プレスリリース
【愛知大学】寺西一号墳出土の銀象嵌装大刀(ぎんぞうがんそうたち)について -- 刀身自体に龍文が施されたものは全国で4例目
愛知県豊橋市にあった寺西一号墳の出土遺物として愛知大学綜合郷土研究所が保管していた大刀から、2019年、銀象嵌(ぎんぞうがん)による装飾が発見された。銀象嵌とは、金属の表面をタガネなどで掘り込み、その穴に銀線を埋め込む装飾法のこと。このたび発見された象嵌の中でも刀身の龍文は特に貴重なもので、鞘金具(さやかなぐ)などの刀装具ではなく刀身自体に龍文が施された例は全国で4例目となる。
■寺西一号墳とは
寺西一号墳は、愛知県豊橋市石巻小野田町字寺西に存在した、直径25m、高さ4.5m の円墳で、6 世紀後葉の築造。1965年(昭和40年)に河川改修に伴う土取り工事のため破壊されることになり、同大が発掘調査を実施した。
その結果、未盗掘の横穴式石室から、大刀(たち)10振、短刀2振、鉄鏃(てつぞく)約240点、矛(ほこ)3振、馬具など大量の鉄製品のほか、東海地方で特徴的に見られる鳥鈕蓋付台付壷(とりちゅうふたつきだいつきつぼ)などの須恵器(すえき)が出土した。
■銀象嵌装大刀について
2019年、寺西一号墳の出土遺物を保管していた綜合郷土研究所が、一部の大刀の保存処理と復原を元興寺文化財研究所に委託したところ、そのうちの1振から銀象嵌による装飾が発見された。
当該大刀は残存長94cm、最大幅4cm で、刀身・鍔(つば)・はばき(「はばき」の漢字は金偏に「祖」の異文体。刀身を柄に固定するため、鍔に接して装着した金具)の3箇所に銀象嵌が施されていた。象嵌の内容は以下の通り。
(1)刀身:両面ともはばき元孔(はばきもとあな。はばきの近辺に開けられた穴)の周辺に花文がある。これに加え、佩表面(はきおもてめん。刃を下にして腰から吊り下げた時に外側になる面)には龍文、佩裏面(はきうらめん。同じく内側になる面)には魚文がある。
(2)鍔:8箇所の穴が空いた八窓鍔(はっそうつば)に、圏線(けんせん)C字文とよばれる区画とC字の組み合わせ文様が緻密に施されている。
(3)はばき:いびつではあるが花弁状となるC字文様がある。
■銀象嵌装大刀と寺西一号墳の評価
今回発見された象嵌のうち、最も重要なものは刀身の龍文になる。龍文の象嵌をもつ大刀は国内にいくつか例があるが、鞘金具(さやかなぐ)などの刀装具に龍文が施されるのが一般的で、刀身自体に龍文が施された例は、下記の4例しかない。
・吉備塚古墳(奈良県) 5世紀後葉
・島内(しまうち)114 号地下式横穴墓(宮崎県) 6世紀前葉
・新沢千塚(にいざわせんづか)327号墳(奈良県) 6世紀中葉
・寺西一号墳(愛知県) 6世紀後葉
寺西一号墳の龍文は、長い線に毛のような多数の短い線が組み合わされており、長さは約15cm。他の出土事例と比べると、著しく抽象化した表現であるのが特徴となる。銀象嵌装大刀の刀身には、他にも魚文と花文が確認できる。これらの象嵌は、大刀の装飾であると同時に、吉祥としての意味やまじないとしての意味を持たせたものと推定される。
寺西一号墳は、墳丘の規模からすると国造(こくぞう)のような東三河全域に影響力を持つ首長ではなく、中規模の首長の墓と考えられる。しかし、今回確認された銀象嵌装大刀は、ヤマト政権から与えられた可能性が高い。寺西一号墳の被葬者は国造級の首長の支配下ではあるものの、ヤマト政権から特別に認められた人物であると評価できるのではないだろうか。また、武器を中心とした膨大な量の鉄製品が副葬されていたことからは、軍事に深く関わる指揮官級の武人という人物像が想定できる。
●愛知大学綜合郷土研究所
東海地方(愛知・岐阜・三重・静岡・長野)の地域研究のために設立。社会学、歴史学、地理学、文学、生活文化学等の各分野から構成され、多面的な見地から総合的な研究を進めている。
主な活動として、東海地方の書籍の収集、考古遺物・古文書の収集および整理、公開シンポジウム、公開講演会、見学会の開催など。
https://www.aichi-u.ac.jp/kyodoken
《寺西1号墳シンポジウム》
綜合郷土研究所では、2022年3月19日(土)に「副葬品がかたる古墳文化―寺西1号墳シンポジウム―」を開催する。この中で、銀象嵌装大刀や寺西一号墳自体の評価にさらに踏み込んで検討していく。
https://www.aichi-u.ac.jp/news/53445
(参考記事)
・<全国で4例目の発見> 寺西一号墳出土の銀象嵌装大刀について
https://www.aichi-u.ac.jp/newsrelease0315
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