プレスリリース
IOWN APNの実現に向けた大容量光トランスポートネットワークの故障予兆部位推定技術を実証〜高精度に故障を予測し事前対処を行うことで、通信断ゼロをめざす〜
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、フィールド環境において敷設済の光ファイバケーブルと光伝送装置を用い、新規機能を組み入れることにより、多種の故障の予兆を検知し予兆パッケージ部位を推定する技術を世界で初めて実証しました。
IOWN APN※1の実現に向け、更なる大容量化を進める光伝送装置は、容量増により故障影響も増加することは避けられません。これに対応するため、光信号特性情報をきめ細かく収集・解析することにより故障予兆部位の推定粒度を向上させ、サービス影響前に予兆パッケージ部位を特定できる技術を確立し実証しました。本技術を用いた予知保全により故障対応業務の効率・品質の向上、突発的なサービス断回避を実現する新たな保守運用が可能となります。また、本技術を用いた運用性の向上により、IOWN APNの導入推進に貢献します。
1.背景
今後の通信トラヒックは、IoTやデジタルトランスフォーメーションの進展や急速に広がったリモート化により、更に大容量となっていくことが想定され、トラヒックを経済的に電力効率良く収容することが求められています。
トラヒックの経済化・電力利用効率向上のため、NTTでは、毎秒400ギガビットを超える信号を用いた更なる超大容量光伝送を検討していますが、容量増加により光伝送装置の故障時の影響も増大します。そのため、大容量化に合わせ、光伝送装置の故障の影響を極小化し信頼性向上を実現する方法についての検討を進めて来ました。
また、光伝送網の拡張性・柔軟性向上の手段として、オープン化により用途の異なる様々な複数光伝送システムの光直結収容を実現するマルチベンダディスアグリゲーション構成※2が検討されています。一方で、マルチベンダディスアグリゲーション構成による複数光伝送システムの光直結収容は監視制御の連携に制約があり、更に電気信号に変換しない光直結を行うが故に接続点から得られる情報が少なくなるため、故障時の部位の特定が複雑化するという懸念がありました。
2.研究の成果
今回NTTは、従来、保守運用には活用されていなかった光信号特性情報をきめ細かく収集、解析することによりサービス影響前・警報発出前の故障の予兆から、故障交換対象となる光伝送装置のパッケージ単位までの部位特定を高精度に行うことに成功しました。
本実験では、敷設済の光ファイバケーブルと光伝送装置を用いた実験構成に、複数のパッケージ部位に対して複数の故障予兆を模擬する模擬系と光信号特性情報を収集・解析する新規機能部を組み入れて実験を行い(図1)、実運用環境と実装置挙動による光信号変動を加味しても故障予兆の部位特定が可能であることを実証しました。
[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/2341/61225/643_350_2022072020005762d7e0690bc3b.png
図1 フィールドトライアル実験構成
本技術は、光パスを終端し信号処理を行うDSP※3から多くの光受信信号の解析情報と、新たに光パスの各中継区間からも光スペクトル情報※4や光信号品質(OSNR※5)などの情報を収集し、受信端点情報と光伝送網構成情報と組み合わせて解析を行うことで、高精度の予兆部位特定を実現します(図2)。これにより、従来のパフォーマンスモニタ情報※6だけでは検知が困難な光信号の特性変化も予兆として捉え、特定粒度をパッケージ部位までとした予兆部位特定が可能であることが確認できました。
[画像2]https://user.pr-automation.jp/simg/2341/61225/600_335_2022072020005862d7e06a5fddd.png
図2 光信号特性情報利用による部位特定イメージ
さらに、本実験では構成を、光伝送装置のトランスポンダと中継部位を別の光伝送システムにより構成するマルチベンダディスアグリゲーション構成としており、監視制御の連携に制約がある複数システム間の光直結接続を含めても、光信号特性そのものを解析することで、予兆パッケージ部位の特定が可能であることを合わせて確認しました。
3.今後の展開
今後、光伝送装置の大容量化と共に故障予兆推定技術の研究開発を推進し、この成果を活かした大容量光伝送システムによる更なる信頼性の高い大容量通信基盤の実現をめざします。
また、この成果を活用し光伝送システムの運用性を向上することで、大容量化と光直結による光伝送領域の拡大により抜本的な電力削減と低遅延化を実現するIOWN APNの導入を更に推進していきます。
用語解説
※1 IOWN APN (Innovative Optical & Wireless Network All Photonics Network)
IOWNはNTTが提唱するネットワーク・情報処理基盤の構想であり、APNはIOWNの基盤を担うフォトニクス技術をベースとした革新的なネットワーク。
https://www.rd.ntt/iown/
※2 マルチベンダディスアグリゲーション構成
従来単一のベンダで構成される光伝送装置を、複数のベンダにより提供される各機能単位で柔軟に組み上げられるようにする構成のこと。
※3 DSP (Digital Signal Processor)
デジタル信号処理のLSIであり、デジタルコヒーレント通信システムの中心となるデバイス。
※4 光スペクトル情報
光信号を波長または周波数に対する光の強度で表したもの。
※5 OSNR (Optical Signal to Noise Ratio)
光信号強度と光雑音強度の比。受信OSNRが低くなると、光雑音の影響が大きくなり光伝送品質が低下する。
※6 パフォーマンスモニタ情報
光伝送装置が装置内モニタで定期的に収集・蓄積し読み出すことができる光信号の特性や装置状態に関する情報。