プレスリリース
世界初、ブロックチェーンを用いた無線アクセス共用技術の実証実験に成功 〜社会全体の設備コストや消費電力の削減につながる個人間のICTリソース共用の実現に貢献〜
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、いたるところに設置された無線アクセス装置を、誰でも都度契約し利用可能とする、ブロックチェーンを用いた個人間の無線アクセス共用技術の実証実験を実施し、世界で初めて*1成功しました。
本技術では、Web3で注目されるブロックチェーンと無線アクセス技術を組み合わせることで、無線アクセス共用に関するインセンティブやセキュリティ、コストといった課題を解決することが可能になります。これにより、従来難しかった個人間の無線アクセスの共用が可能となり、これまでは自身の用意した無線LANや契約済みWi-Fiサービス・セルラ回線のみの利用であったところを、誰でも近くにある無線アクセスに接続して通信を利用可能とすることが期待できます。更に、通信品質を落とさずに無線アクセス共用を可能とすることで、将来のトラヒック増加に対応が可能であり、かつ、社会全体で効率化された無線アクセスネットワークの実現が期待されます。これらにより、社会全体の設備コストや消費電力の削減などにつながることが想定されます。
なお、本技術は2023年5月17日(水)〜18日(木)に開催予定の「つくばフォーラム2023*2」にて紹介します。
1.背景
2030年には2020年時と比較して無線トラヒックが約80倍に増加すると予測されており*3、将来へ向けて無線トラヒックはますます増加すると考えられます。トラヒック増加によってネットワークが混雑し接続できなくなることを避けるため、個々の無線アクセスのさらなる高度化に加え、全ての無線トラヒックを処理するための無線リソースを確保する必要があります。無線リソースの確保には、無線アクセス設備である無線基地局など大幅に増設する方法がありますが、80倍の無線トラヒックを収容する無線アクセス設備を全て用意する方法では、コストの高騰が課題となります。
このような課題の解決に向けては、無線LANやローカル5Gなど、個人や企業の有する自営無線アクセスまでを含めた無線リソースを有効利用することが重要です。無線リソースの有効利用には、それらの無線アクセスの共用が有効な手段となります。しかし、従来の無線アクセス共用では無線アクセス提供者へのインセンティブや、共用に関するセキュリティ、システム構築に関するコスト負担の低減といった課題の解決が必要です。また、無線アクセスの共用を行えたとしても別の課題があります。例えば様々な所有者の無線アクセスが共用されると、それらは集中制御されることなく個別に運用されるため、通信品質の良い無線アクセスにユーザが集中的に接続してしまい結果的に混雑が発生するなど、無線アクセス全体で無線リソースの利用効率の低下や通信品質の劣化が課題となります。
上記のような課題を解決し無線アクセス共用を進めることで、社会全体での無線アクセスの有効利用につながります。例えば、東京都23区内では推計約500万台の無線LANアクセスポイントが稼働しており、土地面積を勘案すると、約20倍の過剰なアクセスポイントが既に設置され、設置した個人や法人に専有されています*4。そこで、余剰となっている約475万台のアクセスポイントを共用することができれば、最小限の無線設備・消費電力で、将来の無線トラヒック増加に対応することが可能になります。
2.技術のポイント
Web3で注目されるブロックチェーンを利用し、無線アクセスと組み合わせることで、様々な個人や企業の持つ無線アクセスを誰でも都度契約し利用可能としており、以下が技術のポイントです。
・通信契約を通した無線アクセス提供者への契約収入によるインセンティブの確保
・ブロックチェーンの有するセキュリティ機能によるセキュアな共用の実現
・自律分散的なブロックチェーンによる集中制御局を不要とした共用システム構築コストの低減
・ブロックチェーン台帳の情報を活用して、各無線基地局が自律分散的に端末接続数を平滑化し通信品質を向上(無線リソース利用向上技術)
実証実験では、ブロックチェーンを用いた無線アクセス共用技術を実証した他、無線リソースの利用効率向上の効果も確認しました。
3.実証実験の結果
本実証の成果により、様々な個人や企業の持つ無線アクセスを、誰でも都度契約し利用可能となります。
図1に実証実験を行った本技術の通信契約締結フローを示します。
最初に@のように、無線端末(UE:User Equipment)は無線信号を観測した周囲の無線基地局(BS:Base Station)のリストと自身のデジタル署名を付与し、通信契約のトランザクションを発行します。ここでは仮接続したBSにトランザクションを送信していますが、既に通信契約済のBSや本技術以外の通信回線(例えば公衆セルラ回線)を利用しても構いません。
Aにおいて、ブロックチェーンネットワーク(NW)上ではデジタル署名を検証することで、本人性確認を行い成りすましを防ぐとともに、要求内容に改ざんなどの不正が無いことを確認します。さらに、UEが送付したBSのリストから各BSの混雑度などを考慮し、適切な接続先(契約先)を決定します。この結果をBSおよびUEへ通知します。この一連の動作はブロックチェーン上のスマートコントラクトにより実行されます。
Bでは、Aの結果に基づきBS・UE間で通信契約が実行され、BSは通信の提供、UEは対価の支払を実行します。
このような、ブロックチェーンの個人間取引の仕組みを個人間の無線アクセス共用に合わせて実装および実証実験を行ったのは世界初の取り組みであり、通信契約締結フローのAにおける適切な接続先(契約先)の決定を行う部分はNTT独自技術となっています。
なお、本実証実験ではEthereum-PoA*5*6を用いて実装しましたが、他のブロックチェーンプラットフォームを用いても実装可能です。
[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/2341/70782/700_234_2023042610335364487f816fe61.png
図1 ブロックチェーンを用いた通信契約締結フローの概要
図2に実証実験の環境を示します。
ここでは図1の通信契約締結フローを実装し、3台のBSおよび10台のUEを用いました。各BSおよびUEは全て管理者が異なる状態です。本技術を用いることにより、様々な管理者の無線アクセスが混在している場合に対して、各UEが都度契約により通信を利用できることを確認しました。
さらに、NTT独自の無線リソース利用効率向上技術の効果も確認しました。単に都度契約によりBS-UE接続を行う場合、図2左下のように受信電力の高い特定のBSに集中接続してしまい、BSの混雑により無線リソースの利用効率が低下し、通信品質が劣化してしまいます。NTT独自の無線リソース利用向上技術では、ブロックチェーン上の通信契約履歴を用いて、各BSのUE接続数を参照することで各BSの混雑状況を把握します。そして、混雑しているBSほど通信契約料を高く、混雑していなければ通信契約料を安くするよう制御します。こうすることで、UEは通信契約料の安いBSを選択するだけで、結果的に混雑が解消され、無線アクセス全体の無線リソース利用効率が向上します。本技術により、図2右下のように自律分散的にBS接続数を平滑化することが可能になり、無線リソースを有効利用することが可能です。図3に無線リソース利用効率向上技術の有無における全UEのスループットを示していますが、本技術を用いることでUE全体のスループットが向上していることがわかります。
[画像2]https://user.pr-automation.jp/simg/2341/70782/700_389_2023042610335364487f817fb88.png
図2 実証実験環境と無線リソース利用効率向上技術有無でのBS接続結果
[画像3]https://user.pr-automation.jp/simg/2341/70782/700_421_2023042610335364487f814d7e5.png
図3 無線リソース利用効率向上技術の効果
4.今後の展開
本技術により、無線設備利用者は利用可能な無線設備の増加による快適性向上、無線設備提供者は共用提供による収入増、社会全体では共用化による無線設備投資・消費電力・電波干渉の低減など、社会全体での様々なメリットにつながることが期待されます。本技術をさらに進めることで、無線アクセス設備の投資コストを削減しながら余剰無線リソースの有効活用を実現することで、エネルギー問題解決への貢献が期待されます。また、災害時の無線アクセス断に対して本技術を適用することで他無線アクセスへのシームレスな移行が可能となり、災害時においても途切れないネットワークの提供が期待されます。
個人間の無線アクセス共用の実現に向けて、設備共用に関する法規制との整合など、実現へ向けて種々の課題がありますが、本技術により、Web3で期待される、従来の経済原理では実現が難しかった課題解決や経済圏の形成の一形態として、無線アクセス提供者へのインセンティブを通した、将来の新たな無線アクセス共用の実現をめざして、2024年度の技術確立に向けてさらなる検討を推進します。
[画像4]https://user.pr-automation.jp/simg/2341/70782/700_406_2023042610335364487f81364f4.png
図4 今後の展望
<用語解説>
*1 2023年5月15日現在、NTT調べ。
*2 つくばフォーラム2023
https://www.tsukuba-forum.jp/
*3 ITU-R報告M.2370-0 ”IMT traffic estimates for the years 2020 to 2030”より
https://www.itu.int/pub/R-REP-M.2370-2015
*4 総務省 “無線LAN等の市場の現状について”、総務省 “無線LAN利用者に対するアンケート調査”、IDC Japan “国内企業向けネットワーク機器市場予測、2022年〜2026年”をもとにNTT試算
https://www.soumu.go.jp/main_content/000846977.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/000756068.pdf
https://www.idc.com/jp/research/report-list?search=JPJ47865122
*5 Ethereum
ブロックチェーンプラットフォームのひとつ。
*6 PoA (Proof of Authority)
ブロックチェーンで用いられる合意形成アルゴリズムのひとつ。