プレスリリース
子供と一緒に旅をしたことのある人なら、長距離の旅で、「まだ着かないの? 」と聞かれることがあるでしょう。私の7歳になる娘も、よくこの質問をします。そして、ふと足元の市場環境で様々な投資判断をする中で、私自身の問いが娘に似ているということに気づかされました。つまり、これまで株価が下落したり、債券金利が上昇してきたことから、ポートフォリオで今からリスクを取るのに十分に割安になったかどうかを考える際に、先ほどの問いを自らに問うているのです。そしてその問いに対する、現時点での私の答えは「まだ」です。
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ヨハナ・カークランド
グループCIO
マルチアセット運用・グローバルヘッド
ゲームの流れが変わった
足元、金利が上昇している市場環境は、これまで長い間、量的緩和を継続してきた環境からの「局面変化」を意味しています。
これまでの量的緩和は、米国の連邦準備制度理事会(FRB)などの各国中央銀行が、大規模に債券を購入することで、金利を低位に維持し、企業の借り入れ需要を喚起したり、市場を下支えする政策でした。
従って、利回りやリターンを求める投資家が、よりリスクの高い資産に投資する結果になったと考えられます。
以前、私はこの現象を「もぐらたたき」に例えて表現しました。この「もぐらたたき」はご存じのように、一か所でもぐらを叩くと、そのもぐらは消えますが、別の場所に別のもぐらが出現する、というゲームです。
市場に置き換えていえば、利回りが得られそうな気配がすると、マイナス金利から逃れようと投資家の資金が大挙して流入してくるようなものです。そして、ある市場への資金流入が大きくなり、行き過ぎると、投資家は、次の投資機会を探し始めるという流れになっていたと考えられます。
こうした所以から、市場のボラティリティはある程度抑制され、伝統的なバリュエーションの概念に基づいた価格形成ではなくなってきた、と考えられます。しかし、今回は、中央銀行は高水準のインフレに対処するために金融引き締めに政策の舵をきったことから、ゲームの流れが変わったと考えられます。例えるならば、我々は、もぐら叩きゲームからチェスゲームに移行したといえるのではないかと思います。つまり投資家は、より戦略が必要な局面に接していると考えられるのです。
バリュエーション水準は?
現時点において、中央銀行の政策においての優先課題は市場を支えることではなく、人々が影響を最も受けていると考えられる「インフレ」を沈静化することであります。つまり、投資という観点から言えば、過去は機能してきた「ディスインフレ」下での魅力的な投資対象は、将来も機能し続けるとは限らないということを背景に、新しい均衡点を見つけ出す必要があると考えます。
ここにおいて、一つ良いニュースとしては、様々な資産のバリュエーション(割安度)が改善していることが挙げられます。特に債券については、金利が上昇してきたことから、債券利回りには投資価値が復活してきた、といえることです。
マルチアセット運用チーム(以下、「当チーム」)においては、これは「レラティブ・トレード」としても、アイデアを創出することが出来ます。確かに、債券は株式よりも景気後退リスクに対する効果があると考えられます。
そして、足元の景気の局面を当チームが作成した景気サイクルの「定量モデル(景気循環(回復、拡大、減速、後退の4段階)を評価するモデル)」によると、足元景気は「減速」局面へ移行していることが示されています。この環境は一般的には、株式にとっては最もリターンをあげにくい局面であるため、当チームで引き続きウェイトは低位としています。
景気の成長鈍化リスクが高まっていることを認識し、当チームではエネルギーセクターの需要減退懸念から、コモディティに対する強気の見方を引き下げました。また、当チームでは、株式の中で、スタイルとしてバリューを選好するとの見方を取っています。
過去の下落相場からの教訓
最後に、ロリー・ベイトマン(私と共に当社で運用部門を率いており、当社の株式部門のグローバル・ヘッドを勤める)と私は、過去の下落市場から何を学んできたかについて、話し合いました。
その結果、まず第一に、様々な資産のバリュエーションが大きく調整されてくると、ベアマーケットラリー(弱気相場にはあるものの、その中で反転上昇するような動き)に遭遇するということを認識しておく必要があるでしょう。従って、そのような環境にも対応できるよう、投資家は、迅速に意思決定を変更できるようなプロセスになっているかを今一度確認する必要があります。また、ポートフォリオのリスクを分散させることで、ベアマーケットラリーでよく見られる変動性の高い市場環境のなかで、ポートフォリオの損益が振り回されるのを避ける必要も出てきます。
そして第二に、最も魅力的な投資タイミングは、「景気回復」局面ではなく、「景気後退」局面に往々にして出現する傾向があります。したがって、今後数カ月で成長見通しが暗くなったとしても、弱気になり過ぎないようにする必要があると考えます。
最後に、不安定な市場では、慌てて投資行動をするのではなく、より長期的な戦略の立案を沈思黙考し、チームで投資を行っている場合には、チームの英気を養う必要があると考えます。
そして、私が次回のレポートを執筆する頃には、「もうそろそろ(底に)到達したのか?」という問いではなく、「次(の目的地)はどこか?」という問いを始められる市場環境になってほしいと思います。
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