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プレスリリース

「仮想脳切除」で 言語機能の低下を予測するAI予測モデルを開発

(Digital PR Platform) 2022年03月25日(金)14時00分配信 Digital PR Platform

 横浜市立大学医学部医学科脳神経外科学教室 園田真樹客員研究員(米国ウェイン州立大学 ミシガン小児病院 小児科・神経内科研究員兼任)、米国ウェイン州立大学 ミシガン小児病院 小児科・神経内科 浅野英司終身教授らの研究チームは、脳外科手術後の生活の質の向上を目的とした人工知能(AI)予測モデルを開発しました。
 今回の研究は、術後に生じうる言語機能の低下を、会話中の脳表脳波信号を用いて予測できることを明らかにしました。また、脳表脳波信号を組み込んだAI予測モデルが、脳の特定部分を「試し切り(仮想切除)」することで、術後に言語機能が保たれるかどうかを高い精度で予測できました(図1)。
 本研究は、現在の標準的診断法とは全く異なる診断アプローチを用い、その刷新性が高く評価され、英国学術誌「BRAIN」に掲載されました。(2022年3月21日オンライン)

研究成果のポイント

会話中の脳表脳波信号を用いて、脳皮質切除術後に言語機能が保たれるかどうかを予測できることを明らかにした
存在位置に個人差がある言語機能を、人工知能(AI)解析技術による「仮想脳切除」を用いて個別に評価する、という刷新的な診断方法を提供した


研究背景 
 薬剤抵抗性てんかん患者に対する外科的治療を行う際には、「発作を引き起こす原因となる脳の部分はどこか?」という発作の原因となる病的脳領域だけでなく、重要な機能を担う正常脳領域も含め、「どこを切除すると、どのような後遺症が残るのか?」という影響も、あらかじめ正確に把握することが重要です。言語機能を担う脳領域の位置は個人差が大きいとされ、患者ごとに術前評価することが必須となります。現在までに、運動・感覚機能を担う脳機能領域は、機能的MRIや電気刺激法によって個別に評価する方法が確立している一方、言語のような高次脳機能を正確に評価する方法は、依然として未確立です。そこで、脳切除手術を受けた65名の薬剤抵抗性てんかん患者の会話中に6,886箇所より記録された脳表脳波信号を解析し、切除術後の言語機能を予測できるかどうかを検証しました。

研究内容
 本研究では、発作の原因となる脳領域を切除する手術をうけた薬剤抵抗性てんかん患者の術後言語機能の変化を、会話中の脳表脳波信号を解析することで予測し得るかを検証しました。続いて、会話中の脳表脳波信号を用いて、機械学習による人工知能(AI)予測モデルを構築しました。このAI予測モデルに、脳表脳波信号を組み込むことで、指定した脳領域を「試し切り(仮想切除)」し、言語機能が保たれるかどうかを高い精度で予測できると報告しました(図2)。
 言語機能に関わる脳領域を術前に正確に把握することは必ずしも容易ではありません。機能的MRIは、頭を数ミリ動かすと信頼性のある検査結果が得られないという短所があり、脳表電気刺激マッピングは、電気刺激によるけいれんという副作用のリスクがあります。よって、10歳以下の小児患者で言語機能領域を正確に見つけ出すことは、非常に難しいとされていました。今回の研究では、脳表脳波信号という頭を動かしてもノイズの入らない方法を採用し、かつ脳表電気刺激データを含めずに予測モデルを構築したので、10歳以下の患者でも、信頼性の高い結果を得ることができます。

今後の展開
 本研究は、術後に生じうる言語機能低下を脳表脳波信号から予測するという新しい診断アプローチを提示した点で、脳神経外科手術において非常に大きな意義を持つと考えられます。 研究グループでは、本研究で用いた解析技術をさらに発展させ、より安全で信頼性の高い診断・治療方法の確立を目指して研究を進めていきます。今後ますますニーズが高まる適切な個別化医療の発展に大きく寄与していくことが期待されます。

論文情報
タイトル: Naming-related spectral responses predict neuropsychological outcome after epilepsy surgery
著者: Masaki Sonoda, Robert Rothermel, Jeong-won Jeong, Min-Hee Lee, Takahiro Hayashi, Aimee F. Luat, Sandeep Sood and Eishi Asano
掲載雑誌: BRAIN
DOI: https://doi.org/10.1093/brain/awab318

参考図
図1 



[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/57108/400_372_20220324100341623bc36d28314.jpg

(図1)仮想切除で予測された言語機能領域と実際の手術で脳切除領域との空間的関係を示した図:症例1では、仮想切除で言語機能低下が予測された脳領域(赤領域)が実際の切除領域に含まれており、術後に言語機能スコア (CELF-4 core language score) の低下を認めていました(左図)。
一方、症例2では切除領域には術後言語機能低下が予測された脳領域は含まれておらず、術後も言語機能スコアは保たれていました(右図)。

図2 



[画像2]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/57108/300_441_20220324100721623bc4493fdb9.jpg

(図2)65名の集団解析結果から仮想切除で言語機能が低下する確率を3次元標準脳上に可視化した図:術後に言語機能スコア(CELF-4 core language score )が低下すると予測された脳領域を赤色で示し、それ以外の脳領域を青色で示しています。




[画像3]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/57108/300_67_20220324100725623bc44d32ae7.jpg










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