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ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所

海外論文「ASD児における第二言語習得の認知的利点」レビュー記事を公開!

(@Press) 2023年01月19日(木)12時15分配信 @Press

「ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所」(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、グローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を定期的に発信しています。今回は、海外論文「自閉スペクトラム症におけるバイリンガリズムの認知的利点〜『心の理論』」はどのような要因で発達が促進されるか?(IBS訳)」(Peristeri et al., 2021)について、IBSポール研究員がレビュー記事にまとめました。

<レビューまとめ>
・二つの言語を使う能力(バイリンガリズム)は、他者との関わりに困難を抱える自閉スペクトラム症(ASD)児にとってメリットがある。
・バイリンガルのASD児は、他者の立場に立つ能力がモノリンガルのASD児よりも優れていた。
・ほかの先行研究と一致するため、第二言語を習得することは、脳神経に個性のある(ニューロダイバース)子どもの発達に悪影響を及ぼすのではなく、良い影響を与えると思われる。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/342663/img_342663_1.jpg

■ 日本人の3%はASD(自閉スペクトラム症)。他者の立場に立つことが難しい子どもたち
日本で自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)と診断される人の割合は、近年3%に増加し、諸外国よりも高い傾向にあります。その理由として、ASDの社会的認知度が向上したこと。そして、医療・専門サービスの利用が増えたことが挙げられています。
ASD児の特性は、社会性における困難や発語の遅れ、興味のあることにこだわりすぎてほかの情報が入らない傾向などがあります。これらの特性は必ずしも悪いことではなく、例えば、何かに強くこだわる特性は、特定の分野で深い洞察力を養う手助けになります。
一方で、ASD児の多くが日常の社会生活で他者と関わることに困難を抱える、と言われています。定型発達児の場合は、他者の立場に立つ能力(他者視点取得)が4〜5歳で発達しますが、ASD児はこの能力が同年齢で十分に発達していない場合があります。他者の立場に立つ能力とは、自分が思っていることはほかの人が思っていることと違うかもしれないと考えたり、他者が見ている世界に入り込んだりする能力です。この能力のことを「心の理論」といい、「心の理論」を測定するタスクでASD児の成績が比較的低いことを示した研究報告があるのです。

■ Peristeriらの研究における二つの問いと実験内容
「心の理論」の能力を測るときには、多くの研究者が「誤信念課題」と呼ばれるタスクを使っています。このタスクは、相手がこれから取る行動をうまく見極められるかどうかを見ることで、他者の立場に立つ能力を調べるものです。定型発達児を対象にした先行研究では、バイリンガル児の成績がモノリンガル児よりも優れていることが示されています。
例えば、4歳時点で相手の立場に立つことができた子どもの割合は、バイリンガル児60%に対し、モノリンガル児がわずか25%だったことを報告しています(Kovacs, 2009)。これらの知見を踏まえ、Peristeriら(2021)の研究は、次の二つの問いに答えることを目的としました。

1. ASDの子どもがバイリンガルであることは、他者が自分とは違う心を持っていること(誤信念)の推論における困難を軽減する役割を果たしうるか?(バイリンガリズムによって、他者の立場に立ちやすくなるか?)
2. バイリンガリズムが困難を軽減する可能性があるとすれば、どのような認知メカニズムがそれを支えているのか?例えば、抑制、ワーキングメモリ、注意の転換、メタ言語知識の能力など。

この二つの問いに答えるため、6〜15歳のバイリンガルASD児43名、モノリンガルASD児60名、計103名を対象に、他者の立場に立つ能力を評価するテスト(誤信念課題)を行いました。テストは、1、二人のキャラクターが登場する、さまざまなストーリー展開の短編アニメを見せる、2、アニメを見終わった子どもに、ストーリーの登場人物が最後に取った行動が適切だったかどうかを答えてもらう、という内容です。登場人物が自分とは違う視点を持っているかもしれないことを理解していなければ、正解することができません。


■ 実験結果「バイリンガルはモノリンガルよりも他者の立場に立つ能力が優れていた」
分析の結果、バイリンガルのASD児のほうがモノリンガルのASD児よりも、ストーリーの登場人物の視点に立って正しく回答することができ、回答の正確さに有意差がありました。論文の著者らは次にように結果を分析しています。
1)バイリンガルの子どもは、話す相手によって、どの言語をどのように使うかを常に考えなければならない(Grosjean, 2010)という説明。つまり、それが相手の立場に立つ練習になるということ。
2)モノリンガルよりもバイリンガルのほうが実行機能(目標のための計画を立て、目標を達成するために自分の行動や思考、気持ちを調整する脳機能)が高い傾向にあるという説明。
ASD児は、社会との関わり、特に他者の立場に立つことを苦手とする場合がありますが、Peristeriらの研究は、バイリンガルとして育つ経験が複数の言語を話す能力だけではなく別の能力も高め、ASD児が自分の視点から離れて他者の視点に立てるようになる可能性を示しています。


■ まとめ:バイリンガリズムはASD児の困難を増やすものではなく、むしろ困難から守る
バイリンガリズムや外国語習得が、学習障害(LD)、注意欠如・多動症(ADHD)、ASD児にどのような影響を与えるかを調べる研究はいま増加しており、今回の研究はこの分野に貢献するものです。先行研究の結果も踏まえると、バイリンガリズムはASD児が抱える困難を増やすものではなく、むしろ困難から守るものだと思われます。
ASD児にももう一つの言語を学ばせたいと願う親は、それが可能であること、そして、複数の言語を学ぶことが子どもの発達にマイナスの影響を与えないことを知っておくことが重要です。親の態度とASD児の社会的能力の関係を調べた研究がいくつかあり、親の前向きな姿勢はその親が子どもの診断結果を受け入れるかどうかに関係すること、そして、それがASD児の社会的能力の発達を支える親子の関わり方に影響を与える可能性があることがわかっています。そのため、親の前向きな姿勢や関与は、子どもにとって極めて有益になる場合があります。
※詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
https://bilingualscience.com/introduction/2023011101/

■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
HP(https://bilingualscience.com/
Twitter( https://twitter.com/WF_IBS )
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月

プレスリリース提供元:@Press

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