プレスリリース
芝浦工業大学(東京都港区/学長 山田純)システム理工学部生命科学科・越阪部教授ら研究チームは、ココアやワインに多く含まれるフェノール性物質であるカテキン重合物画分の経口投与が、交感神経系の活性化を介して、燃焼型であるベージュ脂肪細胞を増加させることを実証しました。
燃焼型脂肪細胞である褐色またはベージュ脂肪細胞は、脂肪を分解し、熱として体外に放出することが知られています。カテキン重合物を効果的に食事に取り入れることで、燃焼型脂肪細胞が増え、体内の余分な脂肪を燃焼させることで、肥満や心臓病の予防に役立つ可能性を示しました。
※この研究成果は、「Nutrients」誌オンライン版に掲載されています。
【ポイント】
●カテキン重合物画分(フラバン-3-オール)の経口摂取が交感神経系を活性化し、白色脂肪の褐色化を促進
●ココアやワインなどの効果的な摂取が肥満や心臓病予防に役立つ可能性
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/293788/LL_img_293788_1.jpg
図1. カテキン重合物で脂肪を褐色化させる
対照マウス(左)とカテキン重合物投与マウス(右)の鼠径部脂肪組織の病理組織学的観察結果
カテキン重合物を繰り返し投与すると、白色脂肪サイズが顕著に縮小し、細胞の大部分を占めていた脂肪滴が多房化する(矢印)といった、ベージュ脂肪細胞に特異的な変化が認められた。
Repeated Oral Administration of Flavan-3-ols Induces Browning in Mice Adipose Tissues through Sympathetic Nerve Activation, OSAKABE et al, Nutrients 2021, 13(12),
■研究の背景
脂肪細胞には脂肪を蓄積する白色脂肪細胞、熱を産生する褐色脂肪細胞、そして近年発見されたベージュ脂肪細胞があります。白色脂肪細胞は体内の余分なエネルギーを蓄える細胞であり、褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞は、脂肪を燃焼させて熱として体外に放出する細胞です。寒冷環境下では、一時的に交感神経が活性化することによって、褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞が熱を発生して体温を保ちます。これは褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞には、熱産生タンパク質である脱共役タンパク質(Uncoupling protein; Ucp-1)を含むミトコンドリアが多いためです。また寒冷環境が続くと、ベージュ脂肪細胞が増加することが知られています。
寒冷暴露だけでなく、運動、カロリー制限などの適度なストレスも、交感神経系を刺激しベージュ細胞を増やすことがよく知られています。
一方、食事中のカテキン重合物には、肥満に伴う高血圧・高血糖・脂質異常などのメタボリックシンドロームのリスクを低減させることが報告されています。しかしながら、その作用機構は今までよくわかりませんでした。
本研究では、ココア、リンゴ、ブドウ種子、赤ワインに豊富に含まれるカテキン重合物画分(フラバン-3-オール)の摂取によって誘発される脂肪の変化を調べ、またカテキン重合物が交感神経を活性化するかどうかについて検討しました。
■研究概要
研究チームは以前、カテキン重合物の単回経口投与が脂肪燃焼の亢進と骨格筋血流の増加を引き起こすことを発見しています。今回は、マウスの脂肪組織におけるカテキン重合物画分の反復投与の効果を調査しました。マウスを2つのグループに分け、カカオ由来のカテキン重合物を2週間与えました。カテキン重合物を与えられたマウスの皮下脂肪では、対象マウスとの比較において、図1に示したように、ベージュ脂肪細胞の特徴である細胞サイズの顕著な縮小と脂肪滴の多房化が見られました。また、熱産生タンパク質UCP-1の発現が増加していました。引き続き、研究チームはカテキン重合物を単回経口投与した後のマウスの尿を採取し、交感神経活動亢進に伴って分泌されるノルアドレナリン・アドレナリンの排泄量を測定しました。
その結果、カテキン重合物の投与により、これらの排泄量は顕著に増加することを見出しました。交感神経の活性化を評価するための尿サンプルの使用は、臨床研究においてはまだ議論の余地がありますが、ストレスに暴露されたマウスでは明らかに増加することが確認されています。本研究におけるカテキン重合物の経口投与は、適度なストレスを生体に与え交感神経活動亢進作用を示すことによって、心血管系や代謝系の維持・改善に有益であると考えられました。
■実験結果と今後の展望
この研究の結果は、カテキン重合物を食生活に取り入れることで、生活習慣病の予防に役立つ可能性を示唆しました。運動と同様に、カテキン重合物の摂取に応じて交感神経活動が亢進し、マウスの脂肪細胞に変化をもたらしました。一方、カテキン重合物は経口摂取しても、体内に吸収されないことから、これらの効果がどのように発現するかについて理解するためには、さらなる研究が必要です。
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図2. カテキン重合物の脂肪褐色化メカニズム仮説(越阪部教授提供)
■研究助成
本研究はJSPS科研費(JP19H04036)の助成を受けたものです。
■論文情報
著者 :芝浦工業大学システム理工学部生命科学科 教授 越阪部奈緒美
芝浦工業大学大学院修士課程 石井結子
芝浦工業大学大学院修士課程 牟田織江
芝浦工業大学大学院修士課程 手島知洋
芝浦工業大学大学院修士課程 平嶋那由多
芝浦工業大学システム理工学部生命科学科 尾高南結
芝浦工業大学大学院博士(後期)課程 伏見太希
芝浦工業大学大学院博士(後期)課程 藤井靖之
論文名:Repeated Oral Administration of Flavan-3-ols Induces Browning in Mice Adipose Tissues through Sympathetic Nerve Activation
掲載誌:Nutrients
DOI :10.3390/nu13124214
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
日本屈指の海外学生派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の理工系大学です。東京都とさいたま市に3つのキャンパス(芝浦、豊洲、大宮)、4学部1研究科を有し、約9千人の学生と約300人の専任教員が所属。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。
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