プレスリリース
【昭和大学・ジョンズホプキンス大学・慶應義塾大学・九州大学】腸内細菌叢の変化がうつ病につながるメカニズムを発見 〜腸管免疫にかかわるγδ(ガンマデルタ)T細胞が脳に作用する〜
昭和大学の真田建史准教授(医学部精神医学講座)は、ジョンズホプキンス大学の神谷篤教授と酒本真次研究員(現岡山大学助教)、慶應義塾大学の岸本泰士郎特任教授、福田真嗣特任教授らとの共同研究により、乳酸菌の減少がうつ病患者のうつ症状の重症度と関連すること、また心理社会的ストレスをかけたマウスにおいて、特定の乳酸菌の減少がうつ病様行動を引き起こす細胞分子メカニズムを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、2023年3月20日(米国東部標準時間)に『Nature Immunology』(Impact Factor 31.25)のオンライン版に掲載されました。
腸内には数多くの細菌が存在し、これらは腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれています。腸管と脳の機能は互いに密接に関係し、ストレスによる腸内細菌叢(腸内フローラ)の変化がうつ病をはじめとする精神疾患の病態生理にかかわることは知られていますが、その具体的な仕組みは明らかでありませんでした。
本研究では、うつ病の患者と健常者の便から腸内細菌を採取し、腸内細菌叢を比較したところ、乳酸菌属の減少がヒトのうつ病患者のうつ・不安症状の重症度と相関を示すことを見出しました。また、慢性的に心理社会的ストレスをかけたマウスにおいても、特定の乳酸菌が減少することで、うつ病様行動の指標とされる社会性の低下を示すことを見出しました。
この特定乳酸菌の減少が、腸管免疫システムに重要な働きをもつTリンパ球である、γδT細胞の分化を促進すること、また、そのプロセスが、T細胞に存在する免疫反応を司る受容体の1つであるデクチン1により仲介されることもわかりました。抗炎症作用を持つことで知られる漢方生薬である「茯苓」の成分パキマンは、デクチン1により認識されます。心理社会的ストレスをかけたマウスにおいてパキマンを慢性経口投与したところ、この受容体を介して腸管におけるγδ17T細胞への分化と脳への移行を抑制し、うつ病様行動への予防効果があることを明らかにしました。さらに、ストレスにより減少した特定の乳酸菌の経口投与によっても、同様の予防効果を見出しました。
既存のうつ病治療薬はセロトニンをはじめとする脳内神経伝達物質を調整するものがほとんどであり、うつ病の有病率が高いにも関わらず、多くの患者が治療抵抗性を示します。本研究は、腸管の免疫システムを創薬ターゲットとすることで、ストレスにより生じるうつ病など精神疾患に対する新しい予防・治療法開発につながる可能性を示しています。
<論文情報>
・タイトル:Dectin-1 signaling on colonic γδT cells promotes psychosocial stress responses
・掲載紙:Nature Immunology
・著者:Xiaolei Zhu, Shinji Sakamoto, Chiharu Ishii, Matthew D. Smith, Koki Ito, Mizuho Obayashi, Lisa Unger, Yuto Hasegawa, Shunya Kurokawa, Taishiro Kishimoto, Hui Li, Shinya Hatano, Tza-Huei Wang, Yasunobu Yoshikai, Shin-ichi Kano, Shinji Fukuda, Kenji Sanada, Peter A. Calabresi, Atsushi Kamiya
・DOI: 10.1038/s41590-023-01447-8
・URL: https://www.nature.com/articles/s41590-023-01447-8
<関連リンク>
・ジョンズホプキンス大学プレスリリース(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000119085.html
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