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プレスリリース

腎臓がんの起源細胞とその微小環境や腫瘍内不均一性を解明

(Digital PR Platform) 2022年05月26日(木)14時00分配信 Digital PR Platform

 横浜市立大学大学院医学研究科 泌尿器科学 軸屋良介医師(大学院生)、蓮見壽史准教授らの研究グループは、同大学先端医科学研究センター 田村智彦教授(免疫学)や理化学研究所 中川英刀博士らとの共同研究により、新しい技術であるシングルセル遺伝子発現解析を用いて、腎臓がんが、@様々な種類の腎臓細胞から生まれてくること、A様々ながん微小環境*1を作り出すこと、B1か所のがん組織の中に様々な性質のがん細胞が混在していること(腫瘍内不均一性)を発見しました。腎臓がんの複雑な発生メカニズムの解明と、進行性腎臓がんに対する薬物療法の効果を高める方法の開発につながることが期待されます。
 本研究成果は、Cell Press「iScience」に掲載されました。(2022年5月25日)

研究成果のポイント

シングルセル遺伝子発現解析により、腎臓がんが様々な腎臓細胞から発生することが分かった(腎臓がんの起源細胞)(図1)。
腎臓がん組織の中の免疫細胞や血管細胞の数や性質が、症例ごとにまったく異なり、進行の早い腎臓がんでは、本来はがんを攻撃するべき免疫細胞が逆にがんに協力していることが分かった(図2と図3)。
1か所の腎臓がん組織の中に異なる性質のがん細胞が混在していた(1か所のがん組織内での腫瘍内不均一性)(図4)。


研究背景
 一口に腎臓がんといっても様々で、顕微鏡で見た時のがんの形態(組織型)から、進行するスピードまで千差万別です。現在、進行した腎臓がんの治療には免疫細胞を活性化させてがん細胞を攻撃する免疫療法や、がん細胞の周りの血管を攻撃してがんを兵糧攻めにする血管新生阻害剤が用いられていますが、症例によっては十分な効果が得られないことがあり、これらの薬物療法を高める方法の開発が急務となっています。一方、薬物療法で薬が効かない細胞が残ることも問題で、これは様々な遺伝子の傷を持ったがん細胞が混在することが原因と言われています(腫瘍内不均一性)。これまでに、離れた部位のがんが、異なる遺伝子の傷を獲得することにより腫瘍内不均一性を示すことは分かっていましたが、遺伝子の傷が均一であるはずの1か所のがん組織の中に腫瘍内不均一性があるのかは分かっていませんでした。

シングルセル遺伝子発現解析
 これまでのがん研究ではがん組織全体をすり潰して調べていたため、がん細胞そのものや近くにある免疫細胞や血管細胞の数や性質を細かく知るには限界がありました。一方、近年開発されたシングルセル遺伝子発現解析では、がん組織をばらばらにした後に、細胞の一つ一つについて全遺伝子の発現を丁寧に調べるため、がん細胞そのものや、近くにある免疫細胞や血管細胞などの数や性質を詳しく知ることが可能です。

研究内容
 今回、淡明細胞型腎がん(一番多いタイプの腎がん)6検体、HLRCC腎がん(進行の早いタイプの遺伝性腎がん)2検体、BHD腎がん(比較的おとなしいタイプの遺伝性腎がん)2検体、正常腎臓2検体の合計12検体から合計108,342個の細胞を採取し、遺伝子の発現をシングルセル解析にて調べたところ、驚くべきことが次々に分かりました。

@腎臓がんが様々な腎臓細胞から発生していることが分かりました(腎臓がんの起源細胞)(図1)。腎臓がんに関係する遺伝子はこれまでに13個以上が報告されていますが、様々な起源細胞と様々な遺伝子の傷の組み合わせにより、様々な腎臓がんができるものと考えられます。



[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/59231/700_306_20220526103616628ed9904129c.jpg


A腎臓がんごとに、がん細胞の周りの細胞の種類、数や性質(がん微小環境)がまったく異なりました。進行した腎臓がんでは免疫療法の他に血管を攻撃する薬(血管新生阻害剤)を使うため、今回の血管細胞の数や性質ががんごとに異なるという発見はとても重要です(図2)。免疫細胞の数や性質もがんごとにまったく異なっており、特に、進行の早いHLRCC腎がんは本来がん攻撃を担当するべきマクロファージを通じてT細胞にがん攻撃をやめさせていることが分かりました(図3)。



[画像2]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/59231/700_336_20220526103619628ed9935d009.jpg


B今回の解析で用いたような5mm角の小さな腎臓がん組織の中に、異なる性質のがん細胞が混在することが分かりました(1か所のがん組織内での腫瘍内不均一性)。遺伝子の傷が均一であるはずの一か所のがん組織内で腫瘍内不均一性があるということは、腎臓細胞が遺伝子の傷を獲得してがん細胞になった後に異なる性質を持つ2種類のがん細胞に分化していったことになります。



[画像3]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/59231/600_286_20220526103622628ed99691e9e.jpg



今後の展開
@起源細胞ごとの治療法を開発します。今まで様々な腎がんがひとくくりにされてきましたが、起源細胞までさかのぼることにより個々の症例に最も適した治療法を選べるようになります。

A腎臓がん治療では血管を攻撃する薬(血管新生阻害剤)や免疫を強化する薬(免疫療法)が用いられますが、本研究成果を基に薬を使う前にその効果を予測する方法や、薬の効果を高めるような薬剤の開発を行います。

Bがん治療は腫瘍内不均一性との闘いでもあり、本研究成果を基に腫瘍内不均一性を克服する治療法の開発を進めます。

研究費等
 本研究は、科学研究費補助金(19K09694)および、文部科学省「特色ある共同利用・共同研究拠点事業」として認定されている横浜市立大学先端医科学研究センター「マルチオミックスによる遺伝子発現制御の先端的医学共同研究拠点」の支援を得て行われました。

論文情報
タイトル:Single-cell transcriptomes underscore genetically distinct tumor characteristics and microenvironment for hereditary kidney cancers
著者:Ryosuke Jikuya, Koichi Murakami, Akira Nishiyama, Ikuma Kato, Mitsuko Furuya, Jun Nakabayashi, Jordan A Ramilowski, Haruka Hamanoue, Kazuhiro Maejima, Masashi Fujita, Taku Mitome, Shinji Ohtake, Go Noguchi, Sachi Kawaura, Hisakazu Odaka, Takashi Kawahara, Mitsuru Komeya, Risa Shinoki, Daiki Ueno, Hiroki Ito, Yusuke Ito, Kentaro Muraoka, Narihiko Hayashi, Keiichi Kondo, Noboru Nakaigawa, Koji Hatano, Masaya Baba, Toshio Suda, Tatsuhiko Kodama, Satoshi Fujii, Kazuhide Makiyama, Masahiro Yao, Brian M Shuch, Laura S Schmidt, W Marston Linehan, Hidewaki Nakagawa, Tomohiko Tamura and Hisashi Hasumi
掲載雑誌:iScience
DOI:10.1016/j.isci.2022.104463

用語説明
*1 がん微小環境:がん組織やがん細胞が存在する領域で、血管内皮細胞や免疫細胞などの細胞や、細胞外マトリクスなどによって構成され、がんの進展に密接に関わることが想定される。





[画像4]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/59231/450_101_20220526103625628ed999d1efb.jpg







本件に関するお問合わせ先
横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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