プレスリリース
5G仮想化無線基地局 (vRAN) の低消費電力化を実現 〜独自の省電力化技術により従来比最大46%削減を実証〜
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、NTTが研究中の省電力イネーブラ (Power Saving Enabler) を活用することにより、実際の商用ネットワークに近い環境で、ソフトウェアにより構成された仮想化基地局の消費電力を最大46%削減できることを実証しました。
今後、当省電力化技術を、ベンダの仮想化基地局への搭載を通じてグローバルに展開する予定であり、通信事業者の脱炭素化を支援することを通じ、持続可能な社会の実現に貢献します。
1.背景
近年、汎用CPUの性能向上や、通信機能のソフトウェア化技術や仮想化技術の進化を背景に、汎用サーバ上に無線基地局の機能をソフトウェアで構成する仮想化基地局 (vRAN: virtual Radio Access Network) の実現に注目が集まっています。仮想化基地局は汎用サーバにより構成されるため、専用ハードウェアと比較して、構築コストを大きく低減できる長所があります。
一方で、無線基地局に最適化された専用ハードウェアと比べて、汎用サーバは汎用処理に伴う非効率性があるため、仮想化基地局は消費電力の観点で課題があります。一般的に性能向上と消費電力削減にはトレードオフの関係があり、マイクロ秒オーダの遅延要件がある基地局では特に両立が難しいと言われており、この解決が求められていました。
2.概要
NTTは、IOWN構想*1具現化に向けて、光を中心とした革新的技術などの各種研究開発を進めています。その一環として遅延要件の厳しいソフトウェア向けに研究中の省電力イネーブラは、ソフトウェアに適用することで省電力化を実現する技術です。
2.1 省電力イネーブラ
本技術は、ソフトウェア処理において、負荷に応じた必要最小限のコンピューティングリソースで処理するように制御することをコンセプトにしており、特に低負荷時において大きな省電力効果を実現します。前述した仮想化基地局の消費電力削減課題に着目した省電力イネーブラの研究を立ち上げ、仮想化基地局の各ソフトウェア処理を消費電力観点で分析し、非効率な処理を改善するための複数の技術を考案し、仮想化基地局を性能劣化なく省電力化できることを確認しました。ソフトウェア技術である省電力イネーブラは、NTTがIOWN構想実現に向けて研究開発を進めている「光電融合技術」「オールフォトニクス・ネットワーク(APN: All Photonics Network)*2」「超強力・汎用WhiteBOX*3」と組み合せることで、より大きな省電力効果を得ることが可能になります。
[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/2341/71727/700_538_20230523185604646c8db450463.PNG
図1. 省電力化技術概要
2.2 技術実証実験
技術実証実験では、富士通株式会社の提供する仮想化基地局に、前記の省電力イネーブラを適用し、実際の商用ネットワークに近い環境で有効性の評価を行いました。今回は、第一弾として、省電力イネーブラの中から、@厳しい遅延要件の範囲内でソフトウェア処理をsleepする制御技術、A処理に必要なデバイスを制御する技術、Bデバイスが持っている省電力機能を最大化する制御技術の有効性を確認しました。仮想化基地局において主流な2種類のアーキテクチャ(look aside型*4、in line型*4)の製品にこれらの技術を適用し、現行の汎用サーバを使用して評価を行い、低トラヒックの条件下において、双方最大46%の消費電力削減効果を確認しました。
3.今後の展開
今回、技術実証実験により有効性を確認した当省電力化技術は、活用を希望するベンダへのライセンシングを予定しています。当省電力化技術をベンダの仮想化基地局への搭載を通じてグローバルに展開することにより、5G / 6Gネットワーク等の省電力化による通信事業者の脱炭素化を支援し、持続可能な社会の実現をめざします。また、IOWN構想実現に向けた省電力化技術の研究開発を今後も進めることにより、社会全体の省電力化に貢献していきます。
<用語解説>
*1 IOWN構想
あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想です。
https://www.rd.ntt/iown/index.html
*2 オールフォトニクス・ネットワーク (APN)
APNは、ネットワークから端末、チップの中にまで新たな光技術を導入することにより、これまで実現が困難であった超低消費電力化、超高速処理を達成します。1本の光ファイバ上で機能ごとに波長を割り当てて運用することで、インターネットに代表される情報通信の機能や、センシングの機能など、社会基盤を支える複数の機能を互いに干渉することなく提供することができます。
https://www.rd.ntt/iown/0002.html
*3 超強力・汎用WhiteBOX
ネットワークとコンピューティングの融合等を目的に、従来のサーバの概念から脱却した光接続の新しいコンピューティングを実現することにより、消費電力削減や低遅延を可能とします。
*4 look aside型アーキテクチャ / in line型アーキテクチャ
汎用CPUが苦手とする並列度の高い演算を、GPU、FPGA (Field Programmable Gate Array)、ASIC (Application Specific Integrated Circuit)等のアクセラレータへオフロードする場合があり、この実現形態としてlook aside型アーキテクチャとin line型アーキテクチャがあります。vRANにおいては、前者は無線レイヤ1の演算の一部、特に暗号化・復号化といった処理負荷が高い部分を、後者は無線レイヤ1の演算すべてをオフロードする形態となっています。