プレスリリース
〜機器構成は従来比2分の1に。データセンタ間通信の低消費電力化も期待〜
株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下、「KDDI総合研究所」)と古河電気工業株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森平 英也、以下、「古河電工」)のグループ会社であるOFS Laboratories, LLC(本社:米国、以下、「OFS」)は、現在の光ファイバで利用可能なO帯(波長領域1260nm〜1360nm)において、光通信で最も利用されているC帯(同1530nm〜1565nm)もしくはL帯(同1565nm〜1625nm)の約2倍となる9.6THzを一括で増幅可能な、超広帯域な光ファイバ増幅器(ビスマス添加光ファイバ増幅器、以下、BDFA)を使って、40Tbpsを超える大容量なコヒーレント高密度波長多重(以下、DWDM(注1))信号の伝送実験(以下、本実験)に世界で初めて(注2)成功しました。本実験において、KDDI総合研究所はO帯コヒーレントDWDM伝送技術を、OFSは超広帯域なBDFAをそれぞれ開発しました。
これにより、80kmまでの距離をつなぐことが多いデータセンタ間通信などにおいて、光ファイバ通信での大容量化が可能になるほか、低消費電力化が期待できます。
■背景
Beyond 5G/6G時代には、現在よりもはるかに膨大で多様なデータがネットワークを流れることが想定され、ネットワークを支えるためには光ファイバ通信の伝送容量をより拡大することが不可欠です。現在の光ファイバ通信では、主にC帯やL帯の波長帯が利用されていますが、光ファイバ通信のさらなる大容量化に向けて活用できる波長帯を増やすことが期待されています。
こうしたなか、O帯の活用が注目されています。C帯やL帯を用いた光信号伝送では、波長分散(注3)による信号の歪みを補償するため高負荷なデジタル信号処理が必要になりますが、ゼロ分散付近の波長帯であるO帯は、波長分散による影響が小さく、デジタル信号処理の負荷を軽減し、エネルギ効率を改善できるという特長があります。
一方で、高速かつ大容量な通信が可能な伝送技術として、光の強度のほかに光の位相を利用するコヒーレント伝送技術がありますが、光の位相は他の光信号成分に影響されて歪みやすく、ゼロ分散波長に近いほどその影響をより強く受けることが知られています。これにより生じる非線形雑音は、一般的にデジタル信号処理技術で取り除くことが難しいため、結果として、システム全体のパフォーマンスを低下させてしまいます。このため、これまでO帯ではコヒーレント伝送技術の適用は難しいとされてきました。
■内容
【今回の成果】
このたび、KDDI総合研究所はO帯コヒーレントDWDM伝送技術を、OFSは超広帯域なBDFAをそれぞれ開発しました。これらを組み合わせ、非線形雑音の影響を最小化することでO帯でのコヒーレント伝送技術の適用を実現しました。
本実験を通して、O帯コヒーレントDWDM伝送システムでは従来のC+L帯を用いた広帯域伝送構成の2分の1の機器構成で、低消費電力化を図りながら同等以上の広帯域・大容量伝送が可能であることを確認しました。
1)O帯コヒーレントDWDM伝送技術について
O帯における非線形雑音の最小化については、高密度に多重化した波長信号毎に送信光パワーを適切に設定することで実現しました。これにより、送信機側の信号の補正と受信機側の波長分散補償のプロセスを省いた場合においても、非線形雑音の影響を最小化し、平均240Gbpsを超える高いスループットの波長チャンネルを190チャンネルまで多重伝送できる可能性を明らかにしました。この結果、40Tbpsを超える大容量なO帯コヒーレントDWDM伝送を可能としました。
2)超広帯域なBDFAについて(図1)
光ファイバ増幅器の業界標準であるC帯またはL帯のみを増幅できるEDFA(エルビウム添加光ファイバ増幅器)と比較して、BDFAは、C帯とL帯を合わせた帯域よりも広いO帯全域にわたってEDFAと同等またはそれ以上の利得および雑音指数を得ることができます。本実験では、O帯の9.6THzにわたってコヒーレントDWDM信号を増幅したことにより、C+L帯に匹敵する超広帯域を実現できることを示しました。
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図1 ビスマス添加光ファイバ増幅器(BDFA)
O帯コヒーレントDWDM伝送システムは、機器構成を縮小できる点(図2)と、ゼロ分散付近の波長帯を用いることで波長分散に係るデジタル信号処理を大幅に省ける点(図3)に特長があり、いずれも低消費電力化が期待されています。
機器構成においては、2台以上の光ファイバ増幅器を用意する必要があった従来に比べて、光ファイバ増幅器1台分と同等のエネルギ効率で大容量の伝送能力を発揮できます。スリム化したことで省スペースにもつながります。
また、送信機側の信号補正と受信機側の波長分散補償を行うデジタル信号処理のプロセス削減が可能となるので、電子回路の規模を大幅に小さくできる可能性があります。処理時間の短縮による低遅延化の効果も見込まれます。
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図2 9.6THz級の広帯域な光ファイバ伝送の構成
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図3 O帯における伝送損失と波長分散のイメージ
コヒーレントDWDM伝送システムは高速かつ大容量な光ファイバ伝送が可能であるため、都市間をつなぐような長距離の伝送区間に適用されていましたが、近年は大容量化が求められるデータセンタ間などの短中距離の区間にも適用されています。今回開発したBDFAを用いることで、従来の広帯域伝送構成では光増幅器ごとに必要だった波長合分波器を設置せずに済むため、伝送路の損失増加を抑えられるようになり、短中距離の伝送区間においても波長分散が少なくエネルギ効率に優れたO帯の利点を生かすことが可能です。
【今後の展望】
今回の成果を活用することにより、既存の光ファイバの潜在的な伝送容量を最大限まで引き出せるようになることが期待されます。今後、O帯コヒーレントDWDM伝送システムの実用化に向けては、さまざまな技術開発が求められますが、今回の成果をきっかけに、送受信機や光ファイバ増幅器、ならびにデジタル信号処理アルゴリズムの開発が加速されることが期待されます。
本研究開発の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務としてKDDI総合研究所が受託しているプロジェクト JPNP20017の結果、得られたものです。
今回の成果は2023年3月5日〜9日に開催された光通信技術に関する世界最大の国際会議OFC2023(Optical Fiber Communication Conference & Exposition)のポストデッドライン論文(注4)として報告されました。
なお本件は、2023年5月24日〜26日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される、「ワイヤレスジャパン 2023×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2023」のKDDI総合研究所ブースで紹介します。
(注1)コヒーレント高密度波長多重(DWDM)伝送技術:コヒーレント伝送技術とは、光の強度だけでなく波としての性質を利用して、従来の強度変調‐直接検波技術と比べて大量のデータを送信する方式。高密度波長多重(DWDM)とは、光ファイバの伝送密度を高めるWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)技術において、波長を密に多重した方式。
(注2)O帯において9.6THzの帯域幅を利用したコヒーレント高密度波長多重伝送実験に世界で初めて成功(2023年5月18日時点 KDDI総合研究所調べ)。
(注3)波長分散:光ファイバを伝搬する光波の速さが波長によって異なる現象。
(注4)ポストデッドライン論文:一般論文投稿締め切り後(ポストデッドライン)に受け付けられる論文。会議期間中に論文選考が行われ、高い評価を受けた研究成果のみ報告の機会を得ることができる。
■お問い合わせ先
株式会社KDDI総合研究所
広報グループ
URL:https://www.kddi-research.jp/inquiry.html
古河電気工業株式会社
広報部
お問い合わせフォーム:https://www.furukawa.co.jp/srm/form/index.php?id=news