プレスリリース
ベイン・アンド・カンパニーは、『M&A Report 2022』を2022年2月8日に発行いたしました。企業のディールメーカーが、企業変革のための新たな能力の獲得と迅速な規模の拡大のために熾烈な競争を繰り広げた結果、2021年のM&A総取引額は予想を上回る5兆9,000億ドルに達しました。白熱する市場において、評価倍率は企業価値/EBITDAの15.4倍と過去最高を記録し、特に技術系企業では、倍率が25倍となり、他のM&A市場とは一線を画しています。同様に、ヘルスケア業界の資産価値も高騰し、倍率の中央値は20倍となりました。
ベインが280人以上のグローバル企業の経営幹部を対象に行った調査では、市場の高騰にもかかわらず、89%が自社の2022年のディール活動は、2021年と同じか更に増加すると予測していることが明らかになりました。
2021年に企業主導のディールが47%増加した一方で、金融投資家、買収目的特別企業(SPAC)、ベンチャーキャピタル(VC)企業が関与するディールは100%以上増加しています。
現代のM&Aは非常に複雑化しており、ディールメーカーは、倍率の上昇やディールタイプの多様化に直面しています。M&Aを成功に導くためには、豊富な経験を積むことが重要です。ベインの調査によると、頻繁に買収を行う企業は、経験が浅く、明確なM&A戦略を持っていない企業よりも高い総株主利益率(TSR)を生み出していることが分かっています。
ベインの本M&A レポートでは、ディールメーカーの経営者がこの白熱した市場で成功するために正しく理解しなければならない3つの要素、すなわち人材確保、ESG、規制環境の変化について深く考察しています。また、15の業界別の視点と4つの国別の分析も含まれています。
これらの一部を本リリースで紹介します。
■人材確保
M&Aの経験者は、M&Aを成功に導くためには、明確なディール戦略を持つことの次に人材の確保の重要性を挙げています。M&Aは、従業員に不確実性や変化への不安を与え、他の選択肢を検討させる可能性があり、人材流出の危機を招くことが危惧されます。
ハイテク企業では、75%以上の経営幹部が、3年前よりも人材確保が難しくなっていると感じています。人材流出を防ぐためには、企業が買収と統合の両方の際、人材について積極的に取り組み、従業員の支持を得られるような強力で説得力のある将来ビジョンを同時に確立することが必要です。
■ESGへの取り組み
ESGは急速に経営の質を示す指標となりつつありますが、ディールメーキングのプロセスにおいてESGを定期的に幅広く評価していると答えたM&A担当役員はわずか11%に過ぎません。しかし、調査対象者の65%は、自社のESGを重視する傾向が今後強まると考えています。
例えば、消費財業界では、68%の経営幹部がESGをシェア拡大、ブランドイメージの向上、変化する消費者嗜好への訴求の機会として捉えています。エネルギー分野では、2021年の10億ドル以上のディール全体のうち、エネルギーシフトのためのディールが約20%を占めており、今後このようなディールが増えると予想しています。
企業は、ESGがディールバリューを押し上げる機会と捉え、包括的な企業のESG戦略をM&A戦略とリンクさせる必要があります。
■規制環境の変化
米国、西ヨーロッパ、中国では、独占禁止法の強化や国家安全保障への懸念の高まりにより、当初の計画を見直す必要が生じています。昨年は、政府の反対により、いくつかの大規模な取引が中止されましたが、来年はさらなる規制強化が予想されます。
■業界の展望
・テック系企業
M&A戦略ディール額は2016年以降64%増と驚異的な伸びを示し、2021年には総額708Bドル近くに達し、全戦略M&Aの約19%を占めています。 大手テック企業はコアビジネスの成長に欠かせない新たな機能を追加するために、毎年数十社の小規模な企業を買収しています。ベインの調査によると、現在、大手ハイテク企業のM&Aの96%は、取引額5億ドル以下の案件であり、買い手は買収する企業の文化や能力を維持することで人材流出を防ぐことが重要となります。
・ヘルスケア
2021年の戦略的ヘルスケアM&Aのディール総額は、2020年から44%増の4,400億ドルとなりコロナ前の水準に戻りました。2022年は、特殊医薬品やバイオシミラーへの注目が高まり、医療機関システムの統合が進み、メドテック企業がカテゴリーリーダーになるための案件を狙い、中小規模の製薬会社が引き続き市場で大きな役割を果たすことが予測されます。
・消費財
既存の大手消費財メーカーにとって、M&Aは成長するための重要な手段となっています。消費財企業におけるM&A取引件数では、小規模なブランド取引は、10年前は50%未満でしたが、現在では75%を占めています。ベインの調査によると、頻繁に買収を行う消費財企業は、業界平均の2倍の売上成長率で、同業他社を上回っていることが分かっています。
・通信
通信業界のM&A動向は2021年に劇的に回復し、ディール額は48%増加しました。2021年の通信業界M&Aの大部分は、国内統合などの規模拡大を追求するスケールディールが占めています。従来型のM&Aではなく、買収先企業が買収された後もリテールレベルでの独立性を維持しながらも、ネットワークの統合によるシナジー効果が期待できるような新しい形態での取引が増えています。
・銀行
低金利が続き、経済が不透明な時代に収益を伸ばすことは困難であるため、M&Aは特に重要な成長手段として位置付けられています。現在では、銀行業界の収益成長率の35%がM&Aからくるものであり、今後数年で50%を占める可能性があります。しかし、M&A環境が過熱するにつれ、伝統的な銀行は、プライベート・エクイティ企業や、資金力のあるデジタル・ネイティブ銀行、テクノロジー企業による伝統的な銀行買収などの新しい脅威にさらされることになります。
・自動車産業
世界的な半導体チップ不足、その他コロナの影響が残る中、自動車のM&Aは2021年に2倍以上に増加しました。今後、電動化、デジタル化、自動化などの劇的な変化により、スピード感をもって新たな能力を獲得する必要があるため、自動車のM&Aが再び成長軌道に戻ると予想しています。
■複雑化する日本のM&A環境
2021年に国内で行われた大型M&A案件50件のうち、8件は買収側の事業ポートフォリオ変革を目的としたアウトバウンド案件(日本企業による海外企業買収)でした。アウトバウンドは、過去5年間でディール総額の40%を占める重要なトレンドですが、加えてこのような変革型M&Aが増加してきたことは特筆に値します。
変革型M&Aの例としては、2021年における日本最大のディールとなった日立によるグローバルロジックの買収が挙げられます。この買収は日立のポートフォリオ戦略に重要な意味を持ち、グローバルロジックの差別化されたデジタルエンジニアリング能力を利用することで、日立が注力しているLumadaというIoTソリューションの成長を加速させることが目的でした。
そして、ほぼ同じ割合で、日本企業は将来の自社戦略の中核から外れる事業を売却しており、「祖業」に位置づけられるような旧来のコア事業もその対象となっています。これまで、日本のコングロマリット企業は買収に積極的である一方、将来の自社の戦略に合わなくなった事業の売却には消極的でしたが、この傾向も変わりつつあります。
このような事業の買い手として、グローバルに活動するプライベート・エクイティ・ファンドの活動が非常に活発になっていることもこのトレンドを後押ししています。
■「変革型」M&Aにおける課題
一方、「変革型」M&Aは、その性質上、スコープディール(既存事業のスケール拡大ではなく、新たな事業やケイパビリティを獲得するディール)かつ、クロスボーダー案件であることが多く、難易度が高いという点は意識をしておく必要があります。
スコープディールである以上、何を目指してM&Aをするのかというディールの目的を明確化し、買収先企業の人材や文化も含めた強みや独自性をしっかりと活かすということも重要となります。
また、過去、日本企業のクロスボーダー案件では、20%が簿価の減損に終わり、さらに10%は撤退または低価で売却されてきていることがベインの調査で分かっています。その背景には、日本企業の高値づかみ傾向(世界平均より40%も高いプレミアムを支払っている)が挙げられます。リスクを避けるうえでは、明確なM&A戦略とディールプレイブックを持ち、ターゲットを選別し、綿密なデリジェンスを行い、統合するためのノウハウを積み上げることがM&Aを成功に導くために極めて重要です。
【ベイン・アンド・カンパニーについて】
ベイン・アンド・カンパニーは、未来を切り開き、変革を起こそうとしている世界のビジネス・リーダーを支援しているコンサルティングファームです。1973年の創設以来、クライアントの成功をベインの成功指標とし、世界38か国63拠点のネットワークを展開しています。クライアントが厳しい競争環境の中でも成長し続け、クライアントと共通の目標に向かって「結果」を出せるように支援しています。ベインのクライアントの株価は市場平均に対し約4倍のパフォーマンスを達成しており、私たちは持続可能で優れた結果をより早く提供するために、様々な業界や経営テーマにおける知識を統合し、外部の厳選されたデジタル企業等とも提携しながらクライアントごとにカスタマイズしたコンサルティング活動を行っています。
商号 : ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン・インコーポレイテッド
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