プレスリリース

IEEEが発表 視覚と聴覚を超えた仮想現実

(@Press) 2022年11月02日(水)14時00分配信 @Press

IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、さまざまな提言やイベントなどを通じ科学技術の進化へ貢献しています。今回、IEEEメンバーのアンダーソン・マキエル氏(Anderson Maciel)がVRに関する提言を発表しました。

仮想現実(VR)ヘッドセットを装着すると仮想空間を自由に移動することができます。しかし、そのVR体験は視覚と聴覚に限られています。そのことが、特に障害のある人にとっては制約になる可能性があります。
IEEEメンバーのアンダーソン・マキエル氏(Anderson Maciel)は、VRをさらに没入感のあるものにすることで、この制約を取り除こうとしています。その鍵を握っているのが触覚や嗅覚などの感覚を追加することです。「手足を失った人や視覚障害者が、現実世界よりもVRのほうが多くの障壁に遭遇するのは理不尽です。」とマキエル氏は述べています。
VRは、障害を持たない人々に障害のある生活がどのようなものかを教える新しい機会を提供することもできます。彼の研究には、振動触覚ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の開発が含まれています。このデバイスは、ヘッドの周りに一連の振動モーターが取り付けられています。ユーザーに視覚情報を提供する代わりにモーターが振動することで、たとえば道路を歩くときにその刺激でユーザーを誘導することができます。
「このアイデアにより、会話や環境音のための聴覚用チャネルを維持したままで、ユーザーが標識や案内表示を見なくても道案内をすることが可能になりました。振動モーターは、さまざまな構成で取り付けることができるため、ヘッドの周りの方向と高さを伝えることができる効率的な構成を採用しました。」


■障害者を支援する目的で仮想現実ツールを適用する上で、特に興味を持ったことは何ですか?
人間とコンピュータのやり取りにおいて、常に目標となるのがアクセシビリティとインクルーシブです。VRには2つの側面があり、そのひとつが、別の体で生活することで、手足を失ったり視覚障害になることがどのようなものかを体験できることです。VRは、共感を呼び起こすための強力でユニークなツールなのです。
私たちの研究対象は失明した人々だけではありません。煙の立ちこめる建物内の消防士や、暗い洞窟内の鉱夫など、視界が妨げられた状況にある人々にも応用できます。彼らは見ることができないので、他の感覚や知識に頼って慎重に移動し、任務を遂行しなければなりません。


■視覚障害者もメタバースに問題なく参加できると思いますか?
現実世界では視覚障害者にとっての利便性が向上していますが、完全なアクセシビリティの実現にはまだ長い道のりがあります。幸いなことにテクノロジーが大いに役立っています。しかし、もう一つの重要な側面は、一般の人々を啓蒙して、あらゆる障害の違いや困難さを理解してもらう必要があるということです。特に、仮想世界の方が現実世界よりも感覚を代替することが容易なので、VRとメタバースはその両面で役立つと思います。


■ハプティクス(触覚学)は、人間の知覚、感じ方、感覚について何を教えてくれましたか?
コンピュータのハプティクスは、何十年間も研究されてきました。毛のある肌と毛のない肌では、毛を除去しても振動の感じ方が異なること、皮膚感覚の解像度は体の正中線から変化していることなどが分かってきました。皮膚感覚の解像度は垂直方向と水平方向の変化に関して不均一であり、特定の領域で皮膚を引き伸ばすと、重量知覚と方向感覚が変化します。
VRの目標は完全な没入感を提供すること、すなわち五感をすべて遮断してコンピュータが生成する刺激に置き換えるのです。
私たちは、目の見える人とのマルチモーダルインタラクション※1において、視線を向けるために音と振動触覚を使用して通知しました。仮想体験により多くの感覚を加えれば加えるほど、臨場感が高まることが分かりました。


■ハプティクスを使った情報伝達の方法には、どのようなものがありますか?
身体のさまざまな場所に振動パターンを適用することで、人が進むべき方向や障害物の有無などを合図にして伝えることができます。また、「はい」「いいえ」など、より抽象的な情報を伝えることも可能です。たとえば「右にある物を私にください」というような触覚を伴う言葉や文章を明確に伝えられるかどうかも研究しています。


■VRは主に視覚と聴覚を対象にしたメディアですが、今後、他にはどのような感覚体験が得られるようになりますか?
匂いや温度を伝えるディスプレイは以前からあって、没入環境をさらに豊かなものにしています。
嗅覚系システムは臨場感を高めることに成功しているので、近い将来、応用例がいくつも現れるでしょう。
ペルチェ素子熱電発電モジュール※2は、ウェアラブルデバイスに組み込めるほど小型で低価格です。私は仮想物体を冷たく感じたり、暖かく感じたりするような体験をしたことがあります。ただしアクチュエータの動作が遅いので、温度変化が感知されるまで数秒間も待つ必要があります。つまり、このハードウェア技術がVR向けに完成の域に達するにはまだ時間が必要です。


■現在利用中のハードウェアは、メタバースでどのような形で使用される可能性がありますか?
メタバースは、ユーザー体験に向けたインタラクティブなハードウェアとソフトウェアを開発するすべての人にとって大きなチャンスであり、これにはもちろんハプティクスも含まれます。ハプティクスアクチュエータは、HMDやコントローラに簡単に組み込むことができるので、人々がメタバースを体験する方法において重要な役割を担うことになると考えています。その可能性は無限大です。


※1 人が視覚・聴覚を含め、声や言語だけでなく視線、表情、身振り手振りなど複数のコミュニケーションモードを使い情報伝達(コミュニケーション)を行うこと
※2 温めたり冷やしたり両方を備えた熱制御モジュール


■IEEEについて
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。
IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。

詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。

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