プレスリリース
栄養学の国際的学術誌「Nutrients」に掲載されたオーストラリアの最新研究によると、無作為に2群に分けた大学生のうち、1群のみ1日2オンス(約56g)のくるみを16週間にわたり摂取してもらったところ、くるみを摂取した群は自己申告評価の中で、くるみを摂取しなかった群と比較して、メンタルヘルスの指標や睡眠の質が改善し、学業ストレスによる悪影響が部分的に軽減したことが明らかになりました※1。
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くるみイメージ
大学生活は、人生において最もストレスフルな時期の一つとして挙げられます。米国の大学生を対象にした最新調査では、大学生の80%は発作的なストレスを頻繁に経験し、さらに61%は不安やうつにより、カウンセリングを受けたことがあるという調査結果が報告されています※2。厚生労働省の最新調査※3によると、日本でも大学生の抑うつ症状の増加が懸念されており、大学生の死因の1位は自殺で、学業不振、進路の悩み、孤立感などとの関連が報告されています。さらに、新型コロナパンデミック以降は新たなストレスが発生していることが報告されています※4。メンタルヘルスの不調は、睡眠時間、食生活、運動不足などの不健康な生活習慣と密接に関わります。
このことから、大学生のストレス軽減のため、健康や生活習慣などの指導・介入が重要視されています。
この研究に携わった南オーストラリア大学博士課程の学生、Mauritz F. Herselman氏は、次のように話しています。「くるみが健康に良い食べ物であるということは既に知られていましたが、今回の無作為化臨床試験という研究デザインと16週間という比較的長い介入期間の研究の結果、くるみを食べるか食べないかというシンプルな違いが、いかにストレスの軽減に影響を与えるかが、より明確に示されました」。今回の無作為化臨床試験では、研究参加者の自己評価のみでなく、唾液や血液検体を用いたストレスマーカーの比較検討や、参加者の一部には、糞便検体を用いた腸内細菌叢の比較検討も行われました。その結果、くるみを食べた群では、ストレスの軽減に関連するマーカーが増加していました。
また腸内細菌叢に関しては、女子学生では学業ストレスによって多様性の低下が認められ、くるみを食べた群ではそのような多様性低下が軽減されていたことが確認されました(男子学生は女子学生より人数が少なかったため、有意な変化は確認されませんでした)。
南オーストラリア大学の臨床健康科学部の准教授で、本研究の主任研究員であるLarisa Bobrovskaya氏は、次のように述べています。「大学生は学位の取得に励みつつ、社会人へと移行していく特異な時期に当たり、この世代独特の困難やストレスが伴います。大学を無事に卒業し、魅力的な職に就かなければならないというプレッシャーは大きく、そのようなプレッシャーが心身の健康状態に影響を及ぼすことも考えられます」。
「したがって、学業ストレスをコントロールすることが重要であり、大学生活をストレスなく無事に終えるために、大学生はさまざまな戦略を考慮すべきと言えます。食事への介入は、脳の健康状態を改善する戦略の一つとして位置づけられていますが、学生には軽視されがちです」。なお、この研究は、南オーストラリア大学とカリフォルニア くるみ協会が共同で資金を提供して行われました。
【研究の概要】
この研究は18歳から35歳の大学生を対象に、介入群(くるみの摂取群)、または対照群(くるみを摂取しない非介入群)のいずれかに無作為に振り分け、16週間にわたって行われました。介入群には、あらかじめ分包されたくるみを提供し、1日に1包(約56g)を摂取してもらいました。対照群には、試験期間中はあらゆる種類のナッツ類や脂肪分の多い魚の摂取を控えてもらいました。参加者は、研究期間中、血液と唾液の検体を3回提出し、メンタルヘルス、気分、一般的な健康状態、睡眠習慣に関する自記式質問票に回答しました。また、参加者の一部は糞便検体も提出しました。各群30名、合計60名の参加者が研究を完了し解析対象とされました。
【くるみの摂取に有望な結果】
介入群と対照群との間にいくつかの評価指標に有意差が認められ、介入群の学生はくるみの摂取によって、学業ストレスにより生ずるメンタルヘルスへの悪影響が軽減されたと感じていたことがわかりました。研究結果の概要を、以下にまとめます。
【くるみの摂取が大学生のメンタルヘルスおよび一般的な健康状態に及ぼす影響】
・毎日くるみを食べることで、メンタルヘルス関連のスコアとストレス・うつ病のスコアの有意な変化が抑制されたことから、大学生の学業ストレスがメンタルヘルスに及ぼす悪影響がくるみの摂取によって軽減されたと考えられる。
・毎日くるみを食べることで、総タンパク質とアルブミンレベルが上昇したことから、学業ストレスが代謝物バイオマーカーに及ぼす悪影響が軽減されたと考えられる。
・コルチゾールやα-アミラーゼなどのストレスバイオマーカーの値が、学業ストレスによって変化することはなかったが、毎日くるみを食べることでα-アミラーゼが低下した。このことからも、くるみの摂取によってストレスの影響が軽減されたと考えられる。
・学業ストレスは、女性における腸内細菌叢の多様性の低下と関連していた。学業ストレスによるこの悪影響は、毎日くるみを食べることで軽減されたと考えられる。
・くるみの摂取は長期的な睡眠の改善につながったと考えられる。
上記のほかに、観察研究と臨床研究から得られている知見と今回の研究結果から、くるみの摂取には心身の健康と以下のような関連性があることが示唆されています※5-7。
・抑うつ症状のある人の有病率や罹患率の低下(米国の成人を対象とした研究)
・健康な若年成人での気分状態の改善
・メンタルヘルスを含む総合的健康指標の加齢に伴う低下の抑制
これらの研究で見られたメンタルヘルスに対する有益な効果は、くるみに含まれる生理活性作用を持つ栄養素とファイトケミカル(植物性化学物質)のユニークなマトリックスによるものと考えられます※8。この点について、Bobrovskaya氏は次のように説明しています。「裏付けとなるさらなる研究が必要ですが、健康的な食事パターンとして、植物性オメガ3脂肪酸のα-リノレン酸(ALA)*を豊富に含んでいるくるみを摂取することは、認知機能とメンタルヘルスに良い影響を与えることが、エビデンスによって明らかになりつつあります」。
「さらに、脳がセロトニン(天然の精神安定剤ともいえる)を生成する際に使うトリプトファンが食事によって多く取り込まれると、不安やうつ症状が軽減されることが、研究によって明らかになっており、くるみに含まれるトリプトファンの存在も、これらの結果に寄与している可能性があります※9」。
なお、今回の研究にはいくつか解釈上の限界点が存在します。まず、この研究は盲検化されておらず、参加者はくるみを摂取するという介入がなされていることを知っていたことです。さらに、2020年における新型コロナウイルスの世界的パンデミックやそれに伴う在宅指示が、結果に影響を及ぼした可能性があります。くるみを含む食生活が脳やメンタルヘルスに影響を及ぼす複雑な経路に対して理解を深めるためには、さらなる研究が必要です。一方で、毎日の食生活にくるみを加えることは、大学生の脳の健康と一般的な健康状態を維持・改善するために、簡単に取り入れることができるアプローチの一つとなり得るかもしれません。
今回の研究報告について、蒲池桂子先生(女子栄養大学 栄養クリニック教授)は以下のように述べています。「くるみは食物繊維やオメガ3脂肪酸が豊富で、腸内細菌叢の多様性を増加させることが複数の研究で示されています。近年、腸内細菌叢の組成がさまざまな疾患と関連のあることがわかっています。腸内細菌叢とメンタルヘルスや睡眠との関連性も報告されており、腸内環境を整えることで睡眠の質を改善する試みも進行中です。
今回の報告では、くるみがストレスや睡眠を改善する可能性が示されていますが、そのメカニズムが、くるみの摂取により腸内環境が改善したためか、くるみに含まれるオメガ3脂肪酸やトリプトファンが作用したのか、それらの相乗効果なのかについては、今後の研究に委ねられています。もっとも、大学生だけでなく生活習慣が不規則になりがちな日本人にとって、くるみが腸内環境を整える食生活の一つの選択肢になり得るとは言ってよいでしょう。今回の研究で摂取されたくるみ1日約56gは日本人にとって多いため、腸内環境を整えるヨーグルトにくるみを加えるなど、他の食材と組み合わせて摂取するのもおすすめです」。
【参考資料】
※1. Herselman MF, et al. The effects of walnuts and academic stress on mental health, general well-being and the gut microbiota in a sample of university students: A randomised clinical trial. Nutrients. 2022;14:4776.
※2. Stress in college. The American Institute of Stress website. https://www.stress.org/college-students. Accessed November 30, 2022.
※3. 厚生労働省 令和3年度 大学における死亡学生実態調査報告書
https://www.mext.go.jp/content/20221223-mxt_gakushi01-000020503_4.pdf
※4. Shiratori Y, et al: A longitudinal comparison of (C)ollege student mental health under the COVID-19 self-restraint policy in Japan JAD Reports 8, April 2022, 100314 doi.org/10.1016/j.jadr.2022.100314
※5. Freitas-Simoes TM, Wagner M, Samieri C, Sala-Vila A, Grodstein, F. Consumption of nuts at midlife and healthy aging in women. Journal of Aging Research. 2020;5651737.
※6. Arab L, Guo R, Elashoff, D. Lower depression scores among walnut consumers in NHANES. Nutrients. 2019;11(2):275.
※7. Pribis P. Effects of walnut consumption on mood in young adults-a randomized controlled trial. Nutrients. 2016;8(11):668.
※8. Nutrients in one ounce of walnuts. California Walnut Commission website. https://walnuts.wpenginepowered.com/wp-content/uploads/2020/05/Nutrients-In-1OZ-Handout_Update.pdf. Accessed November 30, 2022.
※9. Lindseth G, et al. The Effects of Dietary Tryptophan on Affective Disorders. Archives of Psychiatric Nursing. 2015; 29(2): 102-107.
*くるみはナッツ類の中で唯一、植物性オメガ3脂肪酸であるアルファ(α-)リノレン酸を多量に含んでいます(30g当たり2.7グラム)
【カリフォルニア くるみ協会について】
1987年設立のカリフォルニア くるみ協会 California Walnut Commission(CWC)は、カリフォルニア州の4,500以上のくるみ生産者と、75社に及ぶ加工・販売業者を代表する機関です。カリフォルニア くるみ協会は、世界の輸出市場の開拓活動に関わり、くるみの健康に関する研究を実施しています。アメリカで生産されるくるみの99%以上は、カリフォルニア州の肥沃な土壌で栽培されており、世界で流通するくるみの50%以上を占めています。
【カリフォルニア くるみ協会ホームページ】
日本語: https://www.californiakurumi.jp/
英語 : https://walnuts.org/
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