プレスリリース
〜シンバイオティクスを用いたステロイド使用軽減:ヒトへの応用に期待〜
藤田医科大学(愛知県豊明市、学長:湯澤由紀夫) 消化器内科学 医科プレ・プロバイオティクス学の研究グループは、株式会社 FINAL ANSWER(神奈川県藤沢市、代表:豊田陽一)、ウェルネオシュガー株式会社(東京都中央区、代表:山本貢司)との産学連携の取り組みで、プレバイオティクス注1とプロバイオティクス注2を併用したシンバイオティクス注3を用いて、犬のアトピー性皮膚炎に対する新たな補完治療注4効果の一端を得ることができました。様々なシンバイオティクスの組み合わせが、疾患改善のための研究や日常的な生活には見られますが、犬のアトピー性皮膚炎に対する効果は十分に検証されていませんでした。
今回の研究は、アトピー性皮膚炎や生活習慣病改善効果が知られている3糖のプレバイオティクスである「ケストース」と、乳酸菌の中でもアレルギー抑制効果が多数報告されている「Lactobacillus paracasei(ラクトバチルスパラカゼイ)」を組み合わせて摂取することで、アトピー性皮膚炎の治療に使われるステロイドの量が軽減し、症状も改善することが示されました。オリゴ糖や乳酸菌の多様な疾患改善に及ぼす有用性は世界中で証明されていますが、獣医学領域での展開は十分ではありませんでした。今後、獣医皮膚科の専門医と共同で、犬のアトピー性皮膚炎の治療時における新たな補完治療として展開できる可能性があります。
本研究成果は国際誌「Polish Journal of Veterinary Sciences」(2023年3月26日付オンライン版)に掲載されました。
近年の研究において、医学領域では、プロバイオティクス、プレバイオティクスを用いて様々な疾患に対するQOL改善効果の検証が行われはじめています。今後の社会では、ヒトのみならず、動物でも同様の動向が見られると考えられます。本学では、産学連携による研究を推進し、本学独自の「プレバイオティクス・プロバイオティクス」の組み合わせを見いだすことで、獣医学領域におけるQOL向上に関する研究に発展させていく予定です。
論文URL: https://journals.pan.pl/dlibra/publication/145014/edition/126667/content
注1)プレバイオティクス:体に存在する良い効果を発揮する菌を選択的に増やす食品成分。オリゴ糖・食物繊維など。
注2)プロバイオティクス:体に良い効果を発揮する生きた菌。ビフィズス菌や乳酸菌など。
注3)シンバイオティクス:プレバイオティクスとプロバイオティクスを同時に使用することでシナジカルな効果を発揮する
注4) 補完治療:通常の疾患治療に加えて用いられる非主流の医療方法の総称
<研究成果のポイント>
プレバイオティクス「ケストース」とプロバイオティクス「ラクトバチルスパラカゼイ」は、犬のアトピー性皮膚炎の治療時においてステロイド量を軽減し、皮膚炎の症状を改善する可能性が示唆されました
犬のアトピー性皮膚炎における新たな補完治療の開発が期待されます
獣医学領域でもプロバイオティクス、プレバイオティクスを用いた様々な疾患に対するQOL改善効果の研究が発展することが推測されます
<背 景>
腸内環境への着目とともに、腸内環境を改善する成分であるプレバイオティクス、プロバイオティクスへの注目は日に日に高まっています。その研究フィールドは、医学のみにとどまらず動物の治療を主体とする獣医学領域まで拡大しつつあり、実際に、それらを利用した研究報告や製品開発も非常に活発に行われています。しかしながら、「どのプレバイオティクス・プロバイオティクスを使用すればいいのか?」という問いに対し未だ十分な研究成果はありませんでした。
本研究では、犬のアトピー性皮膚炎に対し、プレバイオティクス「ケストース」とプロバイオティクス「ラクトバチルスパラカゼイ」の組み合わせによるアプローチにおいて、治療に使用するステロイド量とアトピー性皮膚炎の症状がどのように変化するかを調べる研究を行いました。この研究は、今後の獣医皮膚科領域における新たな補完治療の発展につながる可能性があります。
<研究方法>
継続したステロイド治療において改善効果がみられないアトピー性皮膚炎に罹患している犬15頭を対象
ステロイドとの併用によりタブレットとカプセル形式にてプレバオティクス・プロバイオティクスを90日投与
投与前後でのアトピー性皮膚炎スコア、痒みスコア、ステロイド使用量などを検証
<今後の展開>
本研究により、シンバイオティクスを用いた犬のアトピー性皮膚炎の改善に寄与するプレバイオティクスとプロバイオティクスの組み合わせが明らかとなりました。アレルギー症状は、様々な疾患との関連が報告されています。愛玩動物のQOL向上は社会的にも重要な研究です。今後は、アトピー性皮膚炎のみならず他の疾患での改善効果を検証する研究を進めるとともに、犬以外の動物においても効果を検証する予定です。最終的には、医学領域における展開を視野に研究を進めていく予定です。
<文献情報>
●論文タイトル
Clinical effects of combined Lactobacillus paracasei and kestose on canine atopic dermatitis
●日本語タイトル
犬アトピー性皮膚炎に対するケストースとラクトバチルスパラカゼイの臨床的効果
●著者
川野浩志1, 2、伊從慶太3、近藤修啓2,4,5、山川早紀2,4,5、藤井匡6、舩坂好平2、渡辺彩子2、廣岡芳樹2,6、栃尾巧6
●所属
1 東京動物アレルギーセンター
2 藤田医科大学 消化器内科学講座
3 (株)VDT Vet Derm Tokyo
4 伊藤忠製糖(株)研究開発室
5 ウェルネオシュガー(株)
6 藤田医科大学 医科プレ・プロバイオティクス学講座
●掲載誌
Polish Journal of Veterinary Sciences 26 (2023) 145014
●掲載日
2023年3月26日(オンライン版)
●DOI
10.24425/pjvs.2023.145014
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp