プレスリリース
KPMG(チェアマン:ビル・トーマス)は、世界の経営者の将来見通しや重要施策等を調査した、第8回目となる「KPMGグローバルCEO調査2022」を発表しました。本調査は、2022年7月12日から8月24日に、11ヵ国11業界の企業経営者1,325人に対して、経済およびビジネスの展望に関する今後3年間の見通しについて調査しています。
●きわめて多くのCEO(86%)が今後1年にわたり不況が続くと予想しているが、半数以上は不況が穏やかで短期的なものになると予測
●不況によって想定されている成長が阻害されると予測したCEOは73%
●レピュテーションリスクが、CEOにとって大きな懸念材料に
●雇用凍結を実施していると回答したCEOは39%である中、今後3年間で社員数の減少を予測しているのはわずか9%
●ESG課題の報告要求が増大していると回答するCEOは69%いる一方、不確実な経済状況下でのESG施策は減速
本調査によるとグローバル企業のCEOの8割以上(86%)が、今後1年にわたり不況が続くことを予想しており、71%が自社の収益の最大10%に響くと考えています。しかしながら、今後6カ月間で経済が回復することに自信を持っているCEOは73%と、「KPMGグローバルCEO調査2022 パルス版」(2022年1月〜2月に500人のCEOに対して実施)調査の時点(60%)よりも増えており、9割近く(85%)は今後3年間の自社の成長にも自信を持っています。
日本企業においても同様に80%が今後1年にわたり不況が続くことを予想しており、88%が自社の収益の最大10%に影響すると考えています。このことから、日本企業のCEOが共通して、ロシア・ウクライナ戦争の影響からインフレ・円安局面に伴う短期的な不況を予想していることがうかがえます。また、今後6カ月間で経済の回復に自信を持つ日本企業のCEOはパルス調査から大幅に増加し、グローバル全体と同水準となりました。8割(80%)の日本企業は今後3年間の自社の成長見通しにも自信を持っています。
また、グローバル企業のCEOの58%が穏やかで短期的な不況を予想していることがわかりました。その内14%は、現在の喫緊の懸念材料が不況であると回答していますが、これはパンデミックによる疲れが1位(15%)であったパルス調査の9%から増加した程度で限定的と言えます。グローバル企業では、テクノロジーリスクがビジネスの成長に対する最大のリスクとして挙がっています。
日本企業においても67%が穏やかで短期的な不況を予想しているものの、現在の喫緊の懸念材料として不況は3位にとどまっており、引き続きパンデミックによる疲れが1位になっています。同率でレピュテーションリスクが1位となっていることは日本企業独特の傾向です。
このような不確実なビジネス環境のもと、CEOの39%がすでに雇用凍結を実施しており、46%が今後6カ月間に従業員の縮小を検討しているという状況ですが、欧米中心に自主退職が大量に発生する「大退職時代」も沈静化の兆しがあります。それは、今後3年間の展望において、社員数の減少を予測しているのはわずか9%という前向きな結果にも表れています。また、約半数のCEOはESGイニシアチブがビジネスにとって成長を促す上で重要であることを認識している中、ESG課題の報告要求が増大していると回答するCEOは69%であるものの、経済の不確実性が続く昨今ではESGの取組みが減速する傾向がみられます。
KPMGインターナショナルのチェアマン兼CEOであるビル・トーマスは、「数十年に一度の問題である、世界的なパンデミック、地政学的な緊張、インフレ圧力、財政難などが短期間に立て続けに発生したことから、CEOの持つ前向きな視点も揺らいできました。このような経済情勢が彼らの最大の懸念事項になっている反面、CEOの中に自社および長期的な成長予測に対する大きな自信がうかがわれるのは、一つの安心材料になっています。私たちの調査が慎重かつ前向きな視点をもたらし、その結果、CEOがこのような試練に対峙し克服する際に自社の再生力に自信を持ち、それに続いて市場にとっても拡大する不確実性を軽減させる一助になればと願っています。」と述べています。
■「KPMGグローバルCEO調査2022」の主なポイント
今回の調査結果の主なポイントは、以下のとおりです。
1. レピュテーションリスクおよびテクノロジーリスクに対する関心の増大
最先端・破壊的な技術が今後3年間にわたるビジネスの成長に対する最大のリスクとなりました。さらに、パルス調査(3%)と比較すると、顧客や世論の認識とのずれなどといったレピュテーションリスクが、CEOにとって大きな懸念材料になっていることがわかります(10%)。また、地政学的な問題に反応して、51%の企業がロシアとの取引を停止し、34%の企業が今後6カ月で取引を停止することを計画しています。
日本企業においては、最大のリスクはレピュテーションリスク(15%)となっています。これはガバナンスコード改定などの対応ができなければ、会社の評判に影響するという印象が強くなったことも一因として、レピュテーションリスクを選択するCEOが相対的に増加してきていると考えられます。ロシアとの取引について、日本企業においては、42%の企業が既に取引を停止し、41%が今後6カ月で取引を停止することを計画しています。
2. サイバーセキュリティは企業の最大の脅威ではなくなった
昨年、サイバーセキュリティは成長に対する5大リスクから外れましたが、77%は情報セキュリティが自社の戦略的な機能であると同時に競争力の源泉でもあると見なしていると回答しています。7割以上(73%)は、地政学的な不確実性も企業のサイバー攻撃の懸念を増大させる結果になっていると認識しています。
また約4分の3の企業(72%)はランサムウェア攻撃に対抗する手段を計画する中、サイバー攻撃への備えが不十分であると考えているCEOは増えており、2021年調査の13%から、2022年調査では24%にまで上っています。
日本企業においても、サイバーセキュリティを最上位リスクに挙げているCEOは少ないですが、情報セキュリティが競争力の源泉と見なしているCEOが69%、地政学的な不確実性も企業のサイバー攻撃の懸念を増大させる結果になっていると認識しているCEOが63%と、グローバル全体に対し低い傾向が出ています。これは、日本企業におけるサイバーセキュリティの脅威が減退しているようにも見えますが、昨今、急激に変化した世の中の動静を受けて喫緊の課題として他のリスクが相対的に浮上した結果であり、引き続き無視できない大きな脅威であると考えられます。サイバー攻撃に関しても、ランサムウェア攻撃に対抗する計画をしているCEOは57%に過ぎず、14%がサイバー攻撃への備えが不十分であると準備不足を認めています。
技術が進歩すれば、サイバーの攻撃手法も進歩します。日本企業は万全の体制でサイバーセキュリティリスクのコントロールに臨む必要があります。
3. CEOの熟慮の下、雇用が凍結され社員数も減少
経済的な苦境が継続することに伴い、CEOの39%がすでに雇用凍結を実施しており、46%が今後6カ月間に従業員の縮小を検討しているという状況ですが、欧米中心に自主退職が大量に発生する「大退職時代」も沈静化の兆しがあります。それは、今後3年間の展望において、社員数の減少を予測しているのはわずか9%という前向きな結果にも表れています。
日本企業においても、36%がすでに雇用凍結を実施していますが、今後6カ月間に従業員の縮小を検討しているのは37%とグローバル全体よりも低い傾向が出ています。さらに3年間の展望では、社員数の減少を予測しているのはわずか2%とグローバル全体よりも明るい見通しとなっています。
4. 不確実性が長期的なデジタルトランスフォーメーションを加速
多くの不確実なビジネス環境のもと、CEOはデジタルトランスフォーメーションを優先課題として掲げている一方で、企業の40%はデジタルトランスフォーメーション戦略を中断しており、残りの37%も今後6カ月は中断することを計画しています。長期的な観点では、4分の1以上の企業が成長目標を今後3年間で達成する上で、デジタル化と業務のコネクティビティを進展させることが重要だと考えています。また74%の企業が組織のデジタル化とESGへの戦略的投資が密接にリンクしていると考えています。
日本企業においても、28%がデジタルトランスフォーメーション戦略を中断、残りの50%も今後6カ月以内に中断することを計画しています。また、グローバルと同水準の28%がデジタル化と業務のコネクティビティを進展させることの重要性を認識している一方で、デジタル化とESGへの戦略的投資が密接にリンクしていると考えているのは65%と、グローバル全体に対し低い傾向が出ています。地政学リスクの増大やコロナ禍の価値・判断基準の変化は不可逆のものであり、過度なデジタルトランスフォーメーション投資抑制は企業競争力低下に直結するものと懸念されます。
また、国際競争力確保の観点からグローバル企業の調達は、ESG対応ができているかが重要な指標となっており、そのトレーサビリティは、データで保証できる仕組みの構築が必須となります。日本企業は、デジタル化とESG対応が直結しているという認識をより一層強める必要があると考えられます。
5. ESGにおける説明責任が増大する反面、目標達成は減速
グローバル企業のCEOは、ESGイニシアチブが自身のビジネスにとって、特に財務業績を改善し成長を促すという点で重要であることを認識しています。実際、CEOの69%がESG課題に関する報告やその透明性の向上に対するステークホルダーからの要求が増えていると答えています。これは2021年調査では58%でした。また、CEOの3分の1以上(38%)は、自社が説得力のあるESGストーリーを伝えることに苦労していると回答しています。
日本企業においても、78%が同要求の高まりを認識しています。2021年調査でも71%と、過去から継続してグローバル全体(2021年調査では58%)に対し高い傾向が出ています。また、説得力を持ってESGを伝えることに苦労しているCEOが51%と出る一方で、60%がESGの問題についてステークホルダーの関心が今後も加速し続けると考えており、グローバル全体に対し低い傾向が出ています。
CEOの約半数(45%)はESG施策の進展が企業の財務パフォーマンスを改善すると考えており、1年前の37%から増加しています。しかし、経済の不確実性が続いていることもあり、半数が今後6カ月のESGへの取組みを一時中断あるいは見直しを検討すると回答しており、34%は中断の判断あるいは見直しを実施済みと回答しました。
日本企業においても、37%はESG施策の進展が自社の財務パフォーマンスを改善すると考えており、2021年調査の36%から微増しているものの、グローバル全体に対し低い傾向が出ています。またグローバル全体の動向と同様、半数が今後6カ月間のESGへの取組みを一時中断あるいは見直しを検討すると回答し、32%がすでに中断の判断あるいは見直しを実施済みと回答しています。これは、地政学的な緊張や気候変動、パンデミックなど環境や社会の変化が日本企業に及ぼす影響は、たとえ同じ業種業態であっても、価値形成に及ぼす度合いやそのプロセスが各企業によって異なるという特徴があるため、そこで、一度戦略を立ち止まって考えていると推測されます。
戦略的意思決定のためには、「何が価値の源泉なのか」を再定義した上で、「何が対処すべき課題なのか」の分析が必要となります。その分析をすることで、規制等の外部圧力ではなく、独自性のある自発的なESG施策の進展につながっているのではないかと考えます。
「KPMGグローバルCEO調査2022」に関する情報については、home.kpmg/CEOoutlook( https://home.kpmg/xx/en/home/insights/2022/08/kpmg-2022-ceo-outlook.html )のサイトをご覧ください。また、ハッシュタグ「#CEOoutlook」を使用して、LinkedInおよびTwitterアカウント「@KPMG」での投稿をフォローいただけます。
■「KPMGグローバルCEO調査」について
「KPMGグローバルCEO調査2022」では、世界で影響力を持つ企業の経営者1,325人に対し、経済および事業の展望に関する今後3年間の見通しについて調査しています。すべての回答企業は、年間収益が5億ドルを超えており、対象企業の3分の1は、年間収益が100億ドルを超えています。
本調査は、2022年7月12日から8月24日に実施され、主要な11ヵ国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、スペイン、英国、米国)の11業界(投資運用、自動車、銀行、消費財/小売、エネルギー、インフラ、保険、ライフサイエンス、製造、テクノロジー、通信)の企業経営者を対象としています。
注)いくつかの数値に関しては四捨五入を行っているため、必ずしもその合計が100%にならない場合があります。
本資料は2022年10月4日にKPMGが発表したプレスリリースをもとに日本語に翻訳し、日本企業の回答およびその考察を追記したものです。本資料の内容および解釈は英語の原文を優先します。
■KPMGについて
KPMGは、監査、税務、アドバイザリーサービスを提供する、独立したプロフェッショナルファームによるグローバルな組織体です。世界144の国と地域のメンバーファームに約236,000名の人員を擁し、サービスを提供しています。KPMGの各ファームは、法律上独立した別の組織体です。
KPMG International Limitedは英国の保証有限責任会社(private English company limited by guarantee)です。KPMG International Limitedおよびその関連事業体は、クライアントに対していかなるサービスも提供していません。
日本におけるメンバーファームは、次のとおりです。有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人、KPMGコンサルティング株式会社、株式会社KPMG FAS、KPMGあずさサステナビリティ株式会社、KPMGヘルスケアジャパン株式会社、KPMG社会保険労務士法人、株式会社KPMG Ignition Tokyo
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