プレスリリース
立命館大学スポーツ健康科学部の寺田昌史講師、伊坂忠夫教授、立命館グローバル・イノベーション研究機構の内田昌孝助教、立命館大学総合科学技術研究機構の菅唯志准教授らの研究グループは、スポーツ外傷・障害既往歴を有さないアスリートと比較して、足関節捻挫既往歴を有するアスリートにおける腸内細菌叢の種の豊富さ(species richness)が低いことを明らかにしました。本研究成果は、2022年2月11日、「Research in Sports Medicine」に原著論文としてオンライン版が公開されました。
本件のポイント
〇足関節捻挫は、日常生活や、運動、スポーツの中で最も頻繁に生じる運動器外傷である。
〇足関節捻挫は大した外傷ではないと軽視される傾向にあり、足関節捻挫の治療と予防の重要性について認識が低い。
〇足関節捻挫既往歴を有するアスリートにおける腸内細菌叢のspecies richnessが低かった。
〇対照群のアスリートと比較して、足関節捻挫既往歴を有するアスリートにおける腸内細菌叢の種の均等度(species evenness) およびβ多様性(サンプル間の腸内細菌叢の多様性)には差が認められなかった。
〇対照群のアスリートと比較して、足関節捻挫既往歴を有するアスリートのBacteroides FragilisおよびRuminococcus Gnavusの割合が高かった。
〇研究結果から足関節捻挫と腸内細菌叢との間に関係がある可能性が示唆された。
〇足関節捻挫は人々の健康に重大な影響を与える運動器外傷であるという認識をスポーツ現場ならび一般社会に広めていく上で重要なエビデンスである。
【研究の背景】
足関節捻挫は、我々の日常生活や運動、スポーツ活動中において最も発症頻度が高い運動器外傷の一つです。足関節捻挫は、姿勢の安定性を保つ能力の低下や、筋力の低下、主観的運動機能の低下など、心身に多様な機能障害をもたらします。近年、足関節捻挫がもたらす機能障害の一つとして、小脳における白質構造の変化をはじめ、足関節捻挫が脳の可塑性と高位中枢神経機能に悪影響を及ぼす可能性が着目されています。脳はさまざまな経路を介して、腸内細菌叢を含めた腸と双方的なネットワークを築いていることが明らかになっています。加えて、変形性関節症患者における腸内細菌叢の多様性が低下していることが確認されており、関節と腸が密接に影響しあう可能性が提唱されています。そこで、足関節捻挫に伴う脳の可塑性が腸内細菌叢の多様性に影響を及ぼす可能性を探索するため、本研究では、足関節捻挫既往歴を有するアスリートの腸内細菌叢の多様性について検証しました。
【研究内容】
本研究は、足関節捻挫既往歴を有する大学生アスリートと、スポーツ外傷・障害既往歴を有しない大学生アスリートを対象としました。試合や競技会のないオフシーズン期に、専用のキットを用いて、実験対象者の糞便を自己採取して提出するように依頼しました。採取した便から、腸内細菌叢の分析を行い、腸内細菌叢の多様度指数と腸内細菌群の占有割合を足関節捻挫既往歴群と対照群にて比較しました。解析の結果、足関節捻挫既往歴を有するアスリートにおける腸内細菌叢のspecies richnessが低かったことが確認されました。加えて、対照群のアスリートと比較して、足関節捻挫既往歴を有するアスリートのBacteroides FragilisおよびRuminococcus Gnavusの割合が高いことが明らかになりました。しかし、対照群と比較すると、足関節捻挫既往歴群の腸内細菌叢のspecies evennessおよびβ多様性には差が認められませんでした。
【今後の展開と社会へのインパクト】
足関節捻挫は、大した外傷ではなく「無理が出来る外傷」として軽視される傾向にあります。そのため、適切な治療・リハビリテーションが施されずに受傷患部の治癒が不完全な状態であっても早期に競技復帰する傾向があり、足関節捻挫の治療と予防の重要性について認識が低いと指摘されています。研究がさらに進み、腸内細菌叢と足関節捻挫の因果関係およびその機序が解明されれば、足関節捻挫は足関節周辺の運動機能だけではなく、人々の生命と健康に重大な脅威となる外傷であるという認識を高めることに繋がる可能性があります。また、腸内細菌叢と足関節捻挫の関係を明確にすることにより、足関節捻挫の治療やリハビリテーションの可能性を広げることができるかもしれません。腸内細菌叢の改善によって、心身の機能改善や足関節捻挫の再発予防に繋がれば、足関節捻挫の革新的な治療方法が生み出される可能性があります。
【論文情報】
題目:Altered gut microbiota richness in individuals with a history of lateral ankle sprain
著者:Masafumi Terada, Masataka Uchida, Tadashi Suga, Tadao Isaka
所属: 立命館大学 スポーツ健康科学部,立命館グローバル・イノベーション研究機構, 立命館大学 総合科学技術研究機構
雑誌: Research in Sports Medicine
DOI: 10.1080/15438627.2022.2036989.
URL: https://doi.org/10.1080/15438627.2022.2036989
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