プレスリリース
AMR臨床リファレンスセンターは、2022年11月-12月に全国の20歳-69歳の生活者を対象とした「抗菌薬(抗生物質)の処方に関する調査」を行いました。
「薬剤耐性(AMR)」が起こる要因の一つに、抗菌薬の不適切な使用があげられます。薬を安全に正しく使用するための第一歩として、自身が服用する薬の種類を正しく認識することが重要です。
今回はかぜ症状で医療機関を受診した人の、処方された薬の認識について、抗菌薬を中心に調査しました。
▼調査概要
1. 調査方法 :インターネット調査
2. 調査機関 :国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
AMR臨床リファレンスセンター
3. 調査対象者:全国の20歳-69歳の過去3年以内にかぜ症状
(発熱・のどの痛み・咳・鼻水・くしゃみなど)で
医療機関を受診し、お薬手帳で処方薬を確認できた人*
(健康診断やワクチン接種などでの診察を除く)
4. 有効回答数:400サンプル
5. 調査実施日:2022年11月30日(水)〜2022年12月5日(月)
*かぜ症状で医療機関を受診して薬を処方された際に、お薬手帳に記録され、処方内容の確認が可能な方に対して、お薬手帳を見ながら最大10種類の処方薬を転記していただき、調査者(医師)により処方薬の中に抗菌薬が含まれているかどうか確認するという方法で調査を実施しました。
*本調査では、小数点第2位を四捨五入しています。そのため、数字の合計が100%とならない場合があります。
▼調査結果のポイント
◎かぜ症状で受診した際に、49.3%の人が抗菌薬を処方されたと思っていた(実際の抗菌薬処方の有無にかかわらず)。
◎抗菌薬を処方されたと思っていた人の65.0%は、実際には抗菌薬は処方されていなかった。
◎40.0%の人が抗菌薬の効果として「ウイルスをやっつける」と誤認している。
【調査結果】
「抗菌薬はかぜに効かない」にも関わらず約半数の方がかぜ症状で抗菌薬が処方されていると思っている!
1 直近でかぜ症状で医療機関を受診した際に処方された薬について(自由回答、n=400)
*ここでの「かぜ症状」とは、発熱・のどの痛み・咳・鼻水・くしゃみなどを指します。
【年代別】かぜ症状で医療機関を受診した際に処方された薬の中に抗菌薬が含まれる割合
*お薬手帳に基づいて記載していただいた薬剤名を、調査者が抗菌薬が含まれるものと含まれないものに分類しました。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/344438/LL_img_344438_1.png
図1
直近のかぜ症状で医療機関を受診した際に処方された薬を、お薬手帳を見ながら処方薬名を転記していただいたところ、処方薬の中に実際に抗菌薬が含まれていた方は全体で19.0%でした。
60代で28.4%と最も多く、50代は12.4%と最も少なくなっていました。
2 【1】でお答えの処方薬の中に抗菌薬が含まれていると思うかについて(単数回答、n=400)
【年代別】処方薬の中に抗菌薬が含まれていると思う割合
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図2
【1】でお答えいただいた処方薬の中に抗菌薬が含まれていると思うかどうかをお聞きしたところ、「含まれていると思う」と答えた方は全体で49.3%、「含まれていると思わない」と答えた方は50.8%であり、半数近くの方がかぜ症状で医療機関を受診した際に抗菌薬を処方されたと思っていたようです。
また、年代別では「含まれていると思う」と答えた方が20代では58.3%、50代は41.2%と17.1ポイント差がありました。
本当に抗菌薬処方されていますか!?
処方されていると思っている方の6割以上は誤りです!
3 処方薬に抗菌薬が含まれていると思うか、と実際に含まれるか、の一致について(単数回答、n=400)
【年代別】抗菌薬処方について正しく認識していた人の割合
*ここでの「正しく認識している」とは、「抗菌薬が処方されていると思っている方でかつ実際に抗菌薬が処方されていた方」と、「抗菌薬が処方されていないと思っている方でかつ実際に抗菌薬が処方されていなかった方」をあわせています。
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図3
【自身の処方薬に抗菌薬が「含まれている」と思う人と「含まれていない」と思う人で分けてみると・・・】
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図4
かぜ症状で医療機関を受診した際に処方された薬の中に、抗菌薬が含まれていると思うか否か、と、実際に処方されているか否か、が一致しているかを確認しました。全体での一致率(正答率)は66.3%で、約3人に1人が自身への処方薬の中に抗菌薬が含まれているかどうかに関して誤認していることが判明しました。
年代別の一致率(正答率)では60代が71.6%と最も高く、最も低かったのは20代で52.8%でした。
20代では半数近くの方が誤認していることがわかります。
自身の処方薬に抗菌薬が「含まれている」と思う人と、「含まれていない」と思う人で、実際の処方の有無を確認しました。「含まれていない」と思う人は、96.6%が実際に抗菌薬処方がなく、自身の処方を正しく認識していたのに対し、「含まれている」と思う人の中で実際に抗菌薬を処方されているのは35.0%であり、65.0%の人が実際に処方されていないのにも関わらず処方されたと思い込んでいることが判明しました。
抗菌薬は万能薬ではない!「ウイルスはやっつけません!」
4 あなたが抗菌薬について正しいと思うことについて(複数回答、n=400)
【以下の項目に対して「正しい」と答えた人の割合】
画像5: https://www.atpress.ne.jp/releases/344438/LL_img_344438_5.png
図5
抗菌薬の誤解に関する質問です。抗菌薬に関して誤っている内容に関して、誤解している割合を調べたところ、最も誤解が多かったのは「抗菌薬はウイルスをやっつける」(40.0%)、ついで「抗菌薬はかぜ症状が治ったら早くのむのをやめる方がよい」(26.5%)、「抗菌薬は熱を下げる」(24.0%)の順となりました。
自身が処方された薬の種類を理解することが、薬を正しく安全に利用するための第一歩となるため、処方箋を受け取るだけでなく、処方内容について、医師や薬剤師の説明を聞いたり服薬指示を確認して正しく服用しましょう。
▼「抗菌薬(抗生物質)」
感染症を引き起こす原因には、細菌とウイルスがいます。細菌とウイルスは、大きさや仕組みがまったく違います。一般的な「かぜ」や「インフルエンザ」などは、ウイルスが原因です。「抗菌薬」は細菌による感染症の治療に用いられる薬です。また、不適切に抗菌薬をのむことで、薬が効かない薬剤耐性菌が出現するリスクが高まります。
・抗菌薬は細菌のみをやっつけ、ウイルスはやっつけられません
・抗菌薬は処方された日数、用量を守ってのみ切りましょう
・抗菌薬はかぜを早く治すことはありません
・抗菌薬はかぜやインフルエンザの熱を下げる効果はありません
・抗菌薬はのどの痛みに効果はありません
・抗菌薬をのんでもかぜの鼻水は止まりません
▼「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)」
「薬剤耐性」とは、感染症の原因となる細菌に、抗菌薬が効かなくなることです。細菌が体に入り、病気を引き起こした時には、抗菌薬を服用して治療することもありますが、一部の菌は「薬剤耐性菌」に変化することがあります。
また、抗菌薬は病原菌だけでなく健康バランスを保っている細菌(常在菌)も排除して、細菌同士のバランスも崩してしまうので、薬剤耐性菌が増えやすくなります。自己判断で抗菌薬を服用したり、医師の処方指示を守らずに服用しなかったりすると、病気が治らないばかりか、副作用や薬剤耐性菌の出現などの問題に直面します。
「薬剤耐性」は感染症の治療や予防の妨げになります。
自分の処方薬を理解するために医師・薬剤師の話はしっかり聞こう!
5 医師や薬剤師が処方薬の説明をする際きちんと話を聞いているかどうかについて(単数回答、n=400)
画像6: https://www.atpress.ne.jp/releases/344438/LL_img_344438_6.png
図6
医師や薬剤師が処方薬の説明をする際に、きちんと話を聞いているか質問したところ、ほとんどの方がきちんと話を聞いているとの回答でしたが、 「あまり話を聞いていない」と回答した方が10%前後いました。
医師や薬剤師の話をあまり聞いていない理由(複数回答、n=61)
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図7
医師や薬剤師の話をあまり聞いていないと回答した方にその理由を質問したところ、「聞いても難しくてわからないから」が44.3%で最も多く、次いで「信頼しているから」が26.2%でした。
<総括>
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長 藤友 結実子
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AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長 藤友 結実子
当センターでは、毎年「抗菌薬意識調査」をしています。この意識調査のみでは、調査対象となった方々の「抗菌薬」に関する具体的な理解の程度について、よくわからない部分がありました。そこで今回の調査では、少し違うやり方で、一般の方々の抗菌薬に関する理解について探りました。具体的には、調査対象者に実際に処方された薬を挙げていただき、そこに抗菌薬が含まれるかどうかをこちらで判断するという手法を取っています。その結果、多くの方が抗菌薬について誤解している、もしくは知識が十分でないことが見えてきました。
かぜ症状で受診した際に、抗菌薬を処方されたと思っている人のうち実際に抗菌薬を処方されていたのは35.0%でした。逆に言えば「処方された」と思って家に帰ってきた人の65.0%は、抗菌薬は実際には含まれていなかった、ということです。
これは、抗菌薬が具体的にどの薬かわかっていない人が多くいることを示しています。抗菌薬だけでなく自分が服用する薬について確かな知識を得ることは、自分の病気や治療、健康状態をよく知り、ひいてはより良く生きることにつながります。抗菌薬だけでなく、自分の薬についてもっと知っていただきたいと思います。
それから、ほとんどの人は医師や薬剤師の説明を聞いているものの、あまり話を聞いていないという人の理由として、「聞いても難しくてわからないから」というのが最も多くみられました。これらの結果から、医療従事者は、患者さんが理解しやすい説明を工夫することが必要だと考えます。
当センターでもこれらの結果を踏まえ、抗菌薬の適正使用についてどのようにすれば理解が広がるのか、引き続き検討し、取り組みを進めてまいります。
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