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東京医科大学が「TP53変異の頭頸部癌に対するWEE1阻害薬とHDAC6阻害薬の併用療法の可能性を発見 〜頭頸部癌の新たな治療薬として期待〜」

(Digital PR Platform) 2022年04月06日(水)20時05分配信 Digital PR Platform



東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区) 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 塚原清彰主任教授、三宅恵太郎助教、生化学分野 宮澤啓介主任教授、高野直治准教授、公衆衛生学分野 菊池宏幸講師を中心とする研究チームは、TP53変異のある頭頸部癌に対する全く新しい治療として、WEE1阻害薬とHDAC6阻害薬の併用療法の可能性を見出しました。
単剤でTP53変異癌に対して効果を上げることが知られていたWEE1阻害薬に、HDAC6阻害薬を併用することにより、腫瘍細胞のみに効く条件を損なうことなく、効果を増強するメカニズムを解明しました。
本研究成果は、2022年3月28日に「International Journal of Oncology」にオンライン掲載されました。




【本研究のポイント】
●HDAC6阻害薬のRicolinostatにChk1(1)のリン酸化を抑える効果があることを発見しました。
● AdavosertibによるWEE1(2)阻害にRicolinostatによるChk1のリン酸化阻害が加わることで、がん細胞の細胞周期(3)を強制的にM期に突入させてmitotic catastrophe(4)をより強力に引き起こすことを発見しました(図1)。
●mitotic catastropheの増強はTP53変異を有する細胞に対して選択的に確認されました。正常細胞にはTP53変異がないので、臨床応用された場合は、腫瘍細胞に対してより特異的な効果を発揮し、副作用を抑えた治療効果が期待できます。



【研究の背景】
 頭頸部扁平上皮癌(舌癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌 等)の治療は手術、化学放射線療法が主体ですが、既存の治療である化学放射線療法は患者の QOL の低下が著しく、しばしば忍容性が問題になります。現在は、患者のがん組織から取り出した DNA を調べることで、よりそれぞれの患者の腫瘍に対して適した治療・薬剤を選択することが行われつつあります。頭頸部扁平上皮癌は 65〜80%が TP53 と呼ばれる DNA 修復に必要不可欠な遺伝子に変異を有することが知られており、TP53変異は治療標的として有望視されています。そこで、我々は、TP53 変異を持つがん細胞に対して強く殺細胞効果を示す既存の WEE1 阻害薬(Adavosertib:Adv)(5)に着目し、腫瘍選択性を損なうことなくさらにその効果を増強する薬剤の組み合わせとして、histone deacetylase 6 (HDAC6)阻害薬(Ricolinostat:RCS)を新たに見出しました。さらに、臨床応用へ発展させていくためにも、Adv と RCS の併用がどのような機序で相乗的に殺細胞効果を増強させているのか、その作用機序の解明を目指しました。

【本研究で得られた結果・知見】
 TP53 に変異を有する頭頸部癌由来の細胞株に Adv と RCS を同時に加えると、殺細胞効果が相乗的に増強する結果が得られました。また、正常な TP53 を有する他のがん細胞に遺伝子編集技術を用いて TP53 を欠損する細胞を作成したところ、Adv と RCS の併用による殺細胞効果が TP53 遺伝子の欠損により著しく増強され、Adv+RCS 併用による殺細胞作用の相乗的な殺細胞増強効果は TP53 の変異の有無などに依存することが分かりました(図2)。正常細胞は一般的に TP53 に変異を持たないため、TP53 に変異を持たない正常な細胞に対しては毒性を強めず、TP53 変異を有するがん細胞に対してのみ薬剤の効果を増強する(副作用の効果を強めず、がんに対する薬効を強める)薬の組み合わせを新たに発見しました。

 また、なぜ Adv + ARC 併用によって薬剤の効果が上昇するのか検証を行ったところ、Adv 単剤で処理した時は、細胞が Adv の薬効に抗い DNA 修復を行うために細胞周期を止めるためのシグナル(Chk1 のリン酸化)の活性化が惹起されますが、ここに RCS を同時添加することで細胞周期が進行し、DNA 二本鎖切断が誘導されることで細胞死がさらに強まることを発見しました(図3)。そしてこの細胞死の増強は M 期への強制的エントリーによる mitotic catastrophe が強く誘導されることによって起こることが判明しました(図4)。


【今後の研究展開および波及効果】
 今回の発見は TP53 に変異を持つことががんゲノム検査によって判明した患者に対し、Adv と RCS を併用することでより治療効果を高めることができる可能性を見出しました。Adv と RCS はともに臨床試験が進行中の薬剤ですが、Adv はすでに頭頸部癌領域においては既存の治療法に Adv を組み合わせた臨床試験が進行中です。今後の実臨床での両薬剤併用療法が大いに期待できる薬剤の組み合わせです。TP53 機能を欠く細胞に対して高い特異性を持つこの薬剤の組み合わせは、TP53 に変異を持つ頭頸部癌、および TP53 機能異常を起こすヒトパピローマウイルス(HPV)陽性の頭頸部癌の患者にとって治療の良い選択肢になると思われます。

【掲載誌名・DOI・掲載誌 URL】
掲載紙名:International Journal of Oncology
DOI:10.3892/ijo.2022.5344
掲載誌 URL:https://www.spandidos-publications.com/ijo/60/5/54

【論文タイトル】
Ricolinostat enhances adavosertib-induced mitotic catastrophe in TP53-mutated head and necksquamous cell carcinoma cells

【著者】
Keitaro Miyake, Naoharu Takano *, Hiromi Kazama, Hiroyuki Kikuchi, Masaki Hiramoto, Kiyoaki,Tsukahara, and Keisuke Miyazawa
三宅恵太郎、高野直治*、風間宏美、菊池宏幸、平本正樹、塚原清彰、宮澤啓介 (*責任著者)



【主な競争的研究資金】
本研究は、日本学術振興会科学研究費 基盤研究 C(20K07298)、公益財団法人東京医科大学がん研究事業団の支援を受けています。

【補足説明】
(1)Chk1 G2/M チェックポイントに関わるタンパク質のこと。
(2) WEE1 G2/M チェックポイントに関わるタンパク質のこと。
(3) 細胞周期 細胞の増殖サイクルのこと。G1 期(DNA 合成準備期)→S 期(DNA 合成期)→G2 期(分裂準備期)→M 期(分裂期)という流れを繰り返すことで細胞は増殖している。DNA が損傷した細胞はチェックポイントと呼ばれる関所のような役割を果たす特定の周期の時点で止められる。細胞周期には G1/S チェックポイントと G2/M チェックポイントがある。
(4) mitotic catastrophe 細胞死の形態の一種。細胞がダメージを負った DNA を持ったまま強制的にM期に突入し、正常な細胞分裂が出来ずに細胞死に至ること(図3参照)。
(5) WEE1 阻害薬(Adavosertib:Adv) TP53 は G1/S チェックポイントで関所の役割を果たしている。TP53 遺伝子に変異のある癌細胞は G1/S チェックポイントが機能していないので、G2/M チェックポイントでのみ DNA 修復を行っている状態になっている。ここで Adv を投与すると癌細胞は2つのチェックポイントを失い、DNA 修復ができなくなり、細胞死に至る。一方、TP53 が正常の細胞は、Adv を投与しても G1/S チェックポイントで DNA 修復を行えるので、細胞死を免れる。

▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141
FAX:03-6302-0289
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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