています。
 先に著者らはヘアレスミニピッグの皮膚性状がヒトのそれに極めて酷似しており、薬物の経皮吸収試験に適することを証明しています(Kobayashi et al., Biopharm Drug Dispos. 2009.)。ヘアレスミニピッグは被毛が非常に少なく、ヒトの皮膚に性質が近いため、ヒトと同様の薬理作用を示すとの報告がされており、たくさんの検討が行われてきました。したがって、ヒトで検討不可能な皮膚からの水素吸収性実験の代替として、ヘアレスミニピッグは最適な実験動物であると考えられました。
 本研究は、ヘアレスミニピッグから経時的に採血できるシステムの確立と、この高濃度に水素を温水に溶存することができる水素入浴システの開発を行いました。そこで、ヘアレスミニピッグをこのシステムに入浴させて水素の体内動態を解析したところ、血液中の水素ガス濃度の上昇を確認することができ、体表だけでなく、体表近くの組織まで水素を供給することが可能であることが考えられました。



■研究の成果と意義
 まず、ヘアレスミニピッグの静脈に採血ポートを設置しました【図1】。水素溶存あるいは水素非溶存のバスタブに20分間入浴させ、正確に経過時間毎に採血を実施しました。
 株式会社ドクターズ・マンによって開発された2x2フォロファイバー方式による水素入浴システム(H2JI1フラッシュバブリングシステム)は、同社の過去に報告されている装置よりも効率よく水素ガスを温水に溶存させるシステムです。約80のお風呂に、毎分1.5の循環能力のあるポンプで水素水生成ラインを循環させ、徐々に風呂全体の水素濃度を高める方式を採用した【図2】。吸込口と吐出口は1/4インチ(約内径4ミリ)のチューブホースで、手でかき回すことにより風呂内での対流を行いました。
 小児用バスタブに水道水をはり、ヒーターで37〜38℃に加温した後、H2JI1フラッシュバブリングシステムを用いて水素を溶存させた。用手にて頭が水中に潜らないよう保持しながら伏臥位で20分間浴槽に入浴させました【図3】。
 結果として、水素濃度は、水素入浴システムを用いた水素溶存液での入浴では、後大静脈における水素濃度が上昇しましたが、水素非溶存液での入浴では、検出限界以下でした。
 本研究から、体表の毛細血管において温水中に溶存した水素が皮膚を透過した可能性があること、加えて、体表だけでなく、体表近くの組織まで水素を供給することが可能であることが考えられました。したがって、実際にヒトがこの水素入浴システムを使用する場合、通常の呼吸をしている状態であるため、本水素入浴システムは体表からの吸収だけでなく、呼吸からの取り込みという両方からの効果を得られる有効なシステムであると考えられました。
 またこれまでの水素の健康や病気に対する作用から、温水に水素を溶存させ歩行トレーニングをする水中ドレッドミルシステムへの使用の展望があります【図4】。ヒトの健康トレーニング(A)はもとより、病気で種々の炎症反応がある伴侶動物(B)や激しいトレーニングをする競馬馬(C)などに応用が可能と考えられます。

■特記事項
 本研究は、株式会社ドクターズ・マンからの支援によって行われました。



■論文情報
掲載誌: Archives of Medical Science - Civilization Diseases
論文名: Direct evidence of hydrogen absorption from the skin - A pig study
   (和訳) 皮膚からの水素吸収に対する直接的証拠−ブタを用いた検討
著者名: Satomi Iwai, Shou Kobayashi,Eiji Kobayashi, Kazuhisa Sugai, Yoji Hakamata, Kohsuke Shirakawa, Yoshinori Katsumata, Motoaki Sano
DOI: 10.5114/amscd.2023.129194



■用語解説
(注1)ヘアレスミニピッグ:
 被毛がないか、非常にまばらであり、皮膚色が淡いことが特徴です。ヒトと、皮膚の組織構造、特にタンパク質組成なども似ており、透過性なども酷似しているといわれており、皮膚の試験などによく利用されてきました。また、体の大きさが大人になっても小さいため、飼育しやすいなどのメリットがあります。
(注2)カテーテル:
 医療用に中空のある細い管、血管や尿路、鼻腔など様々な臓器に挿入するなどして用いられます。今回は血管用のカテーテルを全身の主要な血管に挿入したのち、一時的に固定して、血管からいつでも採血できるようにしました。我々は、今回この採血システムも確立しました。
(注3)後大静脈:
 人では下大静脈とよばれていますが、動物は起立していないため、''下''ではなく''後''を用いて後大静脈とよびます。動物の体の中で一番太い静脈です。消化管や後肢からの血液を集めて心臓へ運ぶ血管で、腹部では背骨の腹側を走行しています。


■問い合わせ先
【研究に関すること】
 北里大学獣医学部獣医学科小動物第2研究室 
 准教授 岩井 聡美 (いわい さとみ)
 TEL:0176-23-4371 FAX:0176-23-8703
 E-mail:iwai@vmas.kitasato-u.ac.jp



【水素ガス発生装置等について】
 株式会ドクターズ・マン
 代表取締役 橋本 総 (はしもと そう)
 TEL:045‐905-2330 FAX:045‐904-1138
 E-mail:info@doctorsman.com
 HP:www.doctorsman.com

【取材に関すること】
 学校法人北里研究所 総務部広報課
 〒108-8641東京都港区白金5-9-1
 TEL:03-5791-6422 FAX:03-3444-2530

 E-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp



【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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