プレスリリース
「ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所」(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、グローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を定期的に発信しています。今回は、横浜国立大学・尾島教授インタビュー「おうち英語」シリーズ最終回。「日本の子どもの脳は、英語にどう反応する?」というテーマで、IBS佐藤有里研究員がインタビューし、記事にまとめました。
<記事まとめ>
●脳を調べることで、英語をどれくらい無意識に理解したり使ったりしているかがわかる。
●世界的にも珍しい方法で実現した大規模な実験では、日本の子どもたちも、英語の習熟度が高いほど脳活動がネイティブ・スピーカーに近いことが明らかになった。
●英語学習を始めた年齢よりも、英語学習経験の長さ(インプット量)のほうが脳活動に大きく影響していた。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/347090/img_347090_1.jpg
■ 1秒間の脳活動の変化をネイティブ・スピーカーと比較
尾島教授は、英語を学んでいる人たちを対象に、脳波を計測する研究を最も多く経験。電極を頭につけて、脳から出てくる電気的な活動を測る「事象関連脳電位(ERP)」という方法です。ことばを見たり聞いたりしたときに、脳活動が1秒間でどのように変化するかを見ることができます。
<大人を対象とした研究でわかったこと>
「これまでの実験を通じて、大人の母語話者は、ことばの刺激に対する反応のタイミングが早くて一貫性があるけれど、第二言語として学習している人は、遅いこともあって一定ではない、という印象があります」(尾島教授)
脳波は無意識の反応を調べられるため、「これは意識すればできるけれど無意識にはできていない」ということがわかってくる、とのこと。典型的な例は、三人称単数のs。「学校で習った知識としては知っているが、瞬間的に無意識に使うことはできない、ということですね。ですから、脳活動を調べると、その人が持っている知識の性質のようなものがもっと見えてくると考えています」(尾島教授)
小学校に出向いて約520人の子どもたちに参加してもらった日本で初の大規模研究
尾島教授による子どもを対象とした実験には、英語教育への取り組みによる違いも調べるため、関東の2つの市から3校ずつ、イマージョン教育(※)を行っている私立の小学校、計7校の小学生が参加しました。この大規模研究は、実験室を備えたトラックで自ら学校に出向く、という世界的にも珍しい方法で実現。1〜3年生の子どもたちを3年間追跡調査し、英語学習経験の長さや英語力で子どもたちをグループ分けして比較しました。
<実験の結果、わかったこと>
1,英語の習熟度に応じて脳活動が変わっていく。
2,英語学習の開始年齢は、日本人小学生の場合、単独で大きな効果を持っているわけではない。
3,学習開始年齢よりも、トータルで何時間英語を学習してきたのか、ということのほうが脳活動に大きく影響していた。
この結果を踏まえて、「日本で英語を学ぶ子どもの場合、学習開始年齢が早くても、必ずしも英語にたくさん触れてきたとは限りません。(中略)英語を外国語として学ぶ日本では、英語に触れる時間をたくさん確保できなければ、早くから学び始めたことの効果は出てこないと思います」と話す尾島教授。
では、もし小さいころから大量の英語に触れ続ければ、遅くから学び始めた人と何か違いが出る可能性はあるのでしょうか。尾島教授によると、最終的に身につく知識やスキルの種類が変わってくる可能性はあるとのこと。特に違いが出やすいと考えられる側面として、日本語を話す人にとって難しい音素の発音や聞き取り、自然なイントネーション、会話における形態素(例:三単現のsなど)の正確な使用が挙げられました。
■ おわりに:「おうち英語」のカギは、大量のインプットか
早期英語教育にどのような効果があるかは、第二言語習得の研究だけに基づいて結論づけることはできません。英語が日常的に使われる環境(英語が第二言語の環境)で育つ子どもと、そうではない環境(英語が外国語の環境)で育つ子どもでは、多くの違いがあるからです。
年齢の影響に関する先行研究や尾島教授の研究から、日本で早くから英語に触れ始めた子どもが英語力の面でほかの子どもと差が出るとすれば、それは「年齢」ではなく「大量のインプットから無意識に学ぶ環境」の影響である可能性が高いと考えられます。その意味で、英語を理解したり使ったりするときに生じる無意識レベルの反応を調べることは重要であり、英語学習経験の異なる日本の子どもたちを対象にした脳科学的研究は、世界的に見ても貴重なものです。
日本国内で日本語を話す親のもとで生まれ育ったにもかかわらず、高い英語力を身につけている子どもたちはいますが、その実態はまだ十分に明らかになっていません。ほかの子どもたちと比べたときや大人になったときに具体的にどのような能力の違いがあるか、もし違いがあるとすればどのように学んできたのかなどの疑問について研究を進めることは、日本における早期英語教育の意味やあり方を考えるうえで不可欠です。
近年は、一般の人々もインターネットやSNSを通じて専門的な研究に関する情報を得やすくなりました。実験に参加する子どもたちの確保は大きな課題であるため、今後、研究者や家庭、教育機関、民間企業などによる協働も進むことが期待されます。
※バイリンガル教育の一つの形態。学校の教科を二つの言語(母語ともう一つの言語)で指導し、両方の言語を読み書きレベルまで育て、さらに二
つの社会文化を受容できることを目的とする。
※詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
前編 https://bilingualscience.com/english/2023022001/
後編 https://bilingualscience.com/english/2023022101/
■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関 HP)https://bilingualscience.com/
Twitter)https://twitter.com/WF_IBS
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月
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