プレスリリース
新菱冷熱工業株式会社、株式会社三菱地所設計、学校法人芝浦工業大学は、3者が設計・施工・検証に携わった『新菱神城ビル』(東京都千代田区)が、空気調和・冷暖房に関する世界最大の国際学会、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)※ が開催する「ASHRAE Technology awards 2023」の地域カンファレンスASHRAE Region XIII 25th Chapters Regional Conferenceで最高得点を獲得し、アジア地域最優秀賞を受賞したことをお知らせします(賞発表:2022年8月19日)。
※ 米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE/American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)は、132カ国・5万人以上の会員を擁する、空気調和・冷暖房に関する世界最大の国際的学会。1894年創設、本部:米国アトランタ。
https://www.ashrae.org/
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新菱神城ビル(1)
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新菱神城ビル(2)
■世界規模の環境建築技術賞・ASHRAE Technology awards
「ASHRAE Technology awards」(1999年〜、毎年開催)は、省エネ・快適性やユーザの健康などを兼ね備えた、革新的な環境建築に対する世界最大規模の技術賞です。審査には実際の運用データによる裏付けが要求され、建築・設備関係者からも高い信頼を集めています。『新菱神城ビル』は既に日本国内で最優秀賞を受賞しており、今回の受賞は、世界を15地域に分け各地域の最優秀賞を選ぶもので、シンガポール、韓国、台湾などを含む「Region XIII」(アジア地域)において「First Place」(最優秀賞)の評価となりました。これにより本年10月の全世界最優秀選考に地域代表として選出されました。日本、そしてアジアの代表として「世界一の環境建築」に臨みます。
【ASHRAE Technology awardsの選考プロセス】
<日本代表選考>
ASHRAE Japan Chapter Technology awards
日本国内 First Place 受賞
2022年7月19日発表
<アジア代表選考>
ASHRAE Region XIII Technology awards
アジア地域 First Place 受賞
2022年8月19日発表
<世界最優秀選考>
ASHRAE Technology awards
各地域のFirst Placeから世界最優秀を選考
2022年10月 発表予定
■80.25点/100点の高得点をマークしてアジア最優秀賞を受賞
『新菱神城ビル』は、審査員による選考において100点満点中、80.25点という高得点を獲得し、最優秀賞に選ばれました。本賞における審査カテゴリと評価項目は下記の通りです。
<審査カテゴリ>
審査にて評価されたポイント(ASHRAEの審査コメントを一部整理)
<エネルギー効率>
LEEDゴールド認証を取得し、考案熱源システムや建物の高さ制限に対応した一連の空調システムの開発への取り組みやエネルギーの削減効果に加え、予測値と実測値との精度比較など。
<室内空気品質>
外気のCO2制御、湿度制御を用いた放射空調システムや館内のエアバランス制御など。
<革新性>
『変風量コアンダ空調システム』『ダイナミックレンジ放射空調システム』の開発、この設備技術を反映した建築空間デザインや空調設備の工夫による建物高さ制限の克服、省エネに寄与するファサード設計など。
<運用・保守>
温熱環境等の一連の情報をユーザ向けに視覚化している点や、一連のシステムに関する施工後の測定・評価への取り組みなど。
<費用対効果>
省エネ化に加え、建物高さを抑えられたことによる建材削減で投資回収性を高めている。
<環境負荷>
CO2排出量やフロンの削減に取り組み、地球温暖化への影響を低減している。
<その他>
一連の開発への取り組みが明確であり、技術の特徴や設計の画期性が分かりやすく解説されている。
■『新菱神城ビル』の開発・導入技術について
【『変風量コアンダ空調システム』で、83%もの省エネと「+1階分」の床を生み出す】
『変風量コアンダ空調システム』とは、(1)「コアンダ効果」(空気が天井を這うように流れる現象)を利用した送風に、(2)風の強弱を問わず、空気を部屋の奥まで送り出せる「自律式風速一定吹出口※」を組み合わせたシステムです。従来のコアンダ空調では空気を遠くに届けるには常に大風量が必要でしたが、本システムでは弱風でも部屋の奥まで均一に空気を送り届けることを可能とし、83%もの送風動力の省エネ化を実現しました。
天井内の空調機器設置スペースが不要となり、天井高(2,800mm)を確保しつつも550mm/階を削減。これにより高さ制限下にある都心の中小オフィスビルでも「+1フロア」分の高さを創出でき、通常8階建てとなる本敷地で9階建てのビルが実現しました。
※ここで開発した自律式風速一定吹出口は『Air-Soarer』として特許及び商標取得済(特許第6453951号)。
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変風量コアンダ空調システム
変風量コアンダ空調システム…壁面上部より空気を送り出す。天井は空気を這わせるため、平滑な仕上げになっている。
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断面ダイアグラム
断面ダイアグラム。「+1フロア」で付置義務である住宅階を創出し、必要なオフィス面積を確保。
【初夏・晩夏の外気温でも冷凍機を使わずに空調用の冷水をつくる】
本ビルには『変風量コアンダ空調システム』に加えて『ダイナミックレンジ放射空調システム』が導入され、同じくダクトレス空調として、天井高さを効率的に確保できます。
この放射空調システムは、制御方法の工夫や独自の防食技術(Corro-Guard(R))の採用により、外気温度が30℃近い日でも、打ち水のような効果を用いて終日にわたり冷凍機を使用せず、外気冷却だけで冷房用の冷水をつくり出すこと(フリークーリング)を可能にしました。年間では全冷房期間中の70%に自然エネルギーを活用して冷房空調に利用しています。
【オールシーズンで省エネに寄与するファサードのデザイン】
『新菱神城ビル』前面のガラス張りのファサードは、オフィスユーザの昇降やコミュニケーションに寄与する階段室であると同時に、屋内外のバッファゾーンとして、オフィスの空調負荷の低減に寄与。オフィスの空気を吸い上げる自然換気用のチムニーや、夏期のダブルスキンとして機能します。
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ファサード内部の階段
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季節ごとのファサードの役割
■技術開発と今後の展開について
今回、国際的な機関から高評価を獲得した『新菱神城ビル』で導入した技術の多くは、新菱冷熱工業、三菱地所設計、芝浦工業大学秋元研究室の3者の共同研究による長年の実証実験などによって、より高水準の技術として確立してきたものです。建物運用後も表計算ソフト(Excel)と連携した最適熱源制御の開発に取り組むなど、導入技術の性能検証や応用技術開発を継続しています。ここで実証された技術を今後の設計・施工に広く展開し、脱炭素化に向けた技術を社会に発信してまいります。
■これまでの『新菱神城ビル』の評価について
『新菱神城ビル』は、これまでに多くの賞を受賞しています(導入した各種要素技術の受賞を含む)。
2020年5月:第18回 環境・設備デザイン賞 入賞 (主催:建築設備綜合協会)
『変風量コアンダ空調システムを実現する“Air-Soarer”』
2022年4月:第10回 カーボンニュートラル賞 受賞 (主催:建築設備技術者協会)
『新菱神城ビルの環境配慮技術』
本建物の空調システムに対し、脱炭素化に限らず、
階高の創出をもたらす等のメリットがあるものとして、
今後の中小規模オフィスのありように寄与・貢献することが
期待されることが評価されました。
2022年5月:第20回 環境・設備デザイン賞 入賞 (主催:建築設備綜合協会)
『新菱神城ビル』
2022年5月:第20回 環境・設備デザイン賞 入賞 (主催:建築設備綜合協会)
『ダイナミックレンジ放射空調システム』
2022年5月:第60回 空気調和・衛生工学会賞 技術賞
建築設備部門 (主催:空気調和・衛生工学会)
『新菱神城ビルの環境・設備計画』
自然エネルギーを最大限活用する
「ダイナミックレンジ放射空調システム」や
「変風量コアンダ空調システム」など独自の空調技術の
開発・検証プロセスや環境性能の高さなどが評価されました。
2022年5月:第60回 空気調和・衛生工学会賞 技術賞
技術開発部門 (主催:空気調和・衛生工学会)
『設備機器・配管の長寿命化を目指した無薬注型防食システムの開発』
設備の長寿命化を図る無薬注の防食システムであり、
新築建物だけではなく既存建物において既に発生した
腐食についても有効で、環境負荷低減にも繋がることが評価されました。
■建築概要
建物名称 :新菱神城ビル(しんりょうしんじょうビル)
所在地 :東京都千代田区神田多町2-9-2
用途 :事務所、住宅
構造形式 :地上S造、地下SRC造
竣工 :2020年7月
延床面積 :4619.55m2
階数 :地下1階、地上9階(3〜5階に変風量コアンダ空調システム、
6〜8階にダイナミックレンジ放射空調システムを導入)
各社の役割:新菱冷熱工業株式会社…計画・施工・開発・評価・検証
株式会社三菱地所設計…計画・設計・監理・開発・検証
芝浦工業大学 秋元 孝之 教授…評価・検証
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