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【東京薬科大学】組織修復を助ける制御性単球の産生機構が明らかに 〜炎症性腸疾患やがんの新たな治療法開発に期待〜

(Digital PR Platform) 2023年03月10日(金)14時05分配信 Digital PR Platform



研究成果のポイント
■ 傷ついた組織を修復する制御性単球の産生機構を、世界で初めて明らかにしました。
■ ヒトにもマウスの制御性単球に相当する免疫調節細胞(CXCR1陽性単球)が存在することが分かりました。
■ 制御性単球の炎症抑制機能と組織修復機能は、炎症性腸疾患などこれまで治療困難だったヒト炎症疾患の治療法開発に応用できます。
■ 制御性単球の産生を抑えることで、がんなど、免疫が十分に働かないことで悪化する病気の治療にもつながる可能性があります。





概要
東京薬科大学 生命科学部 免疫制御学研究室 池田直輝研究員、浅野謙一准教授らのグループは、炎症抑制と組織修復に特化した特殊な白血球「制御性単球」が作られる仕組みを明らかにしました。今回の研究で、制御性単球が、炎症回復期の骨髄で、これまで好中球にのみ分化すると考えらえられていた前駆細胞から、G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)という好中球を増やすタンパク質の刺激で産生が加速することが分かりました。また、マウス制御性単球に相当する炎症抑制型のヒト単球を発見し、CXCR1という細胞表面に発現するたんぱく質を目印として明確に見分ける方法を確立しました。この研究により、これまで謎に包まれていた、炎症収束や組織修復に働く免疫細胞の正体とその産生機構が明らかになり、制御性単球を利用した炎症疾患治療法開発の道が開かれました。以上の成果は2023年2月28日に米国科学誌『Cell Reports』に掲載されました。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域などの支援により行われたものです。


研究の背景
急性炎症は、体に侵入した病原性微生物や損傷した組織を排除するのに必須の生体応答です。しかし行き過ぎた炎症は自分自身の組織をも傷つけてしまうことがあるため、炎症の原因が取り除かれた後は速やかに炎症を抑える必要があります。単球は、急性炎症の誘導と回復期の炎症収束の両方にかかわる白血球の一種です。我々のグループは以前に、炎症急性期に見られる通常の単球と異なり、炎症回復期の骨髄で爆発的に増産され、炎症組織に動員される特殊な単球を発見しました。そしてこの単球が炎症を鎮め、組織を修復する能力に長けていることにちなみ、一般的な炎症性単球と区別する意味で「制御性単球」と名づけました。制御性単球の炎症抑制機能と組織修復機能は、炎症性腸疾患など様々なヒト疾患治療の切り札になると考えられますが、生体内で制御性単球を産生する仕組みが分かっておらず、そのことが今日まで治療応用のさまたげとなっていました。


研究内容と成果
もともと定常状態では、炎症誘導にかかわる従来型の単球がMDP(注1、monocyte-dendritic cell progenitors)からcMoP(注2、common monocyte progenitors)を経由して作られることが分かっていました。研究グループは制御性単球の由来を明らかにするため、定常状態と炎症状態における単球分化経路の変化をコンピューターで予測しました。すると、炎症状態ではMDP由来の単球が著明に減少し、制御性単球が、これまで好中球にしか分化しないと考えられていた好中球前駆細胞(proNeu1、注3、progenitors of neutrophil 1)から増産される、という意外な予測結果が出力されました。そこで、コンピューターが予測したような現象が本当に骨髄内で起こっているかどうかを、単球や好中球の上流に位置する前駆細胞をマウスに移植することで検証しました(図1)。この移植実験で、制御性単球がproNeu1からMDP由来のcMoPとは異なる単球前駆細胞(注4、GMP-MoP)を経由して産生されることが確認できました(図2)。また、G-CSF(注5)という好中球を増やすたんぱく質が、proNeu1から制御性単球への分化を促進することも発見しました。

続けて、マウス制御性単球に相当するヒト細胞の探索に取り組みました。
ここまでの研究で、制御性単球は、単球でありながら好中球の性質の一部も備えるハイブリッドな細胞であることが分かってきました。そこで、好中球との類似性を手がかりにヒト制御性単球を探索しました。単球における、約20種類の好中球マーカー発現を調べたところ、CXCR1という表面タンパク質を発現する単球が健常人の血液中にわずかながら存在することを突き止めました。我々のグループは、この新たに発見された、CXCR1陽性単球がマウス制御性単球に相当することを証明するため、CXCR1陽性単球の免疫調節能力を評価しました。健常人の血液中から集めたT細胞を、同じドナーから分取したCXCR1陽性単球やCXCR1陰性単球と混合し4日間培養すると、CXCR1陰性単球と混合して培養したT細胞は、T細胞単独で培養した場合よりも細胞数が増加しました。反対に、ヒトCXCR1陽性単球は、T細胞の増殖を強力に抑制しました(図3)。この結果はヒトCXCR1陽性単球も、マウス制御性単球と同じような免疫抑制能力を備えていることを意味します。
我々のグループは、ヒトCXCR1陽性単球とマウス制御性単球の類縁性を、増殖因子を指標にすることでさらに検証しました。もし、ヒトCXCR1陽性単球とマウス制御性単球が相同なら、ヒトCXCR1陽性単球もマウス制御性単球と同じようにG-CSFに反応して増加すると考えられます。あいにくヒトでは、マウスのように実験目的でG-CSFを投与することはできません。しかし健常人でも、末梢血中の骨髄幹細胞を集めるためにG-CSFを投与する場合があります。そこでG-CSF投与ドナーの血液を一部譲り受け、CXCR1陽性単球の割合を調べたところ、ヒトでもやはりG-CSF投与後にCXCR1陽性単球が増加することが分かりました(図4)。
以上の実験結果から、ヒトCXCR1陽性単球が、好中球との類似性と免疫調節機能の両面で、マウス制御性単球に相当する新しい炎症抑制細胞であることが証明できました。


本研究の意義と今後の展望
今回、研究グループは、炎症収束と組織修復に特化した制御性単球の産生機構を世界で初めて明らかにしました。ヒト疾患の病態形成と制御性単球の科学的因果関係をさらに検証し、制御性単球によるT細胞抑制機序の解明などを進めることで、炎症性腸疾患をはじめとする難治疾患に対する新たな治療オプションの提案につなげたいと思います。
用語解説
注1 MDP
マクロファージ樹状細胞前駆細胞。単球や樹状細胞に分化することのできる前駆細胞。

注2 cMoP
共通単球前駆細胞。単球にのみ分化することができる前駆細胞。

注3 proNeu
最近まで好中球にのみ分化すると考えられていた前駆細胞。分化段階の違いにより、より幼若なproNeu1と好中球への分化が少し進んだproNeu2に分けられる。

注4 GMP-MoP
GMP由来単球前駆細胞。今回、池田らが発見した、GMP(顆粒球単球前駆細胞)に由来する新しい単球前駆細胞で、制御性単球に分化する一段階手前の前駆細胞。

注5 G-CSF
顆粒球コロニー刺激因子。好中球を増やす作用をもつたんぱく質。また骨髄から末梢血へ造血幹細胞を移動させる活性もあり、幹細胞を血液中から効率よく集めるために健常ドナーに投与することがある。

論文情報
論文タイトル
The early neutrophil-committed progenitors aberrantly differentiate into immunoregulatory monocytes during emergency myelopoiesis.
炎症状態では、好中球前駆細胞から制御性単球が分化する

著者
Ikeda N., Kubota H., Suzuki R., Morita M., Yoshimura A., Osada Y., Kishida K., Kitamura D., Iwata A., Yotsumoto S., Kurotaki D., Nishimura K., Nishiyama A., Tamura T., Kamatani T., Tsunoda T., Murakawa M, Asahina Y., Hayashi Y., Harada H., Harada Y., Yokota A., Hirai H., Seki T., Kuwahara M., Yamashita M., Shichino S., Tanaka M., and Asano K.

掲載誌
Cell Reports

DOI
10.1016/j.celrep.2023.112165

研究支援
本研究は、AMED-CREST 「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「NASHにおける肝リモデリングを制御する細胞間相互作用の解明と革新的診断・治療法創出への応用」(研究開発代表者:国立国際医療センター 田中稔、研究開発分担者:東京薬科大学 田中正人)、AMED難治性疾患実用化研究事業における研究開発課題「制御性単球の分化機構解明と炎症性腸疾患に対する治療応用」(研究代表者:東京薬科大学 浅野謙一)、AMED次世代がん医療加速化研究事業における研究開発課題「制御性単球を標的としたがん治療法の開発」(研究開発代表者:東京薬科大学 田中正人)、文部科学省・学術変革領域研究(A)における研究開発課題「生体防御における自己認識の「功」と「罪」」(領域代表者:大阪大学 山崎晶、計画研究代表者:東京薬科大学 浅野謙一)などの支援を受けて行われたものです。



▼本件に関する問い合わせ先
総務部 広報課
住所:東京都八王子市堀之内1432-1
TEL:0426766711
FAX:042-676-1633
メール:kouhouka@toyaku.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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