プレスリリース
芝浦工業大学(東京都港区/学長 山田純)システム理工学部生命科学科・福井浩二教授ら研究チームは、アルツハイマー病の遺伝子改変マウスを用いて、細胞内にあるミトコンドリアの酸化による損傷と認知機能障害の間に決定的な関連性があることを発見しました。
アルツハイマー病の病態生理は広く研究されていますが、ミトコンドリア機能障害との関連性については、まだほとんどわかっていません。今回、アルツハイマー病の遺伝子改変マウスにおいて、アルツハイマー病の進行が脳の酸化による損傷と関連しており、年齢に依存して認知機能が低下することを確認しました。今後は、脳内の変化を早期に検出するための診断マーカーの開発や、ミトコンドリアで高い抗酸化作用を示す化合物の研究を行うことを検討しています。
※この研究成果は、「Biomedicines」誌に掲載されています。
■ポイント
・脳の酸化がミトコンドリアに悪影響を与え、認知機能障害につながることを発見
・海馬でのアミロイドβ1-42の凝集が、アルツハイマー病の遺伝子改変マウスの認知機能を低下させることを確認
・今後は、脳内の変化を早期に検出するための診断マーカーの開発や、ミトコンドリアで高い抗酸化作用を示す化合物の研究を行う
■研究の背景
アルツハイマー病などの神経変性疾患には、酸化による損傷の増加が関連しています。アルツハイマー病の病態生理は広く研究されていますが、ミトコンドリア機能障害との関連性については、まだほとんど解明されていません。
先行研究において、ビタミンEが欠乏した高齢のマウスでは、若年のマウスに比べて酸化レベルが大幅に高くなることが発見されていました。さらに、ミトコンドリアの酸化を介して活性酸素が生成されると、脳細胞は損傷を受ける可能性があり、アルツハイマー病とミトコンドリア機能不全との間に強い関連性があることが示唆されていました。本研究では、アルツハイマー病の進行が脳の酸化的損傷と密接に関連していることを実証しています。
■研究概要
研究チームは、認知機能障害の原因となるアルツハイマー病に関連するタンパク質を特定するため、アルツハイマー病の遺伝子改変マウスと健康なマウスの脳の様々な部位から組織サンプルを採取し、サンプル中の酸化マーカーのレベルを計測しました。まず、アルツハイマー病のマウスでは、アルツハイマー病患者特有のアミロイドβの濃度が高く、月齢とともに徐々に増加することが確認されました。アルツハイマー病に関連するタンパク質である、アミロイドβ1-42が脳の海馬で多く検出され、海馬におけるアミロイドβ1-42の凝集が、アルツハイマー病の遺伝子改変マウスの認知機能障害を引き起こすことが確認されました。
また、活性酸素によるミトコンドリアの損傷が神経細胞の生存と密接に関係しているのではないかという仮説を検証するため、アンチエイジング作用を示すニコチンアミドヌクレオチドアデニル基転移酵素(NMNAT-3)など、いくつかの主要なミトコンドリア酸化酵素の数値を測定しました。アルツハイマー病の遺伝子改変マウスでは、NMNAT-3の数値が低下する一方で、より高い酸化の指標であるニトロチロシン(3-NT)の数値が加齢とともに上昇することが判明しました。
これらによって、酸化がミトコンドリア機能障害を引き起こし、最終的に認知機能障害につながることが明らかになりました。
■今後の展望
細胞内にあるミトコンドリアを活性酸素から守ることができれば、ミトコンドリアの機能と認知機能を維持できる可能性があります。今後は、脳の変化を早期に発見するための診断マーカーの開発や、ミトコンドリアという物質において、高い抗酸化作用を示す化合物の研究を進めていく計画です。
■論文情報
著者 :
芝浦工業大学大学院修士課程 吉田直樹
芝浦工業大学大学院修士課程 加藤優吾
杏林大学保健学部臨床検査技術学科准教授 高津博勝
芝浦工業大学システム理工学部生命科学科教授 福井浩二
論文名:Relationship between cognitive dysfunction and age-related variability in oxidative markers in isolated mitochondria of Alzheimer's disease transgenic mouse brains
掲載誌:Biomedicines
DOI : 10.3390/biomedicines10020281
【訂正】添付画像を訂正しました。(2022.03.11 11:00)
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