プレスリリース
公益財団法人稲盛財団(理事長:金澤しのぶ)は、3月17日(金)、2023年度稲盛科学研究機構(InaRIS:Inamori Research Institute for Science)フェローを発表しました。2023年度InaRISフェローは、36名の応募者の中から、亀井 靖高氏(九州大学大学院システム情報科学研究院准教授)と田中 由浩氏(名古屋工業大学大学院 工学研究科教授・学長特別補佐)の2名が選定されました。フェローには、毎年1,000万円を10年間、総額1億円を助成します。
■亀井 靖高 Yasutaka Kamei
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/349298/LL_img_349298_1.jpg
亀井 靖高氏
九州大学 大学院システム情報科学研究院 准教授
<略歴>
2005年 関西大学 総合情報学部 卒業
2007年 奈良先端科学技術大学院大学 博士前期課程 修了
2009年 奈良先端科学技術大学院大学 博士後期課程 修了(博士(工学))
2009年 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2010年 クイーンズ大学(カナダ) ポスドク
2011年 九州大学 大学院システム情報科学院 助教
2015年 九州大学 大学院システム情報科学院 准教授(現在に至る)
<主な受賞歴>
2013年 IEEE Computer Society Japan Chapter Young Author Award
2014年 MSR 2014 Distinguished Paper Award
2018年 ESEM 2018 Best Industry Paper Award
2019年 IPSJ/ACM Award for Early Career Contribution to Global Research
2022年 IEICE SUEMATSU-Yasuharu Award
<研究テーマ>
機械と人のインタラクションによるソフトウェア開発様式の創出
<研究の概要>
オープンソースの普及に伴って、ソースコードを含めたソフトウェア開発に関連するデータが広く参照可能である。そのデータは、まさにソフトウェア開発の過程そのものであり、ときには開発プロジェクトの試行錯誤の様子も記録している。本研究では、データ駆動アプローチの完全自動化ではなく、機械(開発者のノウハウを学習したもの)とソフトウェア開発者が互いに学習し支え合う枠組みを創出する。
<InaRISフェローに選ばれた感想>
InaRISでは、10年という長期間にわたり支援をしていただけます。他の研究助成プログラムでは、ついつい避けてしまうようなワクワクするけど挑戦的なテーマにじっくり取り組みたいと思い、応募しました。今後集まるInaRISフェローの方々とも議論を深め、ソフトウェア工学における機械と人のインタラクション実現に向けた研究をしていきたいと考えております。
<選考理由>
情報システムは、交通・電力・金融などの社会基盤として現代社会で広く活用されており、さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)、IoTやAIを高度に利用するSociety 5.0の実現など、その用途を拡大・変革し続けている。既存システムを保守・運用しつつ、新たなサービス、ビジネスモデルを創出し移行・展開することが産業界の課題であり、それを実現するためのソフトウェア開発は、専門性の高い高度ソフトウェア開発者のみならず、さまざまな業種で活躍する幅広い市民に求められるスキルともなりつつある。さらには、育児や介護との両立など多様な働き方を選択できる社会の実現が広く社会で求められており、ソフトウェア開発者の働き方改革も課題となっている。
亀井氏は、これらの問題を、ソフトウェア開発の効率化・自動化のみならず、ソフトウェア開発者の多様な働き方を実現するための開発スタイルの改革、ソフトウェア開発者のwell-beingの実現にまで踏み込んで解決しようとしている。目標とする新たなソフトウェア開発のスタイル創出では、ソフトウェア開発者個人、開発チーム、開発コミュニティという三つの観点で研究に取り組む。研究の核となるアイデアはインタラクションである。ソフトウェア開発者と機械(開発支援ツール)が会話し学習することで既存ツールの限界を超える開発支援を目指し、開発者間のコミュニケーションを支援することで開発効率の向上と開発者のwell-beingの実現の両立を目指している。
これらは、さまざまなデータや知識・情報を利活用し知的生産活動につなげるにはどうすればよいかという情報学の本質的な問いにも応えようとする研究である。
亀井氏はこれまで、ソフトウェアの不具合であるバグの自動修正技術などの分野で大きな成果を挙げている。特に、開発者がソースコードを変更した直後にバグの混入可能性を予測するジャストインタイム検出手法は、ソフトウェアの開発効率を飛躍的に向上させる手法として高く評価されている。近年は、ソフトウェア開発チームのための新しい開発スタイルやオープンソースソフトウェア(OSS)の開発者コミュニティへの支援など、ソフトウェア開発支援の観点を拡大した研究を展開しているが、研究の展開が開発チームや開発コミュニティの抱えるさまざまな課題の気付きに繋がり、新たなソフトウェア開発のスタイル創出に挑戦する本研究の着想に至っている。
亀井氏は、国際的に活躍するソフトウェア工学研究を牽引する若手研究者であり、InaRISフェローシップの支援により、さらに飛躍し「水平線の彼方の情報学」を切り拓くために貢献することが期待される。
■田中 由浩 Yoshihiro Tanaka
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/349298/LL_img_349298_2.jpg
田中 由浩氏
名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授・学長特別補
<略歴>
2001年 東北大学 工学部 3年次中退(大学院飛び入学)
2006年 東北大学 大学院工学研究科 博士後期課程 修了(博士(工学))
2006年 名古屋工業大学 工学部寄附講座 助手
2008年 名古屋工業大学 大学院工学研究科 特任助教
2009年 名古屋工業大学 大学院工学研究科 助教
2015年 名古屋工業大学 大学院工学研究科 准教授
2021年 名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授
2022年 名古屋工業大学 学長特別補佐(現在に至る)
<主な受賞歴>
2014年 CEATEC JAPAN 2014 審査員特別賞
2014年 IEEE MHS Best Paper Award
2018年 計測自動制御学会 学会賞(論文賞)
2022年 日本化粧品技術者会誌 最優秀論文賞
2023年 日本機械学会フェロー
<研究テーマ>
内的特性に基づく触知覚の原理解明と情報化
<研究の概要>
触覚は、身体と外界との力学的相互作用の認識であり、対象だけでなく自身の皮膚特性、運動制御、認知処理にも依存する。本研究では、これらの相互関係を基に触覚の個人差を追求して触知覚の原理を明らかにし、主観的な触覚を情報化することを目的とする。触覚は、質感だけでなく、運動、身体認識、情動にも関与し、身体が関わるあらゆる場面に作用する。個々人の内なる多様な感覚世界の共有と活用を可能にし、技や感性が豊かに創造される社会を目指す。
<InaRISフェローに選ばれた感想>
じっくりと触覚に向き合うチャンスをいただけた感謝と責任を感じています。本研究を通して、人々の多様性、自己や創造性の本質に踏み込みたいと考えています。10年後に自分がどのような景色を見ているか、期待と不安が交錯していますが、分野を超えた交流や共同研究を通じた共創に努めながら、自身の興味に邁進したいと思います。
<選考理由>
19世紀半ばから20世紀半ばにかけて発明され実用化された電気通信と電子計算機は、現在、高度に統合されたグローバルな計算機ネットワークを構成し、人間の知的活動および身体活動を支援する情報基盤システムとして社会・経済活動に不可欠な存在となっている。それを支えたのは、計算機間をつなぐ有線・無線通信のデジタル化とさまざまな計算機の構成要素の未曾有の高機能・高性能化と、学術基盤としての「情報学」の深化・発展の相乗効果である。同時に、人間の五感を通じて情報システムとのさまざまな情報を交換する技術の発展も大きく寄与している。「情報技術」の革新や製品開発は、他の分野において類を見ないほど急速に進展してきており、今後さらに10年以上先を見越した分野を切り拓くことが望まれている。
情報システムにおいて、人間や実世界とシステムの接点である入出力インタフェース技術は、計算・記憶・通信と並んで重要な構成要素である。AIの発展によって、実世界での現象を多元的にセンシングして捉え、計算、分析、判断の結果を出力したり、ロボットや自律システムを制御して実世界に高度に反映させたりすることが可能となっている。特に聴覚と視覚の理解と関連技術の発展により、人や機械間の高速・高品質な遠隔コミュニケーションと気軽なインタラクションが可能となっている。次の五感のフロンティアは触覚と言われ数々の技術の開発が試みられているが、触覚の理論の解明は端緒についたところで、社会基盤となるような革新的なデバイスがないのが実情である。
田中氏の研究提案は、触知覚を情報学的に理解し、個々人の触覚を情報化することを目指している。触覚を、身体と外界との力学的相互作用の認識と捉え、対象に触れる皮膚の力学特性、触覚と運動の相互制御特性、情報フィルタリングを行う認知的特性などの内的特性の理解からアプローチし、現象的に触覚を捉えて変調・計測・提示・共有する技術を確立しようという野心的な構想である。触知覚の基盤となる理論の開拓と技術開発により、情報システムがマルチモーダルなインタラクションを獲得し、情報通信とAIに革新をもたらすことが期待される。
田中氏はこれまでに、個人の触覚を数値化、活用する研究開発に取り組み、感度、運動、材質感、心地よさに関して、皮膚特性、運動特性、認知特性を明らかにするなど、独創的なアプローチで研究成果を挙げてきている。同氏は、今回の提案でこれらの断片的な研究を統合的に明らかにすることを目指しており、触知覚原理を解明する手がかりに着手している数少ない研究者である。
田中氏は新時代の触知覚研究を牽引する気鋭の研究者である。InaRISフェローシップの支援により、同氏の今後10年の研究期間を通して触知覚による主観的情報の流通や非言語による他者理解が進み、より身体性と密に接続した情報学、すなわち「水平線の彼方の情報学」ともいうべき分野が開拓されることを期待する。触知覚の活用により多様性の尊重と他者との共創が促され、感性や技が豊かに創造・伝承される社会の構築に貢献することが望まれる。
■稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシッププログラムとは
『応用偏重の研究予算のあり方に一石を投じ、基礎研究を長期に亘って力強く支援することで基礎科学の社会的意義が尊重される文化の醸成に貢献したい』という考えのもと、2019年に設立したプログラムです。今回選ばれたフェローのお二人には、2032年度までの10年間、研究費として毎年1,000万円(総額1億円)を助成します。また、1,000万円の直接経費とは別に100万円を上限として間接経費を研究機関に支払います。
InaRISはキャンパスや建物を持たないネットワーク型の研究機構で、稲盛財団はフェロー同士を繋ぎ、切磋琢磨できる場を提供します。機構運営としては、運営委員会が審査方針や選考委員候補を選定すると共にフェローへのサポートを行います。フェローは自らの所属する大学・機関で研究に邁進しながら、InaRIS運営委員会のメンバーや他のフェローともオープンに交流し研究を推進します。
■InaRIS運営委員
機構長:中西 重忠 京都大学 名誉教授
委員 :岡田 清孝 京都大学 名誉教授
小林 誠 高エネルギー加速器研究機構 特別栄誉教授
榊 裕之 奈良国立大学機構 理事長
西尾 章治郎 大阪大学 総長
森 重文 京都大学 高等研究院 院長・特別教授
山中 伸弥 京都大学 iPS細胞研究所 名誉所長・教授
※肩書きは2023年3月1日現在
■2023年度InaRISフェロー選考委員(対象領域:水平線の彼方の情報学)
委員長:安浦 寛人 国立情報学研究所 副所長・学術基盤チーフディレクター
委員 :井上 美智子 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 教授
今井 浩 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授
黒橋 禎夫 京都大学 大学院情報学研究科 教授
東野 輝夫 京都橘大学 副学長
間瀬 健二 名古屋大学 数理・データ科学教育研究センター 特任教授
盛合 志帆 情報通信研究機構 サイバーセキュリティ研究所 所長
※肩書きは2022年12月1日現在
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