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SGLT2阻害薬はGLP1受容体アゴニストと比較すると 2型糖尿病患者の血圧管理に有利である

(Digital PR Platform) 2022年10月12日(水)14時00分配信 Digital PR Platform

 横浜市立大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・高血圧内科学 大学院生の小林一雄医師(神奈川県内科医学会高血圧・腎疾患対策委員会 委員/内科クリニックこばやし院長)および田村功一教授らの研究グループは、神奈川県内科医学会高血圧腎疾患対策委員会と共同して行ったかかりつけ患者を対象とした後ろ向き調査研究において、SGLT2阻害薬*1の血圧低下作用がGLP1受容体アゴニスト*2よりも優れていることを明らかにしました。さらに、その血圧低下が糸球体濾過量の低下抑制と関連があったことを報告しました。
 本研究において、より優れたSGLT2阻害薬の血圧低下効果が腎保護と関連していることが実臨床データにて明らかにされたことで、今後さらなるSGLT2阻害薬の優先的使用さらには、高血圧を合併している糖尿病患者の症例における積極的使用が期待されます。
 本研究成果は、SPRINGER NATURE誌「Scientific Reports」に掲載されました。(2022年9月27日オンライン)

研究成果のポイント

GLP1受容体アゴニストより強い血圧低下効果がSGLT2阻害薬にて認められた
SGLT2阻害薬の血圧低下効果と糸球体濾過量の低下抑制作用の関係が示唆された
実臨床データ解析として傾向スコア*3の重み付け*4解析を系統的に報告した

研究背景
 血糖降下薬である両薬剤は近年の大規模臨床試験において心血管合併症のみならず腎不全発症抑制にも効果を示すことが報告されています。さらに両薬剤は血糖低下作用以外にも体重減少・血圧低下・脂質代謝改善など他の血糖降下薬にはない多面的作用を持ち、臓器保護作用のメカニズムの一つと考えられています。しかし、臓器保護効果に対しての両薬剤の直接的比較を行った臨床研究はこれまで行われていませんでした。
 今回の研究は、傾向スコアの重み付け解析(IPW)を用いた実臨床データ解析方法にて実施しました。

研究内容
 神奈川県内科医学会高血圧腎疾患対策委員会が中心となり、神奈川県内およそ30の医療機関に通院中の2型糖尿病患者を対象にSGLT2阻害薬もしくはGLP1受容体アゴニスト使用症例の後ろ向き調査を行いました。
 本研究では、血圧管理と腎保護効果の関連を明確にするためお互いに併用をしていない、投与前血圧130/80mmHg以上の症例とし、SGLT2阻害薬群384例、GLP1受容体アゴニスト群160名が解析に組み込まれました(図1)。




[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/63843/300_306_20221007104231633f84076f7cd.jpg
図1:対象患者の選定アルゴリズム



 本研究では2群間の背景を調整するため、傾向スコアを用いた6パターンの重み付け(IPW)方法を実施しました。その結果、主要アウトカムである血圧管理<130/80mmHg>目標達成に関してはSGLT2阻害薬にて有意に高く、統合されたオッズ比は2.09【95%信頼区間1.80, 2.43】でした。さらに最も2群間の標準差違*5の少なかったATEモデル(傾向スコア0.05から0.95症例のみを抽出)において一般化線形モデルにて解析を行ったところ、SGLT2阻害薬治療群では、GLP1受容体アゴニスト治療群と比べ、拡張期血圧・平均血圧・体重はより低下し、年間の推算糸球体濾過量(eGFR)の変化量は有意に高値を示しました(図2)。


[画像2]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/63843/450_313_20221007104237633f840dc4d51.jpg
図2:対象患者における主な解析結果



今後の展開
 併用療法が必要となることが多い糖尿病の実臨床においてSGLT2阻害薬が優先される一つのエビデンスになると考えられます。厳格な血圧管理が求められる糖尿病において血圧管理に有効かつそれが腎保護にもつながることが明らかとなったことから、今後は高血圧を合併している糖尿病患者に対して積極的にSGLT2阻害薬を投与することが期待されます。
 本研究は後ろ向き調査研究であり、傾向スコアを用いた解析とはいえ、すべての交絡因子の調整はできておらず、本研究の結果を踏まえ今後世界では前向き研究にて結果の確認が行われることが期待されます。

研究費
本研究に関わる費用は神奈川県内科医学会にて支出しています。

論文情報
タイトル: Comparison of the blood pressure management between sodium glucose cotransporter 2 inhibitors and glucagon-like peptide 1 receptor agonists
著者: Kazuo Kobayashia, Masao Toyoda, Nobuo Hatori, Hiroyuki Sakai, Takayuki Furuki, Kazuyoshi Sato, Yasuo Terauchi, Kouichi Tamura, Akira Kanamori
掲載雑誌: Scientific Reports
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-022-20313-5

用語説明
*1 SGLT2阻害薬:グルコース・ナトリウムトランスポーター2阻害薬。腎臓の近位尿細管に位置するSGLT2をブロックすることにより尿糖排泄を促し血糖低下作用を示す。尿糖排泄がカロリーロスをきたすことから体重減少、さらには血圧低下、脂質改善効果も認められ、近年では心臓や腎臓の保護効果も認められることから、一部のSGLT2阻害薬は糖尿病だけではなく慢性心不全や慢性腎臓病の適応病名も認可されている。

*2 GLP1受容体アゴニスト:グルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト。消化管ホルモンであるGLP1様の作用を示し、インスリン分泌を促進し血糖降下作用を示す。胃内容物排泄遅延作用などから食欲低下作用なども示し、体重減少・血圧低下作用なども報告されている。

*3 傾向スコア:統計における用語。ある事象について、それにかかわる複数の交絡因子を共変量としてロジステリック回帰モデルに当てはめて計算される確率値。ある事象に関わる交絡因子をまとめて一つの確立として表す統計的手法で、ランダム化されていない観察研究などにおいて2群間の背景(交絡因子)を調整するときに用いられる。

*4 重み付け:Inverse probability weighting(IPW)。傾向スコア解析において用いられる統計手法の一例。傾向スコアに合わせて「重み」をつけることにより2群間の背景のばらつきを調整する。本研究で解析に用いた方法として、weightingとしてはATE、ATT、stabilized ATEがあり、さらに調整としてtrimmingやtruncationなどがある。

*5 標準差違:standardized difference。2群間のばらつきを評価する値。通常値が大きいほど2群間のばらつきが大きく、0.1未満であればばらつきはほぼないと考えられている。

参考文献など(1-5)
1.Kobayashi K, Toyoda M, Kimura M, Hatori N, Furuki T, Sakai H, et al. Retrospective analysis of effects of sodium-glucose co-transporter 2 inhibitor in Japanese type 2 diabetes mellitus patients with chronic kidney disease. Diab Vasc Dis Res. 2019;16(1):103-7.
2.Kobayashi K, Toyoda M, Hatori N, Furuki T, Sakai H, Umezono T, et al. Blood pressure after treatment with sodium-glucose cotransporter2 inhibitors influences renal composite outcome: Analysis using propensity score-matched models. J Diabetes Investig. 2021;12(1):74-81.
3.Kobayashi K, Toyoda M, Hatori N, Furuki T, Sakai H, Sato K, et al. Sodium-glucose cotransporter2 inhibitor-induced reduction in the mean arterial pressure improved renal composite outcomes in type2 diabetes mellitus patients with chronic kidney disease: A propensity score-matched model analysis in Japan. J Diabetes Investig. 2021;12(8):1408-16.
4.Kobayashi K, Toyoda M, Hatori N, Saito N, Kanaoka T, Sakai H, et al. Retrospective Analysis of the Renoprotective Effects of Long-Term Use of Six Types of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors in Japanese Patients with Type 2 Diabetes Mellitus and Chronic Kidney Disease. Diabetes Technol Ther. 2021;23(2):110-9.
5.Kobayashi K, Toyoda M, Hatori N, Sakai H, Furuki T, Chin K, et al. Comparison of renal outcomes between sodium glucose co-transporter 2 inhibitors and glucagon-like peptide 1 receptor agonists. Diabetes Res Clin Pract. 2022;185:109231.




[画像3]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/63843/400_62_20221007111526633f8bbedcd04.jpg







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